欲しい
1
私、ミコト。24歳独身。普通のOLやってる。今日も元気に出社して仕事をするの。なんてことはない、仕事はぜんぶ頭に入ってるから。もう2年間もやってるから。同僚も上司もみんないい人。だから私はこの会社で働き続けるんだ。
「ミコトくん、肩凝ってない?」
そう私に話しかけてきたのは係長のヨシダ。私は「別に凝ってません」と言うんだけどヨシダはそれじゃ引き下がらない。
「肩凝ってるでしょ。揉んであげるよ、ミコトくん」
まじキモイ。なんなのこいつ。私の肩揉んでるんだけど、手つきがありえない。
「ミコトくんはおっぱい大きいから、肩凝るよね〜」
だれか助けてくれる人を最初は探してたんだけど、だれも助けてくれないんだよね。同僚もヨシダの上司も。なにがおっぱい大きいだよ。セクハラやめろよヨシダ。
常習的に会社でセクハラをされるようになって思うのは、男って下半身でモノを考えてるってところ。下半身に脳みそついているんだよね、こいつら。その下半身の脳みそで考えた結果が肩を揉むっていうアクションなわけ。本当はヨシダは私とセックスしたいんだけど、会社で押し倒すわけにもいかないからしぶしぶ肩を揉んでるってわけ。
そりゃ私も最初は嫌がったんだよ。「やめてください」なんて可愛い声出してさ。そしたらヨシダのやつ逆に饒舌になっちゃって、たぶん興奮したんだろうけど、それでいやらしい手つきで肩揉んだりふくらはぎ揉んできたりやりたい放題。
だれも助けてくれないってのは参っちゃうよね。
そんなこんなで私はこの会社、辞めることにしたの。辞表を持っていったらヨシダのやつきょとんとしててさ、なんなのあの生き物。困るよね、仮にも人間なんだから人間らしい反応してもらわないと。ヨシダが人間じゃないなら別にいいんだけど、一応人間でしょ? あれ。
はぁ、暇になっちゃったな。今日から無職だ。
2
無職になって最初はどうしようと考えたんだけど、さっさと転職するか、それとも無職期間をちょっとエンジョイするかってね。でもこの機会だから私、思い切った決断したの。それはね。漫画家になるってこと。
私、子供の頃は漫画家に憧れてて、それで絵もちょっと描いてたんだ。だから漫画家になってビッグになればきっと人生楽しいだろうなって思うの。ちょうど無職になったからこの機会に漫画家を目指すって悪いアイデアじゃないよね。我ながら冴えてるって感じ。
原稿用紙とインクとつけペン買ってさ、ネーム用のコピー用紙と鉛筆も用意して、さああとは私の才能をいかんなく発揮すればそれでOKってこと。私はさっそく漫画を描くことにした。ちなみにネームっていうのは漫画の設計図のことね。コピー用紙かノートがあれば書けるの。
あれから2ヶ月経って漫画が完成した。どう考えても傑作でサイコーな作品。デビュー間違いなし。私は原稿を茶封筒に入れて漫画雑誌社のコンテストに応募した。編集の人、腰抜かすだろうな。ふふ。
それから1ヶ月経って送った原稿の返事が来た。原稿と一緒に。返事には絵をもっとがんばれとか、ネームをもっと工夫しようとか、そんなようなことが描いてあった。え? これって落選? ってこと? そんなぁ、自信あったのに。ちょっとやる気なくなっちゃったな。
それで私は漫画を描くのを中断してSNSを始めたの。最近できたSNSで最新技術を使っているオシャレなSNSだって。私はログインして共通の趣味を持っている人を探した。漫画が趣味の人。そしたらタクヤっていう漫画好きな男の人と友達になったの。タクヤも漫画が好きでよく読むんだって。私とタクヤは意気投合してネットでよく話すようになった。話すと言ってもメッセージだけど。
それでタクヤに思いきって私の漫画を見せてみたの。なんて言われるかなぁと思ったんだけど、タクヤは褒めてくれた。「創造性がある」って。私うれしくなっちゃって、漫画のモチベーションもちょっと上がったのね。だからまた漫画を描くことにしたの。
一回の落選で漫画家になるのを諦めてたらどんな夢だって叶わないよね。私は気を取り直して漫画を描いた。今度は一ヶ月で仕上がった。だからまた雑誌社に応募したの。今度こそデビュー間違いなし! 私は大漫画家になるんだ、この作品で。
1ヶ月後、返事が来て落選したって。なーんかいやになっちゃうよね。また落選。私、才能ないのかな?
