アブダクション
キャトルミューティレーションと同じ位お馴染みというか、お約束というか……。
エイリアン関連と云えば……。
久志は万年床の上でアルコールに浸り、部屋着ジャージで佇んでいた。
「ああ、そういうことになるのか」
ぼんやりしているうちに気がついた。
「アブダクション、なのか? これも? 見方によっては。されてやるんだけど。本当に。本物に」
何故眠れないのか? 何故のけ者にされているように感じるのか? 何故セックスに溺れるのか? 何故酒やドラッグに溺れるのか? 人の苦しみはその人により様々ではあるが、原因についての説明が得られるとその苦しみから解放されることはよくある。代表的なものは、呪術信仰、多重人格、そして、宇宙人による誘拐―アブダクション等が代表的なそれにあたる。
ただ、アブダクションには他に見られない特徴が見受けられる。或る実験によると、被験者(宇宙人に誘拐された経験があると信じている人―ビリーバー)全員にとって人生でもっともトラウマとなっている出来事がエイリアンに関するものであるのと同時に、最もすばらしかった体験もまた、エイリアンに関わることだというのだ。全員が例外なく、エイリアンとの接触によって自分が「変わった」と感じ、誘拐された後は以前よりも「良い人間になった」「未来に希望が持てるようになった」「生活が良くなった」「孤独ではなくなった」等と答えているのだという。
「トリアエズエラバレタノハマチガイナイミタイダ……。
セイゼイスバラシイタイケンダッタライイナ……。
コレヲキニスコシハマシナニンゲンニナレルトイイナ……。
キボウノモテルミライガマッテイテクレルトイイナ……。
コドクデナクナルトイインダケド……」
知らず知らずのうちに棒読みのような抑揚のない声で呟いていた。
久志は徐に立ち上がると部屋着ジャージからスーツに着替え始めた。これから一国はおろか地球の全人類を代表して異星人相手との面接に赴こうというのだ。合格が内定しているとはいえ、宇宙人相手に何をどうすれば正装なのかは分からないが、それなりに正装していかなければいけないと思った。
ネクタイをきゅっと締め、革靴を履くと、久志は決意を告げた。
〈今からそちらに参ります〉
久志は変身した。
ビリーバー……。
或る種の信者なんでしょうね。
或る種の宗教の。
エイリアンとの遭遇は或る種の啓示で。
だとすれば、皆が皆開祖で、自営業者みたいな教祖という感じなのだろうか? 信者が自分一人の。
宗教法人じゃないから、税で優遇されたりはしないのだろうけれど。
追伸 総長しかいない暴走族という表現もありか。
いや、彼は副総長だったと言っているから、あれはコンビだったということかな。革命家だとか冒険家だとか賜っている子供の某パパは。




