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軋り音ーー
「軋り音がする」で済んだのは其処までだだたからです。「軋り音が聞こえる」迄で留まっていたから、主人公は絶対に其の才能を人間社会に人間世界に行使しないと断言出来るし、出来たのです。
彼女は語り始めた。
「私は向日葵のような人でありたいと常日頃から心掛けています」
(は?)
と、久志は思わず右隣りを見た。
(えっ? 何? 何なの? 何いってんのこの人? それにヒマワリ? ヒマワリって何?)
自己紹介でなぜ自分を向日葵に例えなければならないのか? 久志には皆目見当がつかない。それにやけにメリハリが効いていて、不自然に声が大きく、おまけに声を張っているのも気になる。
「向日葵という花は、常に太陽の方角を向き、その眩しいばかりの日光を浴びて、穏やかに、健やかに、伸びやかに、どこまでもどこまでもすくすくと成長して行きます。そして、その大きく美しい黄色い花は、見る人の心を和ませ、リフレッシュさせてくれるうえに、元気を与えてくれます。また、向日葵の種は、様々な栄養素に富み、それでいて、高い栄養価を備えている健康食品でもあり、ダイエットから鬱病にまで効能があるとされています。US(国)のメジャーリーグの試合中継を観戦しておりますと、そこで働く選手たちが、向日葵の種を口に含んで中身を食し、殻をペッと吐き出しているところなどをよく拝見するのですが、彼らの元気溌剌としたファインプレーの数々を支えているのは、実は、向日葵の種が持つリラックスを促し、集中力を高める効果なのです。ただ徒に不衛生で横着なことをしているわけでは決してないのです。私は貴社の、ひいては社会の、それから世界の、そして全宇宙の、向日葵の種でありたいとも願っております。ですが、私の『かくありたい』と願う向日葵とは、何も植物のそれだけに止まるものではありません」
(話が違う)
久志は密かに動揺する。
(おいおい勘弁してくれよ。君はどこかの劇団の人? それとも就活の自己紹介っていうのは、青少年の主張か何かのことなのか?)
劇団ひ○わりの青少年の主張は続く。
「私は同時に、人工衛星のひまわりのような人でありたいとも切に願っています。ひまわりは、雲よりも高い、遥か彼方の空の高みから、絶えることなく、地上で生活する生きとし生けるものの全てを温かく見守っています。その眼差しは燦々と降り注ぐ太陽の日差しによく似ています。そこには国境も宗教も人種も関係ありません。私もこの世のありとあらゆる国の人々を、慈愛の瞳をもって見守っていたいのです。私は心から願います。『世界が平和でありますように』」
(こいつマジか? それとも真面目か? 何寝ぼけたことほざいてんだ?)
ダムから軋り音がする――ダムが軋んでいるというのは既にもう相当に危険な状態ではありますが。