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久志は高層ビル群の谷間にちっぽけな公園があるのを見つけると、そこのベンチに腰を下ろした。
「はあー」
ため息を一つ。
「…俺って何なんだろうな……」
それから空を見上げ、しばらくそのままぼーっとした後、ゆっくりと俯いた。
「お兄さん」
横で声がしたような気がした。
「ちょっと、お兄さん」
まさか自分のことを呼んでいるとは思わない。
「お兄さんってば」
ポンポンと肩を叩かれてようやく自分を呼んでいるのだと知った。声のする方を見てみてみた。ベンチの隣りには髪を紫に染めたどこかの見知らぬおばさんが腰かけていた。
(誰? この人。何の用だろ?)
心当たりはない。
「俺のことですか?」
「そうよ」
おばさんはニッコリと笑った。
「お兄さんの他に誰かいるの?」
「はあ」
紫の髪を見ながら、久志は全然関係ないことを考えていた。
(何で白髪を黒じゃなくて紫に染めるかってゆうと、その方が長持ちするからなんだよな。確か)
「お兄さん学生さんでしょ」
「はあ。まあ、そうなんですけど」
やはり、“スーツに着られている”のがバレバレなのだろうか。
(どこかの怪しげな宗教とかの勧誘だったりしないよな? 幸せになれる壺でも売りつけるつもりなのか? そんな持ち合わせがないことくらい一目見りゃわかるだろ。それとも、一括が明らかに無理でも口先三寸でローン組ませればどうにかなるとでも思っているのか?)
久志は密かにビビっていた。
(カルトの信者っていうのは、自分たちが手売りしているシロモノの値段がめちゃくちゃなぼったりだなんてこれっぽっち疑ってないんだろうな。それどころか、深夜の通販なんか比べものにならないくらいにお値打ちだって信じ込んでいそう。教祖の入った風呂の湯とか、唾液だとか、血液だとか、下手すると小便ですら売り物にしているのかも。一般人からしたらゲテモノ度合いが強ければ強い程霊験あらたかな高級品だと信じて疑っていなさそうな気がする)
「この不景気なのに大変ね。学生さんは」
「はあ」
「こんなに景気が悪いのは政治が悪いからなのよ。政治が」
「そうなんっすかね」
(そういや身を切る改革とかってどうなっちまってんだ? ずっと昔からいわれてるし、いってるじゃねえか。「議員定数を減らす」とかいってなかったか? 「歳費をカットする」とかいってなかったか? 未だに何も変わっちゃいないよな。それどころか、何だかんだ理由をこじつけるて、むしろ、どっちも増やそうとしているじゃねえか)
「そうよ、絶対にそう。大沢さんが首相ならこんなことにならなかったのに」




