3-11
生き残ったF‐35Jは観察するように久志の頭上を旋回している。自衛隊はともかく、少なくともあの戦闘機のパイロットは自分を攻撃対象とは見做してはいないらしい。もしかしたら彼もまた、眼下で白く光り輝いている未知の存在と、幼い頃憧れた特撮のスーパーヒーローとをダブらせて見ることの出来るおめでたい人間の一人なのかもしれない。
(もしかして、本物の正義の味方として俺を見てくれているのかな?)
久志は何だか少し嬉しくなった。「手でも振ってやろうかな」と思ったが、さすがにそれはやめた。スーパーヒーローのやることではない。
(こういう時も本物の正義の味方というものはクールかつスマートでないとな)
「さて大学に戻ろうかな」と、F-35Jに背を向け去ろうとしたが、そうはしなかった。
〈前方に空間の歪み〉
久志は“内なる何か”を介して感知した。
(さっきのやつとは別のやつだ)
“何か”はそれにとってほとんど唯一といっていい関心事だけを静かに告げた。
〈敵意はない。戦闘力もこちらに比べればないに等しい。取るに足りない〉
前方から出現したUFOは先程倒した敵とはまったく形状もサイズも異なるものだった。未確認飛行物体というよりは巨大宇宙戦艦と呼ぶべきものだった。
〈君は一体……〉
新手の宇宙戦艦はそう久志の心に直接呼び掛けながら接近してきた。それにとってすぐそこを飛んでいた戦闘機などまるで眼中になどない。F-35Jは突如出現した未確認飛行物体を回避し損ね一方的に大破した。
(何てことを!)
呼び掛けに答えるかわりに久志はキッと宇宙戦艦を睨みつけた。瞳から放たれた閃光は、新たな敵を撃った。怒りの対象は素粒子の塵に還らざるを得なかった。
久志は炎と煙を巻き上げながら墜ちてゆくF-35Jを見ていた。
(何か、何か出来ることはないのか?)
そう自問した直後には全てが終わっていることを悟らされた。パイロットに既に生命はなく、五体は人の形すら留めてはいない。コクピットの無機質が喰い込んでグチャグチャになった肉体を修復し、再び生命を宿すような芸当は、久志には不可能であった。そんな能力は欠片もありはしなかった。出来ることといえば、大破したF‐35Jが地上に激突して爆発するのを、ただなす術もなく見届けることだけだった。
久志はそのまま呆然とその場に立ちつくしていた。




