プリンス 5
【荒木久志の反応】、
「は?」
確かにネイティブの若者は「セクシー」を「イケてる」くらいの意味で使うことはあるらしいのだが、そこのところの言語感覚は、「さすがはUSの、しかもニ○ーヨークの某有名大学の大学院への留学経験が成せる技」と感心すべきなのだろうか。尤もっとも、「説明は野暮」との返答の後で、「『楽しく』も『クール』も『セクシー』も、みんなさっき隣りに座っていた何だか偉い人とかがいっていた」と、まるでいい訳のようなことも口にしている。
【荒木久志の感想】、
「その説明こそ、よっぽど野暮なのでは?」
ちなみに、プリンスは十六歳の環境保護活動家に対してご親切にも後日、「大人のいうことは、よく聞いてちゃんと従うべき」と誤解のないよう、ニ○ーヨーク仕込みの英語ではなく、ちゃんとした通訳を介して、ショウナン仕込みのニッポン語でアドバイスをしたそうである。
「そういえば、」
久志は思い出したものだ。プリンスが国際舞台にて、らしさを発揮した数日前、彼の言動にコメントを求められた某大物芸人は、「彼は後出しじゃんけんしかしていない。この人が政治家として優秀かどうかは怪しいものだ」と述べていたのだが、それを聞いた久志も、「うん。まったくもってその通り」と、感想を漏らしたことを。
それでもプリンスが大人気政治家であることに変わりはない。たとえ、プラごみによる環境汚染を踏まえて、「みんな知らないだろうけど、プラスチックって、石油から出来ているんだよ。驚いたでしょ」と、今日日小学生でも知っているような豆知識を記者たちの前で得意気に披露し、彼らを唖然とさせようとも。流石は“ポリエステル”の旦那様である。それを聞いた彼のブレインはずっこけたかもしれないのだが。
プリンスーーまたの名を“天才子役”。
【久志の呟き(嘆き)】、
「…バカ息子」
官邸での結婚記者会見にて、「結婚の決め手となったのは何か」と問われた彼は、さすがに凄く凄いプリンスとはいえ、無論「妊娠させちゃったから」などと答えたりは――本当のところはどうだか知る由もないが――しない。かわりに彼はこう答えた。
「彼女の前では、政治家・小池進一郎という鎧を脱ぐことが出来た」と。
【荒木久志の反応】、
「パンツまで脱いじゃってるけどね」
そして、プリンスといえば何と謂っても、
「未来は変えなければいけない。だから、未来は変えなければいけない」
此れである。
此の禅問答の如き謂にはその他多くのバリエーションーー「未来」の部分が、「政治」だったり、「世界」だったり、「世の中」だったりーーが存在し、彼のお人が在る処、至る処で見受けらされる。所謂「プリンス構文」なるものなのだが、其れ等は要するに、全て同一の一文に翻訳される。
即ち、
I have no idea.
プリンスというお人は、要するに、此の旨を、事あるごとに胸を張って、力強く宣っているという次第である。
或る人はこう評したという。
「彼はデカルトを超えた。何故ならば、デカルトが『我思う。故に、我在り』なのに対して、彼は『我在り。故に、我在り』なのであり、思う事さえ超越しているのだから」と。ニッポンのプリンスは。
「思う処が無い」ーー「何も考えていない」といいたかったのでもあろう。
【荒木久志の想う処】、
「これが(未来の)総理大臣って…。世も末だよな…」
世紀(末)のビッグカップル――政界のプリンスと大物ハーフ女子アナ。リア充の中のリア充とリア充の中のリア充の結婚。政界と芸能界。世間の常識とは異なる理屈すらまかり通っているような浮世離れした、“下界”では考えられない大金が動くことが日常茶飯事の恒常的なバブルの世界。二人ともそういう世界の住人である。大半の一般国民からすれば、あまりにもかけ離れた別世界のことなので、いち庶民に過ぎない久志はとしては、「『ブラウン管という水槽に満たされたバブルの中を人目を引く珍奇な熱帯魚どもが泳いでいる』くらいの感覚で眺めていればいいのかな」と、解釈することにしている。




