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ちょこっと日常回
9
“彼”との接触から数日が経っていた。
久志には最早「連合の軍門に下る」という選択肢しかなくなっていた。
「地球よりも遥かに進んだ科学文明をもつ“彼”らならば、もしかしたら、この禍々しい“光”なり才能なりを、自分から取り除くことが出来るのではないか」と考えるようになっていた。
「モルモットにするつもりならそれでいい。もしも、こんな呆れ果てた奴をどうにかしてしまえるのなら、どうにかして欲しい。
寧ろ、そうあって欲しい……」
久志は何でもいいから縋り付きたかった。
兎に角救いが欲しかったのだ。
久志は受話器を手に取ると連蔵と篤に電話をかけた。二人ともアルバイトに行っていて留守なことは知っている。だから電話した。どちらにも一言だけ留守電に入れておいた。
「ちょっと行ってくるよ」
受話器をおいた。
「それと……」
「もう一度、春野さんの顔が見たい。せめて声だけでも聞きたいな」と思ったが、それはやめた。また告白してフラれて「さよなら」というのでは、あまりにも寂しすぎる気がして思いとどまった。
「あとは……」
実家に電話しておくことにした。
ピッポッパとボタンを押したところで手が止まった。
「何ていやいいんだ?」
ちょっと考えてから電話をかけなおした。
「はい。荒木ですが」
電話に出たのはやはり母親だった。
「こっちも荒木なんだけど」
「何だい。久志かい」
「何だいはないだろ。たまにこっちから電話してるっていうのに」
久志から電話をかけることは特別な用事がない限りめったにない。いつもは母親の方からかかってくる。第一声は決まって「おーい、生きてるかい」。
「その調子だとちゃんと生きてるみたいだね」
「当たり前だろ。そんなに簡単にくたばりゃしねえよ」
「だけど、最近何だかとっても物騒だよ。如何にも世紀末って感じでさ」
「Unknownのこと? ノストラダムスの大予言が前倒しで実現しそうな勢いだってこと? だったらこっちもそっちと変わりゃしないでしょ。何かあったらニュースでやるし」
「そりゃそうだけど。物騒な世の中になったもんだね。これから先どうなっちゃうんだろうね」
「そんなこといったって……」
実は知っている。少なくとも、所謂人型白色発光体がこれから何をどうしようとしているのかは。
「俺にもそんなの解らないよ」
「それもそうだろうけどさ。まあ、無事でやっててくれてればそれでいいよ」
「いつも通りだよ。ぼちぼちやってるよ」
「そうかい。それならいいんだけど」
「そっちはどう?」
「いつも通りよ。ぼちぼちやってるわ」
母親が自分のことを聞かれたにしては最短の部類に入る返答だった。
「親父も相変わらずかい?」
「相変わらずよ」
父親のことを訊いた時は大体いつもこんな感じの言葉が返ってくる。
とりとめのない親子の会話を少々。
次回にも少し続く。




