4-15
丑三つ時。
買ったばかりの遮光カーテンの閉め切られた部屋。
秒針の音だけが響いている。
今日も碌に眠れそうにない。
ぐっすりと眠りたいだけなのに。
久志は酔っ払って万年床に寝転がっていた。
相変わらず酔っ払いきれてはいないが、素面でいるよりはいい。
あの日の眼前でのパイロットの死はいまだに久志につきまとい離れない。
久志はエントリーシートを眺めていた。
それは取り寄せるだけ取り寄せてはみたものの、結局記入しただけで企業説明会には行かず、というよりは行けず、提出されることはなかった物――学生の入りたい企業トップスリーに常に入り続けている鈴木商事のエントリーシートだった。この埋めるところのやたらと多い書類。
触りのところを声に出して読んでみた。
「氏名 荒木久志
年齢 二十一歳
最終学歴 啓明大学文学部史学科西洋史専攻卒業見込み
資格・免許等 英語検定三級 原動機付自転車免許
これまでにおける就職活動の状況(例 ○○株式会社内定獲得等) なし
どうせ何もねえよ」
改めて見返してみたところで、どこにも特別なところなどありはしない。平凡そのもの。いや、平凡以下か。企業側からすれば、全く食指など動かされることのない、我がことながら嫌になるくらいのこの面白味のなさ。
「これ出してみたところで、まるっきり相手にもしてくれないんだろうな」
エントリーシートの記載事項でのマイナスを補えるほど筆記試験で点が取れるわけもなければ、面接に持ち込んで素晴らしい人間性を売り込み大逆転というのもありそうにない。無駄だと判断したから、今、これはこうして手元に残っている。
「それとも何か、こう書けってか。
『趣味・特技
地球の平和を守ること。巷で噂の無敵のスーパーヒーローに変身出来ること。
その他自己アピール等
地球の平和を守っている人型白色発光体というのは、実は何を隠そう、この私のことなのです。自分でいうのもなんですが、私以上に全人類に貢献出来る、また実際、貢献している人間が何処にいるというのでしょうか? しかも、無償で、です。現在はおろか、全人類の歴史上に於いてすら、この私に匹敵する者などいません。皆無でしょう。私は強いです。私は強力です。しかも、どうしようもないくらいに途轍もなく。もちろん、貴社のためにも存分に働くことが可能かと認識しております。斯様なことが出来る人材は、この私をおいて他におりません。この世に存在しているとはとても考えられません。
…誰も絶対本気にしねえって。こんなの。イッてるって思われて確実に真っ先にハネられるのがオチだろ」




