1-4
主人公は平凡で普通の善人です。なので、困っている人がいれば助けるのは、彼にとっては当たり前のことです。
だから、正義の味方を当たり前のようにやろうとします。ですが……、
久志はガックリと肩を落とし、夕暮れの坂道をとぼとぼと歩いていた。
「はあー」
とため息を一つ。
「俺って、本っ当にパッとしねえなあ」
リクルートスタイルの帰り道に久志が痛感させられることはいつも大差がない。
「おまけに全っ然アドリブ効かねえし」
その日はいつもにも増して「玉砕した」感に打ちのめされていた。就職試験の面接というものがどんなものかということを、嫌というほど思い知らされた気分だった。
「あれはともかくとしてもさあ……」
さすがに世界平和に思いを馳せ、宇宙空間にまで大風呂敷を広げたのはヒマワリだけだったが、久志の自己紹介はあとの二人にも、量的にも品質にも、完全にひけをとっていた。
「…何にもないのかよ? この俺には」
改めてなにかないものか考えようとして余計虚しくなってきた。
「何だかなあ……」
久志は敗北感にうなだれながら坂道を下って行く。
「はあ~」
就職活動の帰り道はいつもため息を吐いてしまわないではいられない。
「ひょっとするとどこの会社受けても無駄なのか?
どこの企業も俺なんか必要としてくれないのかな?」
いつものように更に悲観的になってゆく。
「それどころか、この世界に俺の居場所なんて、そもそもどこにもなかったりして……」
さすがにそこまではネガティブが過ぎるというものなのだろうが。
こんな日は、いつもなぜだかしみじみと空を見上げてしまう。
「んっ?」
そこには何か違うものが光っていた。
そこにあるはずのないものが二つ。
「UFO?」
「あっ」という間もなかった。
「こっちに来た」と思った瞬間には、未確認飛行物体の一つが眩しい光を放った。
そこで久志の記憶はいったん途切れている。
気がつくと久志の眼の前には何かがいた。
!
久志は眼を疑った。そこに仁王立ちしていたもの、それは現実世界ではありえないもの、架空の世界の生物、特撮に出てきそうな怪物だった。
全身をいかにも硬そうな鱗に覆われた化け物がこっちを睨んでいる。
それは耳障りな声で吼え、口から火の玉を吐いた。
〈敵〉
何かが久志の頭の中で静かにそれをそう認定した。
「うわっ!」
久志は悲鳴をあげた。反射的に手で庇ったつもりだったが、体は思った通りに動いてくれてはいなかった。それどころか怪物に向かって突進していた。次の瞬間には敵の懐に飛び込んでいた。
胸板にはスポンジ球を軽くぶつけられたような感覚。火の球のものだった。
久志は怪物の顔面めがけて右の拳を振り抜いていた。敵の頭部を吹き飛ばしていた。
「何だよ! これ!」
その時になって初めて、久志は自分の右腕が、全身の輪郭が、曖昧にぼんやりと白く光り輝いていることに気づいた。よく見ればリクルートスタイルの荒木久志に見えないこともないが、そういう先入観がなければ、それはそれがどこの何者で、どんな恰好をしているのかも判然としない姿になっていた。
主人公が此の世界を今の世界の現状を「守るに値しない」と迄いかないものの、「おかしい」と感じてしまったらどうなるでしょうか?
「既にヒビが入ってしまっている」と。