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ぷち友情パワー編 3
久志はビールジョッキをゴトリと置いてこたえた。
「世界征服か。正直訳無い。朝飯前だろうな。ものすごーく呆気なく出来ちまう。でも、やっぱ駄目だ。やっぱり……。そんなのは……。だって、俺、小心者だもん。それにそんなのは超大国が小国に武力で正義を押し付けるよりたちが悪いよ。たとえそれがどんなに公正で純粋なものだったとしても。だって、そんなん無理矢理じゃん。俺はもう誰も傷つけたくないし、誰も殺したくなんかない。俺はもう誰とも戦いたくなんかないんだ」
「…そうか」
連蔵は小さく頷いてからこう切り出した。
「だったらお前、被ってみるか?」
連蔵の言葉に久志は二年前に「自衛隊になってみないか」と声をかけられた時のことを思い出した。身長が平均よりも高めだから眼についただけのことだろう。
「へっ? 被るってなに? ねこみみとか?」
「かわいくなってどうする? っていうか、野郎にねこみみはキショいだろ。いつからそういう趣味になった?」
「だったら何?」
「マスクだよ。それから全身タイツ」
「何でまた?」
「ツブシが効くってことだよ。それなら。この次終わったら正義の味方も休業だし、かといって、悪の大魔王になって世界征服するつもりもないんだろ? だったら世間に順応しろや」
「で、何やらせようってんだよ?」
「ラ○ガーだよ。ラ○ガー」
「ラ○ガー? ラ○ガーって、獣神?」
「ラ○ガーつったら他に何があるよ。マスク被って全身タイツ着込んでリングに上がれってこと。遮光カーテンの生地ででもコスチューム作りゃ何とかなるだろ。ピカピカ光ってたら普通の人間じゃねえことモロバレだからよ。そいでもって、むちゃくちゃ手加減して、いい感じで立ち回るんだよ」
「俺に出来るかな?」
「やれよ。お前。レッツ・トライだ。そしたら俺、ワ○マツやってやるよ。極悪マネージャー・ワ○マツ。お前がス○ロングマシンじゃないのはちょっと残念だけど。『元気があればなんでも出来る』って、しゃくれの偉い人は言ってるぞ」
「わあ、それってすごいや。初代タ○ガーマスクよりも強いんだよね」
篤もいい感じでアルコールがまわっているらしい。
「佐○なんか目じゃねぇよ。実際お前、すっげえと思うぞ。っていうか強過ぎ。その辺は俺が茶道としての経験から的確なアドバイスをくれてやるからよ」
そう言って、連蔵は久志の肩をポンと叩いた。
「『レェーベルが違うんだよ。レェーベルが』って脇で騒いでいるのもいいな。目隠し気味にバンダナ締めて。オ○ダのマネージャーみたいな奴っぽく。外○みたく。俺、ちょうど茶道だし。元ネタは邪○の方なんだけどよ。まあ、その辺は暖かく寛大な心で見てくれよ」
最後の飲み会も酔っ払いの与太話で終わってくれた。
友人達とは乗り継ぎの駅で握手して別れた。
「絶対に生きて帰ってきてよね」
とは、篤。
「まちがってももくたばるんじゃねえぞ」
とは、連蔵。
立っているのがやっとの状態で、久志は吊り革にぶら下がった。電車が大きく揺れる度に吐きそうになった。
友情パワー編 完




