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gift  作者: 荒馬宗海
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プリンス 4


国民に抜群の人気を誇った首相の息子であるプリンスは、イケメンで、爽やかで、人当たりが良く、演説に長け、かつ、先代譲りのパフォーマンがあり、そのうえに、某大手広告代理店からイメージ戦略専門のブレインまで招聘している(そう。“案件”なのである。此の御方は)というのだから、デビューした時点で既に大人気政治家であったのはある意味当然といえよう。地盤を継承して最初の選挙の時ですら、ニッポン中を飛び回り、他の候補者の応援演説を分刻みのスケジュールでこなし、地元での選挙運動は一切行わなかったにもかかわらず、開票率ゼロパーセントにして当選が確定していたほどである。選挙直後に行われた世論論調査によると、一年生議員にもかかわらず、「首相になって欲しい人」部門で二位に大差をつけての第一位であり、今もなお、当たり前のように、圧倒的な一番人気で首位を独走している。そんなプリンスなのだから、彼がまだ若手であり、議員歴が浅いにもかかわらず、肩書きを得ているのもまた必然であった。

先日、プリンスは環境大臣でとして国連の気候行動サミットに出席している。颯爽と国際政治の舞台に登場したわけである。

 注目の人物の国際舞台デビューを久志も一応フォローはした。演説前の映像で、隣りのの大物っぽい女性と何やら談笑しているのを見て、「USに留学していたらしいから、周り人間から小笑いがとれる程度のア○リカン・ジョークの一つや二つくらいは知っているんだろう」と思った。語るべきは環境保護であり、しかも今回は「地球温暖化に関して」とかなり限定されている。そんな中、ほどなく演壇に立ち、ニッポンのプリンスは宣わった。

「気候変動のような大きな問題は、楽しくクールでセクシーに取り組むべき」

 【荒木久志の反応】、

「は?」

 同会合において国際的にもっとも注目を集めていたのは、日出る国のプリンスではなく、若干十六歳の北欧の某環境保護活動家だった。サミットの期間中、彼女の表情に一切の笑みはなく、それどころか終始険しく、憤りを隠そうとさえしていなかったのは、笑顔の絶えないプリンスとは対照的であった。彼女はここでも従来の主張を繰り返した。「地球温暖化は既に待ったなしの状態である」と、いつもの枕詞に引き続いてなされたその日の演説は、理想主義的で現実的でないところはあるが、極めて具体的で数値目標等がきっちり提示されているところなど、これまたプリンスとは好対照であった。というのも、プリンスの演説は極めて抽象的で具体性に欠けており、まるでその場のノリで口走ったかのような内容の乏しいものであったからである。

 その奇抜なワードのチョイスから、プリンスの発言は、ニッポン国内はもとより、それまでまるで彼になど注目していなかった海外のメディアにも取り上げられることとなった。

いくらプリンスの発言とはいえ、さすがに今回ばかりはいつもは味方なはずの与党にも好評ではなかった。国連デビュー直後に行われた記者会見にて、プリンスは某新聞社の某記者の「環境保護に対して、どのような意味で楽しくクールでセクシーであるべきかお聞かせ下さい」という質問にこたえた。

「それをどういう意味かと説明すること自体、クールでセクシーじゃないよね」


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