カルト 2
世紀末を世紀末たらしめてしまった感さえあるUnknownと人型白色発光体。そしてその決定打となってしまったニ〇ーヨークの惨劇。
(狂人の狂気を煽り、いよいよもって狂人たらしめているのは……)
この混沌と熱狂――異様な狂気の中には潜んでいるのかもしれない。あわよくば国家の中枢でテロさえ起こしかねないカルト教団たり得る、もしくはたらんとする存在さえも。
いたたまれなかった。
久志は再びは俯く。
「……」
人型白色発光体の正体は人込みの中に埋もれたまま、彼らの眼前を押し流されてゆく。彼を敬い尊んでいるはずの誰一人として、その正体に気づくこともなく。
(ミームを初めて提唱したのはリチャード・ドーキンスだったか。『利己的な遺伝子』の中で。ミーム――文化の遺伝子とでもいったところか。宗教というのはその最たるものだろう。この世紀末における、人型白色発光体やUnknownの出現、それらが巻き起こした現実はさまざまなミームに何らかの突然変異をもたらした。特に宗教には強烈に。今、眼の前にいる連中は人型白色発光体――この俺を崇拝している。
殺して、殺して、殺しまくって……。壊して、壊して、壊しまくって……。
ただそれだけ。ただそれだけしかしていない。しようと思っても他に何も出来ない、出来はしない、殺戮と破壊の権化でしかないこの俺を神だと崇め奉っている……)
久志は呟いた。
「…どこが神だ? そんなもののどこが……。何が神なものか…………」
しかし、一方では解ってもいる。実際はいいように使われているだけだということを。丁度いいタイミングで現れた得体の知れない、それっぽいことこの上もない存在を、多くのカルト教団が偶像として利用しているだけだということを。ただ、改めて直面させられた現実――こんなにも夥しい信者が狂信的に自分を崇拝しているという眼前の光景は、久志の背筋を寒くさせた。吐きそうなくらいに気持ち悪い。
(嘗て人々が神に祈ったのは現世での幸せではなかった。死後の、あるいは来世での、現世では望めぬ幸せだった。それならこの世紀末で雨後の筍のように乱立するカルト教団と激増する信者たちが願うものは一体何だ? 今、眼の前にある無数のミームの全てが生き残るわけではない。大半は淘汰され、ほどなく消えてゆく運命にある。それでもいくらかは生き残り、中には大いに繁栄するものだってあるかもしれない。この世紀末を時代背景とし、この世紀末をゆりかごとして。しかし、生き残り繁栄するのは必ずしも最も優れたものであり、人々を幸せにするものとは限らない。最も環境に適合した宗教でありミームだ。それが悪質なカルトじゃない保証なんて何処にある? 「自分こそ魂のエリートであり、特別であるが故に、何をどうしようが許される」とでも錯覚している狂信者どもの群れでないなんてどうして断言出来る? 俺はそんな邪悪なものを生み、育んでいるかもしれない)
久志は唇を噛みしめた。




