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gift  作者: 荒馬宗海
71/107

優生学

興味を持って頂いて有難う御座います。

ご一読頂けると有り難いです。


   7


 “ひとつのこと”。それは彼らの始まりからここに至るまでの歴史であった。

久志は人でないチャンネルから受け取った極限まで凝縮された超高密度の情報の塊を地球人として改めて噛み締めた。久志にとって最初にして最大の驚きは彼らが人だったということだった。チキュウの人類とほとんど変わりがない、それどころかまったく同じとしか思えない人間だったということだった。彼らはまた自らを人類と呼び、その母星――彼らの太陽系の第三惑星をチキュウと呼んでいた。

 彼らの世界はある次期を境に一変し、今日に至っていた。そしてそれ以前の社会を形成する兆しはチキュウ人類における現在に相当する時代に認められた。

 それは遥か昔。その時代、相前後して世界中の国と地域の指導者・指導部が行った施政の根底にあったのはある共通した思想だった。それは生物学の分野に於ける進化論の唱えるところである「自然淘汰」「適者生存」という概念を社会学に流用することにより、人の社会の有様を説明しようとする思想であった。

【社会的に高い地位にある者は優れた存在であり、然るべくしてその地位にあるのであり、逆に社会的に低い地位にある者は劣った存在であり、甘んじてその地位を受け入れなければならない】

強者は優遇し、弱者は顧みることなく切り捨てよ。不平等と不公正は真理として正当化されたのである。共産主義の一党独裁政権が支配するとある経済成長著しい大国に於いては市場開放の名の下に、長引く不況にあえぐとある先進国に於いては構造改革の名の下に、それは行われ、階級を形作る素地が整ってゆくこととなる。

 連合と連盟が存在する以前の世界。それは才能と社会的地位がほぼ完璧に一致していると見做されていた階級社会であり、同じ人間でありながら、生まれつき競争など出来ない、出来はしない、する気すら起こらない格差世界であった。真理によって形成された富裕層を確固たる上流階級として確立せしめたのは、人間自身のDNAにメスを入れるまで発達した遺伝子工学であった。肌の色に髪の色に瞳の色。高い知能に優れた身体能力。人は選び、得られるようになった。ただしそれは万人を対象とするものではなかった。最先端の高等技術の恩恵に与るにはそれなりの対価が必要であり、当然ながらそれに応えられるのは貧しき者ではなかった。必然として富める者ほどその子孫に優れた資質を獲得させてゆくこととなった。真理を人間社会に適応させ、具現化させていったのは、元からの富裕層である権力者たちであった。結果、遺伝子の格差に応じた社会制度や法体系等の整備はある思想を拠り所として極めてスムーズに進められていった。

【より生存するのに値する優れた人種・血統は、劣った人種・血統よりもより繁栄すべき機会と環境を与えられるべきであり、それによって人類はより良き方向に改善されてゆく】

それは資本主義と共産主義が対立する以前からある古い思想であり、嘗てはさまざまな愚挙や蛮行の理屈として用いられたのだが、ことこの段階に至っては確たる科学的根拠のある正論と見做されることとなったのである。才能のある者は才能に相応しい身分にあり、才能に応じた教育を受け、才能に適した職に就き、才能に見合った収入を得る。富める血筋は膨張してゆく一方の経済力を背景に、遺伝子に改良につぐ改良を重ね続け、貧しき血筋はそれをただ指を咥えて見ているより他はない。必然として世代を経るにつれ階級の隔たりはあらゆる面において拡張拡大の一途を辿った。そしてそれはもはや両者が同じ種ではない、別の種といえるほどのレベルに達することとなる。それは揺るぎようがない完全な階級社会かと思われた。だが彼らの世界は覆るのである。


若しもお気に召して頂けましたら、高評価・ブックマークを付けて頂けると有り難いです。


より多くの方々に読んで頂ける機会が得られる様ですから。


あと、ご意見・ご感想等書いて頂けると尚有り難いです。


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