11-11
ちょっとだけ親子愛
久志はもぞもぞと布団から這い出した。焼酎のペットボトルを抱えるようにして、まだアルコールで重い体を起こした。
遮光カーテンを閉じてはいない窓から溢れてくる朝日。
「…………」
窓の方を向き、陽の光を浴びながら、久志はしばらくぼうっとしていた。
それからおもむろに時計を見た。正午まであと二時間。電話を手繰り寄せてピッポッパとボタンを押した。
「はい。荒木ですが」
聞き慣れた母親の声だった。
「俺。こっちも荒木」
「何だい? こんな時間に」
「あのさあ…」
「どうかしたのかい?」
「人型白色発光体っているだろ?」
「あれでしょ? 最近有名な」
「そうそう。まあ、昔からはいないわな。あれって実は俺なんだ」
「あら」
母親は久志が予め思っていたほど驚かなかった。久志はこれまでにあったこと、これからやらなければならないことを話した。負ける可能性があること、しかもそれが相当高いかもしれないことはもちろん内緒にして。
「…というわけだけど、何も心配はいらないよ。とりあえず今度こそきっちりと終わらせてくるよ。さっさと行って、ちゃっちゃっとやっつけて、とっとと帰ってくる。ちゃんと、絶対に、さ。親父にもよろしく伝えておいて」
ガチャッと受話器を置いた。
いくら感謝しても感謝しきれない。
本当は、「これまで育ててくれてありがとう」といいたかった。いいたかったが、いえなかった。言葉にしてしまったら、それでもう本当にこれが最後になってしまうような気がした。
天井を見上げた。グニャリと歪んでいるなんてことはもうなかったが、アルコールが抜け切っている訳でもない。
抱えていた焼酎のペットボトルの蓋を開け、ぐびぐびっとあおる。
「まっじい」
相変わらずの酷い味だった。
定刻までとても素面のままではいられなかった。
本当に少しだけでした。
百話以上続けてきた此の物語も、あと数話で完結します。




