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SF的検証とか全く必要としないのは、主人公の設定に因る処は大きいでしょうが。
何しろ、どんな物理法則も、それどころか、如何なる理も通用しないという設定なのですから。
…「殺すとか壊すということに関してのみは」ではあっても……。
〈“光”の前では我々は、いや、何もかもが無力だ。太刀打ち出来る術などありはしない。それこそ我々の存亡に繋がりかねん。そのような可能性は今のうちに完全に排除しておかなければならない。それが上の判断であり、私もその見解に賛成だ。研究も彼一人いれば十分だ。あの惑星は何から何まで信じられないほどに太古の我々のチキュウに酷似している。だがそれ故に我々が必要とするものは他に何もない。ただ彼一人を除いて〉
「くそっ!」
久志は怒り、ベッドから跳ね起きると、扉に向かって突進した。しかし扉は開かない。勢いよくぶつかって床に跳ね飛ばされた。鼻血を左手で拭いながら、もう一度肩から激突したが結果は同じだった。
「ちくしょう!」
ガン。
扉をおもいっきり殴った。
「くそ!」
扉はびくともしない。
〈それにしても、どうして彼にはそれが見抜けなかったのでしょうか? あの時点ではまだ“光”の能力を備えていたというのに〉
〈それは“光”というものの性質と彼の意識のあり方に因る。我々は“光”である彼を敢えて我々の宇宙艦隊を見せつけるようにして出迎えた。この時、“光の主“が本能的に察知すること、最大の関心事は、「この状況が敵の罠か否か」であり、「この艦隊を向こうにまわして勝ち残れるか否か」だ。艦隊に彼の母星を攻撃する意図があるかないかではない。意識してそれを探ろうとすれば可能だったろう。だが、眼の前に存在する艦隊の存在感に、いちチキュウ人の意識しか持たぬ彼は圧倒された。そこまで気がまわらなかった。将校達全員が取り囲むようにして彼を迎えたのも、礼を尽くす意味もあったが、同じ効果を狙ってのものだ。「彼ら全員を相手にして生き残れるか否か」、この点に意識を集中させる必要があった。ましてや、彼はその中で自ら丸腰になろうというのだ。“光”の実力を知らぬ、見合わぬ、意識、認識が支配している者を、それ以外の点で欺くことはさして難しいことではないということだ。いずれ意識や認識が実力に追いつく頃には、彼にとっても、こんなことは過去のささやかな、取るに足りない記憶の一つでしかなくなっているだろう〉
ガン! ガン! ガン! ガン! ガン! ガン! ガン!
久志は両手で扉を連打した。
「うっ」
鈍い音とともに握っていた右手が砕けた。それでも久志は両手を打ちつける。叩き続けることを止めない。皮膚が裂け、鮮血が飛び散る。久志は絶叫し、更に扉を叩き続けた。
「ラボに異変。彼が全身に白い光を帯びています!」
「ただちに非常警報を発令しろ!」
「了解」
叩きつけられた右手が眼の前の扉を吹き飛ばした。
次の瞬間、久志は宇宙空間に放り出されていた。眼下には連合の特務艦隊。
「ラボの開閉口が大破。生体反応消失。ラボから彼が消えました」
久志は変身していた。全身から白い光を発していた。
自分が人間であること、自分が人間であるという思い込み、固定観念以外には……。
それは、「自分が人間でありたい」「あくまでも人間でいたい」という願望ーー切望なのかもしれません。
それは儚い希望と言っても良いのかもしれません。本編の主人公にとっては。




