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1-2 新たな日常の始まり

校庭での神谷蓮とのやり取りが頭から離れないまま、翔は教室に戻った。「選ばれし者」「運命の戦い」――それらの言葉が意味するものは何なのか。日常が一瞬にして非日常へと変わり始めたような感覚に囚われていた。


授業中も、翔の心は神谷蓮の言葉にとらわれていた。黒板に書かれた数式や教師の声は遠く感じられ、ただひたすらに頭の中で思考が巡る。蓮が言っていた「覚醒」とは一体何を意味するのだろうか。


「翔、大丈夫?顔色悪いよ。」隣の席に座る美咲が心配そうに囁いた。


「うん、ちょっと考え事してただけだ。」翔は無理に笑顔を作り、心配させないようにした。


美咲はそれ以上追及しなかったが、翔の様子を注意深く観察していた。昼休みの出来事が、彼の心に大きな影響を与えていることを感じ取っていたのだ。


放課後、翔は一人で図書室に向かった。神谷蓮が言っていたことについて調べようと決めたのだ。静かな図書室の中、翔は古い書物の棚を漁りながら、何か手がかりを探していた。


「選ばれし者…運命の戦い…」翔は小声で呟きながら、一冊の古びた本を手に取った。それは「異能の力とその歴史」と題された書物だった。


ページをめくると、そこには異能の力を持つ者たちの歴史が記されていた。古代から続く戦い、選ばれし者たちの運命。そして、彼らがどのようにして覚醒し、力を得たのか。


「これが…本当のことなら…」翔は本の内容に驚愕しながらも、徐々に全てが繋がっていくような気がしていた。


その時、不意に誰かが背後に立っている気配を感じた。振り返ると、そこには再び神谷蓮が立っていた。


「君も調べ物か。」蓮は無表情で言った。


「君の言ったことが気になって、少し調べてみたんだ。でも、これが本当に現実のことなのか信じられない。」翔は正直に答えた。


「信じるかどうかは君次第だ。しかし、運命は変わらない。君がその力を得る日は近い。」蓮の言葉には揺るぎない確信があった。


「どうすればその力を得られるんだ?」翔は思わず問いかけた。


「それは君自身が見つけ出さなければならない。だが、覚えておいてほしい。君は一人ではない。仲間がいる。」蓮はそう言うと、静かに図書室を後にした。


翔はその言葉に一瞬の安堵を覚えたが、同時にさらなる疑問が湧き上がってきた。仲間とは誰なのか。そして、彼が果たすべき役割とは一体何なのか。


その夜、翔はベッドに横たわりながらも眠れぬまま考え続けた。新たな日常が始まったばかりのはずが、彼の心は既に大きな戦いの渦中にあった。何かが変わり始めている。翔はそれを感じながら、静かに目を閉じた。


翌朝、翔は重い瞼を開けて、昨日の出来事が夢であってほしいと願った。しかし、現実は容赦なく彼に迫っていた。神谷蓮の言葉が何度も頭の中で反芻され、心の中に疑念が膨れ上がっていた。


学校に着くと、美咲が待っていた。彼女は翔の顔を見るなり、心配そうに声をかけた。


「翔、昨晩はちゃんと眠れた?」


「うん、まあなんとか。」翔は曖昧に答えたが、その表情には疲労が滲んでいた。


教室に入ると、いつもと同じように友人たちが談笑していた。しかし、翔の心は平穏ではなかった。授業中も、神谷蓮の言葉が頭から離れず、心の中で不安が渦巻いていた。


「君が選ばれし者だというのは、どういうことなんだ?それに、覚醒って一体…」翔は心の中で何度も問いかけた。


昼休み、美咲と一緒に屋上に向かう途中、翔は突然立ち止まった。美咲が驚いて振り返る。


「翔、どうしたの?」


「もう我慢できない。」翔の声は低く、しかしその中には強い決意が感じられた。


「何があったの?何を我慢できないって…」美咲は困惑しながらも、真剣に翔を見つめた。


「昨日のことだよ。神谷蓮が言ったこと…あれが本当なら、俺の人生は大きく変わってしまう。でも、それが一体何なのか、何を意味するのか、何もわからないんだ!」翔の声が次第に大きくなり、感情が爆発しそうになっていた。


「翔、落ち着いて。私たちが一緒に解決していけばいいんじゃない?」美咲は優しく声をかけたが、翔の怒りは収まらなかった。


「一緒に?君には何もわからないだろう!これは俺一人の問題なんだ!」翔は叫び声を上げた。


美咲は一瞬言葉を失ったが、やがて静かに口を開いた。「翔、確かに君の問題かもしれない。でも、私たちは仲間だよ。どんな困難があっても、君を支えるから。」


その言葉に、翔は少しだけ冷静さを取り戻した。しかし、心の中の疑念と不安は消え去らなかった。怒りと混乱が交錯し、彼の心を支配していた。


放課後、翔は一人で校庭に向かった。昨日と同じように、神谷蓮が待っているはずだった。しかし、そこには誰もいなかった。翔は苛立ちを隠せず、地面を強く蹴った。


「何なんだよ、全部!」翔は声を荒げた。


その時、静かに近づいてくる足音が聞こえた。振り返ると、そこには神谷蓮が立っていた。


「佐藤翔、君の疑念と怒りは理解できる。しかし、今は冷静さを保つことが重要だ。」蓮の声は冷静で、しかしその中には強い決意が感じられた。


「冷静だって?君が言ったことが何を意味するのか、何一つ説明してくれないのに、どうやって冷静でいられるんだ!」翔の怒りは再び燃え上がった。


「君には時間が必要だ。そして、私も君を完全に理解するための時間が必要だ。しかし、覚えておいてほしい。君は一人ではない。私たちは共に戦う仲間だ。」蓮はそう言って、静かに翔の肩に手を置いた。


翔はしばらく黙っていたが、やがて深呼吸をし、少しずつ冷静さを取り戻した。「わかった。君の言うことを信じるしかないのかもしれない。でも、俺はまだ全てが理解できないんだ。」


「それでいい。理解は時間と共にやってくる。今はただ、自分を信じ、準備を進めるんだ。」蓮の言葉は重く、しかし確かなものだった。


翔はその場で立ち尽くしながら、少しずつ心の中の混乱と戦う決意を固めていった。彼の運命は既に動き出していた。これから何が待ち受けているのかはわからないが、翔はそれに立ち向かう覚悟を決めた。

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