2-3 遊園地編・幻の記憶
翔は美咲と険悪な空気のまま遊園地を後にし、一人で歩き続けた。頭の中には美咲の言葉がぐるぐると回り、心の中で怒りと悲しみが交錯していた。
「どうして信じてくれないんだ…」翔は自問しながら、人気の少ないエリアに足を運んだ。そこには古びたメリーゴーラウンドが静かに佇んでいた。
翔はその場に腰を下ろし、深い溜息をついた。ふと、足音が近づいてくるのを感じた。顔を上げると、そこには神谷蓮が立っていた。
「またお前か…」翔は苛立ちを隠せずに言った。
「君が一人でいるとは思わなかった。」蓮は冷静に言った。
「何しに来たんだ?俺をさらに混乱させるためか?」翔の声には怒りが滲んでいた。
「違う。君が混乱しているのは分かっている。だからこそ、真実を伝えに来た。」蓮は静かに翔に近づいた。
「真実だって?昨日のことが本当だったのか?」翔は蓮を睨みつけながら尋ねた。
「そうだ。昨日のホテルでの出来事も現実だったし、美咲が言っていたように君と勉強していたことも現実だ。」蓮の言葉は重く響いた。
「どういうことだ?両方が現実なんてあり得るのか?」翔は困惑した表情で蓮を見つめた。
「それは、君が並行世界を行き来する能力を持っているからだ。」蓮は静かに説明した。
「並行世界…?」翔は驚きと戸惑いの中で繰り返した。
「そうだ。君は特定の条件下で、異なる世界に移動することができる。その結果、昨日のホテルに行った君の世界と、美咲と勉強していたこの世界の両方が現実として存在する。」蓮は真剣な表情で続けた。
「なんだって…」翔は頭を抱え、混乱を隠せなかった。
「ホテルに行った君の世界では、今でも至る所でホテル殺人事件のニュースが報じられている。しかし、この世界ではその事件は起きていない。」蓮は冷静に説明した。
「じゃあ、俺はどうすればいいんだ?どっちの世界が本当の現実なんだ?」翔は必死に問いかけた。
「どちらの世界も君にとっての現実だ。君がその力をどう使うかが重要だ。」蓮は少し微笑みながら言った。「君の力は世界を救うために必要とされている。」
「でも、俺はそんな力を持っていることすら知らなかった…」翔は困惑と不安を隠せずに言った。
蓮との話を終えた翔は、心の中に新たな決意を抱きながら美咲を探し始めた。彼女に真実を伝え、再び信じてもらうためには、彼の力について説明する必要があった。遊園地内を歩き回ると、美咲がまだベンチに座っているのを見つけた。
「美咲!」翔は声をかけ、急いで駆け寄った。
「翔…」美咲は驚いた顔で彼を見たが、その目にはまだ疑念が残っていた。
「美咲、話を聞いてくれ。俺にはすごい能力があるみたいなんだ。並行世界を行き来する力があって、昨日のホテルでの出来事も現実だったんだ。」翔は息を切らしながら、一気に話した。
美咲は一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに険しい顔つきに変わった。「またその話?もう夢の話はうんざりだよ、翔。」
「違うんだ!これは現実なんだ!」翔は必死に訴えた。
「何度も言うけど、私には信じられない。昨日だって、私たちは一緒に勉強してたんだから!」美咲は苛立ちを隠さずに言った。
「それも現実なんだ。俺が並行世界を行き来してるから、両方が本当なんだ!」翔の声は次第に大きくなった。
「もういい加減にしてよ!」美咲は怒りに任せて叫んだ。「そんな馬鹿げた話、誰が信じるっていうの?」
「俺が嘘をついてるとでも思ってるのか?」翔は拳を握りしめた。
「そうじゃない、でも…」美咲の口調は次第に変わり始めた。「あなたの話は現実離れしすぎていて、信じることなんてできないわ。」
翔はその変化に気付き、驚いた。「美咲…?」
「あなたはただの夢見がちな少年なのよ。現実を見て、普通に生きることを考えなさい。」美咲の声は冷たく、まるで別人のようだった。
「何が起こってるんだ…?」翔は混乱しながら美咲を見つめた。
「もうこんな話、聞きたくないの。」美咲の表情は冷たく、瞳にはどこか陰りがあった。
「美咲、本当に信じてくれないのか?」翔は悲しみと怒りの入り混じった声で問いかけた。
「もうやめて。あなたの話に付き合うのは限界よ。」美咲の声は完全に別人のように変わり、冷酷さが漂っていた。
翔はその変化にショックを受け、言葉を失った。彼の中で信頼していた美咲が、まるで別の人物のようになってしまったことに戸惑いと恐怖を感じた。
「どうして…どうしてこんなことに…」翔は呟きながら、後ずさりした。
「翔、もう一度言うけど、あなたの話を信じることはできない。現実を見て、生きることを考えて。」美咲の言葉は冷たく、突き放すようだった。
美咲の変わった口調と態度が、彼の心にさらなる重荷を加えていた。