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「これ本当にSFなのかな?」とは感じています。
自分でカテゴライズしておいて何ですが。
トルベロ・スロルカと名乗った総司令官は握手していた掌をさっと上に向けた。すると透明な球形のカプセルが掌の上二十センチほどのところに出現した。トルベロ・スロルカはそれを久志の前に静かに差し出した。
「これは“光”を封印しておくための器です。これに両手をかざし、そこに意志さえ伴っていれば、“光”は主の元を離れ、器の内に戻る筈です」
ゴクッと久志は唾を飲んだ。カプセルに両手をかざそうとして手が止まった。一瞬、「“光”を手放すやいなや、よってかかって縊り殺しにされるんじゃないのか」とも思ったが、“自分でない自分”は、「それはない」とすぐさま久志の杞憂を否定した。
久志は自分に呆れた。自嘲的な笑いが漏れそうになった。
(ハハハハハハ。さっきからそうだけど呆れたもんだ。この期に及んでまだ自分の命の心配しているんだもんな)
眼の前の司令官も“声”と同じ旨のことを言った。
「貴方になら解るでしょう。“光の主”たる貴方ならば。“光”とは究極。“主”の敵を滅ぼし、命を守ることに於いて死角はありません。“光”から殺気を完璧に隠しおおせることなど不可能なのです。たとえそれが“光”を手放した後に顕在化される殺意であっても。我々にそれを感じますか? “光の主”よ」
敵意はない。確かにトルベロ・スロルカの言う通りだろう。手放して丸腰になったところで、殺されるどころか、かすり傷一つつけられることなどないことが確信出来る。
(だからといって、これでいいのか?)
久志は自問する。
(本当にこれでいいのか?)
動きが止まった。なにかがひっかかってはいたが。
(いいんだ……)
ゆっくりと両手をカプセルにかざした。
(これでいい……)
透明な容器の中に白い光が燈った。
肩の荷が下りたような気がした。
「以前にもお話ししましたが、“光”を御し得る存在は貴方をおいて他にいません。そして、“光”はその殆どが未だに未知の領域にあります。我々は“光”の返還とともに二つのお願いを貴方にしました。是非、我々に協力して頂けませんか?」
「…戦うというのは遠慮させて下さい。私はもう誰も傷つけたくないし、誰も殺したくありません。そんなのはもううんざりです。ですが、それ以外のことだったら何でもします。貴方達の手を貸して頂けませんか? 貴方達の進んだ科学技術によって、私の星に、チキュウに住まう全ての人々に、何かしらの利益がもたらされ、色々な問題が解決され、皆が豊かで幸せな生活を営むことが出来るよう助けて頂けませんか?」
総司令官は久志に約束した。
「わかりました。我々は貴方の好意に報いましょう」
それから久志は艦内を一通り案内され、特別にあつらえられた個室をあてがわれた。そこはいつかテレビで見たような超一流ホテルの最高級のスイートルームを思わせた。
「基本的に貴方はどこへ行こうと自由です。もし何か御用がありましたら、いつでもお声をかけて下さい」
久志のお守りを仰せつかった女性はそう言って彼一人を部屋に残して去っていった。久志はベッドに腰掛け、ホッと脱力した。寝転んで久志は自問する。
「…これで良かったんだろうか?」
高すぎる天井を見上げる。一人で佇んでいるには広すぎる部屋。万年床の四畳半とでは違い過ぎる。改めて「随分と遠くまで来てしまったものだ」と感じた。
あまりにも不釣合いな部屋でただ一人、久志は思案に沈む。
「『地球に住まう全ての人々に幸せを』、か。ご立派なもんだ。随分と偉くなったもんだな。何様のつもりだよ。“ヒマワリ”か? 俺は……」
久志は自嘲気味に笑い呟いた。
「ハハハハハ。ただ怖かっただけなのに」
軽い耳鳴りがしていた。それは耳の奥で何かが自分に囁きかけてるような、そんな違和感だった。
だって、この話、全然サイエンス要素ないですもん。
SF考証とか全然していませんし。
だって、この話、全然必要ないんですもん。
全くもってそういうの。




