魅了スキルはズレていた!〜異世界転生した俺のチートな日常〜
その日、俺は落ちてきた鉄骨の真下にいた。
俺――進藤悟、職業:自由業、年齢:三十代、未婚、彼女いない歴=年齢、はごく普通に町を歩いていた。天気は快晴。昼飯をコンビニで済ませ、少し遠回りして帰宅する途中のことだった。
「……ん?」
カンカンカン、とけたたましい音が響く。振り仰いだ瞬間、工事中のビルから何かが――でかい鉄骨が、こちらに――
ドカン!
◆ ◆ ◆
「……え、死んだ?」
次に目を覚ました場所は、白くフワフワした空間だった。足元には何もなく、どこまでも乳白色の靄が立ち込めていて、重力の感覚すら曖昧だ。
「やあやあ、お気の毒だったね」
ぴかーっと光る謎の存在がふわっと現れた。ヒゲもローブも光っている。背中に輪っかまである。テンプレな神様じゃねーか。
「お前は本当は死ぬはずではなかったのだよ。完全にミス。鉄骨の落下は管理の不備だったのだ」
神様が平謝りする。どうやら事故は“神様側の手違い”だったらしい。うん、知らんけどめっちゃ理不尽だ。
「そこでだ。お詫びとして、転生の特典をプレゼントしよう。好きな世界を選び、好きな能力を与えてあげる」
へ?なにそれ、いきなりすぎて逆に疑う。けどまあ、ゲーム脳な俺の頭はすぐにテンプレを引き出した。
「魔法のある世界で、女の子にモテたいです!あ、あとチートスキルと魅了能力ください!」
「うむ、了解。記憶もそのままでよかろう。行ってらっしゃい!」
「えっ、ちょ、待っ――」
◆ ◆ ◆
――ドサッ。
森だった。緑と土と風と、かすかに花の香り。
「……え? マジで転生した?」
手足を確認、体はしっかりしてる。なにこの健康ボディ。肌つや良すぎ。
「……って、こういう時は、アレか」
おそるおそる、俺は声に出してみた。
「ステータスオープン!」
ぱあっ、と目の前に光のパネルが展開される。うぉお、出た!ゲームだ、これ完全にゲームだ!
………………………………………………
【進藤 悟】
HP:10000/10000
MP:10000/10000
スキル:水魔法、火魔法、風魔法、土魔法、光魔法、魅了
………………………………………………………
「おお!すげー!全部あるぜ!チートスキル!神様ありがとう!」
◆ ◆ ◆
怒りと動揺とがごちゃ混ぜのまま、俺はとりあえず町を目指して森を歩き始めた。
しばらく進んだ頃だった。
「ブゴオオォ!」
茂みから現れたのは、豚のような体に一本のツノを生やした化け物だ。目は血走っていて、口からは泡が飛び散っている。
「うわっ、やべぇやつ!」
全身からあふれる殺気。逃げる暇もない。俺はとっさに両手で顔をかばった。
「く、来るなあああああっ!!」
しかし。
何も起きない。
恐る恐る指の間から覗いてみると、豚モンスターは――
「……スリスリ?」
足元に頭をこすりつけて、ブヒブヒ言ってる。甘えてる?え?え?
おそるおそる手を伸ばして撫でてみた。すると豚は目をとろんとさせて身を預けてくる。
「え?これって……魅了?」
再びステータスを開いて確認。
「……って、え?」
最後の一行が目に刺さった。
「魅了(魔物・家畜動物メス限定)ってなにィィィ!?」
がっくりと肩が落ちた。
「違うんだ……俺は、女の子にモテたいって言ったんだ……!」
神様ァァァァ!!
◆ ◆ ◆
豚のプーコ(俺命名)を連れて町にたどり着いた俺は、さらに事態の深刻さを知る。
道中、遭遇するモンスターはすべてメスで、すべて俺に骨抜き。
巨大な蛇、目を潤ませてスリスリ。
野生のケンタウロス、うっとりしながら俺の髪をなめる。
それだけならまだしも、町に入ってからも動物たち(乳牛・山羊・犬・猫)が、俺を見つけるたびに群がってくる。
「ひ、ひいいっ!助けてくれぇ!」
全力で逃げる俺。その背後に、すさまじい速度で迫る家畜軍団。
町の人々は恐怖した。
「あいつが……動物を狂わせる魔人か……!」
そう、俺はこの世界で――
『獣魅の呪い男!』
として認知されることになったのだ。
◆ ◆ ◆
だが、転生生活はここで終わらない。諦めない俺は、ある日冒険者ギルドに登録した。
「女の子にモテるには、やっぱり実績と地位だ!」
そう、見た目は三十代でも、ステータスはチート。魔法も使えるし、プーコたちは使い魔として超優秀だ。特に戦闘になると、あの豚が信じられない力を発揮する。
「やれ、プーコ!」
「ブゴォオォォ!」
炸裂する爆炎スピンアタック。魔物が三体吹き飛んだ。
そんな俺を見て、ついに現れたのだ――
「こ、こんにちは……あの、ギルドで噂になってて……一緒に冒険してもいいですか?」
現れたのは、小柄で眼鏡をかけた女魔法使い。年は十六、見た目は真面目そうで、だが内面は天然っぽい。
名前は――リーネ。水属性の回復魔法が得意。
「俺とパーティ組むと、動物にめっちゃ懐かれるけど大丈夫?」
「えっ? 動物大好きです!」
即答だった。彼女は本当に動物好きで、俺の後ろをついてくるプーコを見ては「かわいい~」と目をキラキラさせる。
やがてギルドでの成績が評価され、町の人々の誤解も少しずつ解けていった。
気づけば、リーネと俺は名コンビと呼ばれるようになっていた。
ある夜、焚き火を囲んで並んで座る。
「進藤さんって……ほんとは女の子にモテたくて、魅了スキル取ったんですよね?」
「え、な、なんで知って――」
「うふふ、なんとなく。じゃあ、私が女の子第一号でいいですか?」
そう言って、リーネはちょっとだけ俺の肩に頭を預けてきた。
魅了スキルは外れだった。でも――
「うん、それなら……悪くないかもな」
異世界転生、最初はとんだ誤解から始まったけど。
今では、ちょっとだけ――この世界が好きになってきた。
〜完〜