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gift  作者: 荒馬宗海
7/107

2-1



 翌日、久志は昼過ぎに眼を覚ました。なんとなくダルい。

二度寝を決め込もうとして、「あっ、今日火曜日か」と寝返りを打つのを止めた。ぐだぐだと蒲団から這い出して目覚まし時計を見た。急がなければ遅刻するという時間でもなった。

「この前は前からだっけ? 後ろからだっけ?」

ぼりぼりと頭を掻きながら先週のことを思い出そうとした。

「ああ、後ろから…。ん?」

 部屋着のジャージを着ていないことに気がついた。その代わりに身につけていたのは、スーツとワイシャツにネクタイ、それに靴下に革靴。寝起きの服装ではなかった。

「なんでこんなカッコウ…」

 いいかけて絶句した。

急速に記憶が蘇ってきた。

「昨日、何があったのか」、が。

 断片的な映像が脳裏をよぎる。

 夕暮れに浮かぶ首のない怪物の屍骸のシルエット。

そこから広がって辺りを浸してゆく暗い色の液体。

そして、全身から白い光を放つ輪郭の曖昧な自分自身。

「もしかして」、とテレビをつけてみた。

「もしかしたらニュースになっているんじゃないか」と。

「…うーん」

 腕を組んで首を傾げる。どの局のチャンネルに合わせても、いつも通りの番組しか放送していなかった。民放のワイドショーも国営放送の十分間ニュースも、相変わらず最近やたらと世間を賑わせている、あまりにもセコい某都知事の呆れた公私混同ぶりを取り上げていた。不適切ではあるが違法ではない政治資金の流用の数々(その金で自分の趣味である美術品を買い漁ったり、幼い息子に子供向けの漫画を買い与えたりしたわけだが、本人曰く、「世間というものを調査するために必要不可欠なものだった」そうである)、豪華過ぎる外遊(本人曰く、「飛行機はファーストクラスで宿泊先は超一流ホテルの最高級の部屋でなければトウキョウがなめられる」そうである)、タクシー代わりの公用車の利用(週末には、非常時にすぐさま都に駆けつけることなど到底不可能な距離にある、温泉地に所有する別荘への往き返りのに黒塗りの公用車を用いていた。本人曰く、「そこでは常に都政のことを考えていた」そうなのであり、「そこで集中するのも公務である」という理屈なのらしいのだが、もしもトウキョウ都に何かしらの緊急事態が発生した場合、そのような遠隔地からどのように陣頭指揮を執るつもりだったのであろう? 電話で指示すれば十分ということなのだろうか? 電話回線が断線された場合も考慮すべきなのではなかろうか)等々。国際政治学者と称し、著名な論客として名声を馳せていた頃にしたためられた自著では、「外遊などファーストクラスで行く必要などない。エコノミーで十分」とか、「公用車など必要ない。電車で十分」等と宣っていた人物とはとても同一人物とは思えない。

 久志は呟いた。

「ニュースになったとしても、たいしたニュースじゃなかったってことなんだろうか?」

何だか釈然としなかったが、心のどこかでは安堵していた。

「それともやっぱり夢だったのかな?」


 いつもと変わらぬ商店街を抜け、いつもと同じくらいに混んでいる電車に乗る。

いつものようにありふれた光景である。

(もしもここから電車で一時間半くらいしか離れていないところに未確認生物の首なし死体が転がっていたとしたら、こんなにもありふれたいつも通りの平凡な日常が、今ここにこうしてあるものだろうか?)

 久志は運良く空いていた席に体をねじ込む。

(……ないよな。そんなもの)


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