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1-1 新たな日常の始まり

春の柔らかな日差しが、桜の花びらを照らしながら舞い散っていた。高校の校門をくぐるたび、毎年のように新しい期待と緊張が胸をよぎる。今年もまた、その季節がやってきた。


主人公である佐藤翔は、校門前で足を止め、大きく息を吸い込んだ。高校2年生に進級したばかりの彼は、平凡な学生生活を送ることを望んでいた。しかし、今年はそうはいかない予感がしてならなかった。


「翔、おはよう!」


明るい声が背後から聞こえ、翔は振り返った。そこには幼馴染の中村美咲が立っていた。彼女は短い髪を風になびかせながら、笑顔を浮かべている。


「おはよう、美咲。今日も元気そうだな。」


「もちろん!新学期の始まりだもん。楽しみなことがいっぱいだよ。」


翔は微笑みを返しながらも、心の奥底にある不安を拭い去ることができなかった。昨年の終わりに起こった奇妙な事件、そしてその後に彼のもとに届いた一通の手紙。その内容が頭から離れなかった。


手紙にはこう書かれていた。


「選ばれし者よ、運命の戦いが君を待っている。」


それが何を意味するのか、翔には全く見当がつかなかった。しかし、平穏な日常はもう戻らないのだろうと直感していた。


「翔、どうしたの?ぼーっとして。」


美咲の声に我に返った翔は、慌てて笑顔を作った。


「いや、なんでもないよ。さあ、行こうか。」


二人は並んで校舎へと向かった。新たな日常の始まりが、彼らを待ち受けていた。


教室に入ると、既に多くの生徒が席についていた。皆、新しいクラスメイトと談笑し、新学期の始まりに期待と不安が入り混じった様子だった。翔と美咲は、窓際の席に座ることにした。


「ねえ、翔。昨日のテレビ見た?あの怪奇現象の特集、すごかったよね!」美咲が興奮気味に話し始めた。


「うん、見たよ。でも、あれって本当に起こってることなのかな?」翔は曖昧に答えながら、自分のデスクに教科書を並べた。


「もちろん!あんなに具体的な証拠があるんだから。何か大きなことが起こってるんじゃないかな。」美咲の目は輝いていた。


翔は黙って頷きながらも、心の中ではその怪奇現象と自分に届いた手紙が関係しているのではないかという疑念が湧いていた。考えれば考えるほど、答えの見つからない謎に囚われてしまう。


その時、教室のドアが開き、一人の生徒が入ってきた。彼は長身で、冷ややかな目をしていた。黒い髪を整え、無表情な顔で教室内を見渡している。


「誰だろう、あの子?」美咲が囁いた。


「知らないな。見たことない顔だ。」翔も視線を向けた。


新しく転校してきた生徒は、教師に名前を告げ、黒板に「神谷蓮」と書いた。クラス全員の視線が一斉に彼に注がれたが、蓮は特に気にする様子もなく、教室の後ろの席に向かった。


「神谷くんって、どんな人なんだろうね。」美咲が興味津々に呟いた。


「さあね。でも、何か特別な理由があってここに来たのかもな。」翔は無意識に手に持っていた手紙を握りしめた。


授業が始まると、翔はなんとか集中しようと努めたが、やはり気になることばかりで頭がいっぱいだった。特に、神谷蓮の存在は異質な感じがしてならなかった。


昼休みになり、翔と美咲はいつものように屋上へ向かった。二人にとって、ここは唯一の安らぎの場所だった。桜の花びらが風に舞う中、二人はお弁当を広げた。


「やっぱり屋上は最高だね。」美咲が嬉しそうに言った。


「そうだな。ここだけは、何もかも忘れられる気がする。」翔も同意した。


しかし、その瞬間、屋上のドアが開き、神谷蓮が現れた。彼は無言で二人に近づき、じっと翔を見つめた。


「君が佐藤翔か。」蓮が口を開いた。


「そうだけど、君は?」翔は驚きながらも、冷静を装って答えた。


「神谷蓮。君に伝えなければならないことがある。ここでは話せない。放課後、校庭で待っている。」蓮はそう言うと、再び屋上を後にした。


「何だったんだろう…」美咲が不安そうに翔を見つめた。


「わからない。でも、行くしかないだろうな。」翔は決意を込めて答えた。


その日の放課後、翔は一人校庭に向かった。夕暮れが差し込み、影が長く伸びる中、神谷蓮が静かに立っていた。彼の姿を見て、翔は心の中の不安と緊張が一層強まった。


「神谷君、何が言いたいんだ?」翔が近づいて尋ねた。


「君は選ばれし者だ。これから君には、運命の戦いが待っている。」蓮の言葉は冷たく、しかし確信に満ちていた。


「選ばれし者?それはどういう意味だ?」翔はさらに問い詰めた。


「それは、すぐにわかる。君が覚醒する時が来るまで、準備をしておけ。」蓮はそう言い残し、翔を残して去っていった。


翔は立ち尽くしながら、手に持った手紙を再び見つめた。運命の戦いが始まろうとしていることを、彼はまだ信じられなかった。しかし、その運命から逃れることはできないと悟り始めていた。

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