鬱 -1.0 上
鬱 −1.0 上
久志は部屋に帰るとトイレに駆け込んだ。
そして吐いた。
ただひたすら吐いた。
吐きに吐いた。
あまりにも強烈で生々しすぎる現実。
知らないうちに泣いていた。
いつまでも胃液も涙も止まらない。
「…何で……。
…何でだ……?
……何でこんなことに…………」
勉強やスポーツなら、「死ぬほど努力した」「限界までやった」「やれることは全てやりきった」のであれば、たとえ目的が遂げられなかったとしても、たとえ望んだ結果が得られなかったとしても、たとえ勝てなかったとしても、満足している自分に気がづくことはあるだろう。たとえそれが決闘――殺し合いであったとしても。かかっているのが自分の命だけならば、たとえ勝負に敗れ殺されたとしも、その現実を悔いないものとして受け入れ死んでゆくことだってあるだろう。だが、正義の味方はそれでは済まされない。そんなことがあってはならないのだ。かかっているのは世界の平和であり人の命。守れたか守れなかったのか、救えたか救えなかったか、結果のみが全て。努力や根性で何とかなるものなら、久志は何だってやっただろう。
しかし、どうしようもなかった。
何も出来はしなかった。
人々に人型白色発光体と呼称される破壊の権化はどうしようもないほどに最強だというのに。
「どうして自分の身体が自分の意志で動かせるのか」。そんな理屈がわからなくとも手も足も動かせるように、自分があり得ないほどの強者であることは解り切っている。殺せない者などいはしない。壊せない物など何もない。あまりにも当然過ぎて疑う余地などありはしない。ありとあらゆるものを小指を動かす程度の容易さで塵にし得る。こと強いということに関しては努力や根性でどうこう出来る余地はない。これ以上強くはなりようがないのだから。こと戦闘こと破壊に於いては既にして比較対象すら存在しないこの世の絶対者なのだから。
しかし、久志の才能とはそこまでのものなのだ。
それ以上でもそれ以下でもない。負傷した人を治すことも、死者を甦らせることも出来はしない。回復させたり蘇生させたりするような便利な呪文を唱えられるようになる宛はなく、如何なることをしようとも修得し得る術もない。どれだけ努力しようがどうしようもない――無駄なのだ。そんな才能などは欠片もありはしないはしない。そんなことは自明――嫌になるくらい解かり切っている。
有り余る才能と微塵もない才能のコントラストは、強烈に自責の念を際立たたせ、久志の心を苛む。
これ以上ないほどに惨めだった。




