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「あれからどうなった?」
「『あれから』って?」
「就活だよ」
「ああ。あれか。プロ〇スは知らんうちにどうにかなった。せっかくスーツ借りてネクタイ縛って説明会に紛れ込んだのにな。佐藤園は『物語か御伽話を書いて送ってくれ』っていうから、『佐藤園、お茶っ葉サイコー』っていう話を書いたけど、何もいってこんな。何やってんだろうな」
だそうである。
加えて連蔵はこう宣言した。
「俺、フリーターになるわ。就活はもうやめる。この不況のどん底でコネもなければ積極的に売り込めるほどの資格も特技も取り柄もない。学歴もたいしたことなければ、そこでの成績すらCだらけ。そんなん無理だろ。足切りに引っかかるのがオチだろ。バイトで適当に喰い繋いでいるうちにコネとかなにかが出来たり、運が巡ってくることだってあるかもしれねえだろ?」
口には出さなかったが久志は思う。
(…ないだろうな)
何しろ就職におけるこの国のセカンドチャンスのなさといったら、先進国中最低である。無論今後、そこのところが劇的に改善されることだってあるかもしないのではあるが……。
「バイトしてるうちになんか変わるかもしれねえじゃん。まぐれとか何やかんやで。政治家がこの国を良くしてくれるなんてちっとも期待しちゃいねえけど、『気がついたら何だかマシになっていた』ってのは全然ありだろ? 『不思議な負けはないが不思議な勝ちはある』って月見草のおっさんもいってたし。何もなくてもそん時はそん時。どうにもならないならならないなりにどうにかなるんじゃね? っていうか、とりあえず喰えさえすりゃいいんだから。希望としてはなるべく楽して。まあ、今のところハッキリしていることは……」
「何?」
「今度の夏休みにはM(国)にルチャ見に行くってことだよ。本場のマスクマンたちのファイトを堪能するってことだよ」
教授が連蔵に気を取られているうちに篤がネタを仕込んでくれたおかげで久志はどうにかその場を切り抜けられた。
「悪い、篤」とジェスチャーで示している久志に「横に詰めろ」と合図して、連蔵は空けさせた席に座った。
「Tはどうだった?」
「タ○人ちっちゃい。俺よりちっちゃいもん。食いもんはまあまあだったけど腹にきた。俺には合わなかったらしい。向こうにいた間、ずっと下痢ピー……」
その時、久志の頭の中で“声”がした。
〈来た〉
!
久志は凍りついた。
それは昨日、怪物に攻撃された時にも聞いた何か――自分の内にありながらも自分とは全く異質なものの“声”だった。
(…夢じゃなかったのか…………)




