1-1
この物語の時代設定はここ最近三十年程を反映させたものとなっています。一見非難中傷に見える記述も含まれますが、事実であり現実です。私が書いているものである以上私の主観が全く入ってないとは言い切れませんが。リアルのヤバさは書く必要があると思いました。怪獣とか宇宙人が出てこなくても。
但し、今現在の手前まで、です。一部現在にも及んでいますが、基本その手前迄に留めています。
何故かというと……。
1
それはとある世紀末のとある日――。
その日、荒木久志はいつものようにリクルートファッションに身を包むと、郊外へ郊外へと電車を乗り継ぎ、これまで来たことがなかったほど郊外までやって来た。
就職試験の会場である某企業の研修センターまでは最寄りの駅から徒歩で約十二分。目的地に至る道すがら坂道を登りつつ、眼下に広がる風景に、
「ふーん。トウキョウにもこんなところがあったんだ」
久志は感想を漏らした。
そこは上京してきた地方出身者のイメージするトウキョウではなかったが、かといって、久志の田舎を思い起こさせるような場所でもない。彼の田舎とでは緑の質と量が著しく異なっていたし、何よりも山の容が違った。低くて平らな壁のようなもの――それが久志の生まれ育った町を取り囲む山であり、慣れ親しんだ自然だった。
集団面接は研修センターの敷地内にある三階建ての校舎のような建物で行われた。志願者は一階の教室のような部屋で自分の順番を待ち、そこからは順次四人ずつ、空きが出る度に係員に先導されていった。
それは久志にとって初めて受ける集団面接試験だった。というのも、就職活動を始めて以来これまで、悉く一番最初で――書類審査か筆記試験で、門前払いを喰らい続けていたわけだから、その次に招待されたこと自体がなかったのである。
(一体何を訊かれるものやら)
教室の片隅でそれなりに緊張しながら、久志はその時を待った。お声が掛かったのは予定されていた時刻から四十分以上が経過してからだった。教室がガラガラに空いていることから察するに、どうやら自分たちはほとんど最終組らしい。
係員の先導に従って連れて行かれたのは、三階の⑧と書かれた紙がドアに貼られた部屋の前だった。そこまで来ると係員はドアの脇に並べてある四つのパイプ椅子の方を手で示し、「こちらに腰掛けてお待ちになって下さい」と、去っていった。久志たち四人は係員の言葉に従ってパイプ椅子に座る。
⑧の部屋から前の組の四人がお辞儀をしながら退出してきて、「次の四名の方、お入りになって下さい」という声が部屋の中から聞こえたのは、それからさらに二十分余りが経ってからだった。一礼して中に入ると、面接官は黒板を背に両手を組み、教卓のような机の上に置かれた資料に目を通していた。
「どうぞ席に着いて下さい」
志望者たちは面接官の言葉を待ってから着席した。久志の受験番号は二二二〇二番。向かって左から二番目の席を与えられた。
「それではそちらの方から出身校及び自己紹介をお願いします」
そういって面接官は久志の右隣に座っている女子学生に右手で「どうぞ」と合図した。
「鳩居堂大学経済学部の池田容子と申します。どうぞ宜しくお願いします」
二二二〇一番の彼女はここですくっと起立すると、ペコッと一礼して、ピンと背筋を伸ばした。
(へっ?)
立つ必要などないはずなのだが。
……“軋り音”だったのは……。