2-7
(ただの幻聴だったのか?)
篤と連蔵と共に駅に向かう道すがら久志は自問していた。
(もし幻聴じゃなかったとしたら、「来た」って何だ? どこのどいつが、いったい何のこといってんだ?)
「ひょっとしたら」と思い当たる節がないこともない。
(それともあれか、側頭葉てんかん系の何かなのか? これは。神様の姿が見えたり神様のお告げが聞こえたりっていう。ゴッド・スポットだっけ? ゴッド・モジュールだっけ? そう呼べる領域が俺の脳みそにもあるってことなのか? でも、あれって同時に、ジャンヌ・ダルクみたく強い信仰心とかがなけりゃ駄目じゃなかったっけ? 俺ってそんなに信心深かったっけ? っていうか、それ以前に、そもそも信仰している宗教すらないんですけど。それでもご神託に従って何かしらの行動を起こせとでも?)
同時に「馬鹿げている」と思わないでもない。
「…い。おーい」
どうやらさっきから鼻先で連蔵が手を振って呼びかけていたらしい。
「…何?」
「戻ってきたか」
「何だよ」
「どうかしたのか?」
「いや、別に」
「お前、何だか変だぞ」
とは率直に連蔵。
「荒木君どうかしたんじゃないの?」
とは心配そうに篤。
「全然。まったく。一つも何にも問題なんかない」
久志は平静を装う。
駅の近くまで来ると人だかりが出来ていた。誰もがその場で立ち止まり、ビルの壁面の巨大モニターを見上げている。久志たちも一体何事だ」とそちらに視線を向けてみた。
一つ間をおいてから篤が、「信じられない」という顔をした。
「こんなことってあるんだね」
「新手のドッキリとかじゃねえの」
連蔵は淡々としている。
久志は眼を見開いたままただ押し黙る。
巨大モニターに映し出されていたのは、双頭有翼の怪物がどこかの都市の上空を飛び去ってゆく様だった。画面の端から端までを怪物が移動する間に、そこから放たれた一閃は下方に映っていたビル群があらかた吹き飛ばし、後に残された残骸は黒い煙に包まれた。次いで映し出されたのは、同種とおぼしき体色の異なる別個体。迎撃に向かったF‐22が呆気なく撃墜された映像だった。
画像が切り替わった。




