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〈最初に君が自らの意思によって変身した時、同宙域に認められたのは、比較的近くの辺境域を根城とする賊の輩の反応だった。さしずめ連合と連盟とが何かを奪い合っているとの情報を得てしゃしゃり出て来たというところか。何かはわからないが、その何かを手に入れた暁には、連合と連盟とを天秤にかけて取り引きをしようとでも目論んでいたのであろう〉
〈それならそれでどうして殺した! どうしてあいつらは人類を攻撃した! そんな必要がどこにあったっていうんだ!〉
久志は感情を叩きつけるように心で叫んだ。
〈ならば逆に君に問う。君たち人類は一歩一歩歩みを進める度に、そこに蟻がいるのかどうかを、いちいち気にしながら歩いているのか?〉
〈それとこれとは違うだろ!〉
〈同じことだ。特に意識しなければ気にもならない。どうでもいいことだ〉
久志は絶句する。
〈我々からすれば、君たち人類などは、この宇宙に無数に存在する下等種の一つにすぎない。特に意識しなければ眼にもとまらない。どうやら辺境の賊にとっても同じことだったようだ〉
苛立ちが喉元までこみ上げる。
〈邪魔ならどけるし、煩わしければ払う。それで死なせてしまうこともある。ただそれだけのことだ。彼らもまたそのように振舞っただけのことだろう〉
〈くそっ!〉
久志は吐き捨てるように叫ぶ。
〈馬鹿にしやがって!〉
〈そうはいっても君にはこの感覚が理解出来るのではないのか? 何故ならば、君こそが神。至高の頂に君臨する絶対者。ありとあらゆるものを滅殺し得る究極の破壊者――破壊神なのだから。君のみがこの世に存在するありとあらゆるものを否定し得る唯一無二の存在なのだから。この世界――この宇宙そのもの、それどころか、別次元や無数に存在する平行世界を消滅させることすら、君にとっては造作もあるまい。その気になれば、君の才能は一瞬にして、いとも容易く全てを無に帰すであろう〉
「…………」
解っていた。
解ってはいた。
〈“光の主”にあらゆる理は通用しない。“光の主”はあらゆる理を超越する。この世の理に縛られ決して抜け出すことなど能わぬ、支配され服従させられる他にないものとは根本的に異なる。それこそが、“光の主”――〉
あまりに現実ばなれした事実を当前のように受け入れていた自分に、久志は気づかされ、愕然とした。
「何だよ。それ…………」
真実のあまりの途方もなさに実感などありはしない。
(それほどまでの力がありながら…………)
解ってはいたのだ。
「それなのに…………」
〈君は感じているのではないのか? 少なくとも、“光の主”と化している間は。取るに足らないものと感じはしなかったのか? これまで消滅させてきた対象を。こうして話をしている私を。君が同種と見なしているこの星の人類を。ありとあらゆる存在を〉
〈そ、そんなことあるか!〉
一方では言葉とは裏腹に「取るに足りない」と一度として見下げたことはなかったかと自問していた。心の底ではそんな思い上がりを否定しようとやっきになっていた。
〈まあいい。そのことについてこれ以上どうこう言うつもりはない。
話を続けよう〉
久志は全身に冷や汗まみれの不愉快さを感じていた。
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