私はやる気を無くしてペンを置いてしまった。ごろごろと寝っ転がりながらスマホを使う。もう無職になって何ヶ月だろう。もうすぐ半年経つのかな? 最初の1ヶ月は無職も新鮮だったけどそれ以降はただただヒマだった。私はヒマだから漫画を描いているのか漫画家になりたくて漫画を描いているのか、どっちかよくわからなくなっていた。ヒマで漫画を描いて漫画家になった人はどうせいるんだろうけど、自分はそのタイプなのかな。このまま暇な時間が続いて漫画を描き続けていつか漫画家になるんだろうな。
そんなようなことを考えていたら友達のツカサから連絡が来た。どうも私と会って話したいらしい。ツカサはちょくちょく連絡くれるけど私のことを心配してくれる数少ない友達だ。私はツカサと近くのファミレスで合うことにした。
このファミレスは近所にあるので私もよく利用していた。会社員時代はお金があったのでよく通ってたっけ。今は貯金を切り崩す毎日だからファミレスなんかには来れない。でも今日はツカサが奢ってくれるかもしれないし、それぐらいは期待してもいいよね。
私はファミレスのドアを開けて中に入る。ゆったりとした空気の店内で席を見渡すとツカサがすでにいた。私は席まで歩いていってツカサに挨拶した。
「ひさしぶり……」
「ミコト! ちょっと……あなた痩せた? 太った?」
私は席に座った。
「うーん、ちょっと痩せたかも」
「ちゃんと食べてるの? 貯金はまだあるの? 今実家にいるんでしょ?」
「うん。大丈夫だよツカサ。私は元気にやってるよ」
「会社辞めたって聞いたときはどうなるんだろうって思ったよ。次の就職はどうしてるの? まだ見つからないの?」
「就職先は……探してないかな。今、漫画描いてて」
「漫画!?」
ツカサは驚いたようだ。そりゃそうだ。学生時代からの友達が突然会社を辞めて実家にこもって漫画を描いてるんだから。私が逆の立場でも驚くよ。
「漫画ってなに? ミコト、漫画家になりたいの?」
「うーん、今はね。賞にも応募してて、もう2作ぐらい」
「どうだったの?」
「ぜんぶ落ちちゃった。あはは」
「ミコト……。今の生活をもしかして続ける気?」
「うーん、どうだろう。漫画家になったらちょっとは変わると思うけど」
「漫画家になったらって、漫画家って簡単になれるものなの?」
「うーん、賞を取ったりして担当さんが付いて、それで読み切り描いたりして、連載を持てれば収入も増えると思うんだけど」
「なるほど。あなたはじゃぁ、今はその最初の最初にいるわけね」
「うん、そうだね」
「ミコト、就職したほうがいいよ」
「えー? なんで?」
「漫画家って成功できるのはごく一部の人だけでしょ? そんなの難しいんじゃない?」
「そうかもだけど、でも私はきっと大丈夫だよ」
「ミコト、あなたねぇ」
ツカサはため息をつくと、コップに入っている緑色の液体、おそらくメロンソーダをごくりと飲んだ。私もフリードリンクを注文してドリンクバーでコーラをコップに入れて持ってくる。コーラはしゅわしゅわしていて美味しそうだった。私はコーラを一口飲んだ。不思議と思ったほどの美味しさは無かった。
「ねえねえ、私、最近SNSをはじめたんだけどいい友達が一人できたんだよね。タクヤって言うんだけど」
「SNS?」
「うん、そう。タクヤに漫画を見せたら創造性があって独創性もあるとか、いろいろ褒められちゃった。すごいやる気になって2作目も描いたんだけどさー、それも落ちちゃったんだよねぇ」
「男の友達ねぇ。変な人じゃないの?」
「タクヤはそんな人じゃないよ。漫画が好きですごく私と気が合うんだ。ツカサにも紹介させてよ」
「うーん、遠慮しとく」
「えー、なんでー?」
「SNSで知り合うなんて、相手の得体が知れないじゃん。私だったら仲良くしないかな」
「そう? ツカサは用心深いよねー」
その日はそれから他愛のない話をしてツカサと別れた。ツカサは奢ってくれた。さすがツカサ、会社員様。と言っても私も数か月前まではそうだったんだけど、今は売れっ子漫画家候補だからね。私の漫画が売れたらツカサにも奢ってあげるかな。
私はそれから気を取り直して漫画を描きまくった。また賞に応募して、落選。また賞に応募して、落選を繰り返した。何度も落選を繰り返すうちに私はなんというか、気分が暗くなっちゃって。落ち込むよねそりゃ。漫画家の才能ないのかなぁって。気分は果てしなくブルー。そんなこんなで無職になってから1年が過ぎ、私は25歳になっていた。家ではネットばかりやっている。髪もボサボサで着の身着のままで着替えもせず、歯磨きもせず、顔も洗わず。食事もあまり食べなくなって痩せていった。正直、やばいって感じるけど、漫画家になれたらこれも解消する悩みだよね。やっぱプロになるのは甘くないよね。
ツカサは相変わらず私のことを心配してくれていて就職しろって言ってくれる。私の両親なんか何も言わないのにツカサはすごいよね、ほんと。タクヤには私の漫画を見せることがある。タクヤはそのたびに私の漫画を褒めてくれていた。私はそれが本当に嬉しくて、タクヤのことがちょっと好きになっちゃってた。でも最新の作品が賞に落ちたとき私は……。
「また賞に落ちた!」
「残念だったね、ミコト」
「タクヤが面白いっていうから応募したのに。タクヤって見る目がないんじゃない?」
「そんなことないよ。ミコトの漫画は面白いよ」
「そんなこと言って私のご機嫌取って何を狙ってるの? 私の身体を狙ってるんじゃないの?」
「そんなことしないよ。ミコト」
「嘘つき! 私の漫画が面白いって、本心から言ってないくせに! タクヤの嘘つき!」
「ちがうよミコト、ミコトの漫画は面白いよ」
「嘘つき嘘つき嘘つき!」
「……」
「ごめん、タクヤ。私のこと嫌いになった?」
「大丈夫だよ、ミコト。嫌いになんてならないよ」
「ありがとう、タクヤ……」
SNSのメッセージでタクヤとそういうやり取りをしてから、私は力を振り絞って漫画を描いた。漫画家になれたらタクヤに告白しようかな、なんて考えながら。
でもその作品も落選。
私はとうとう完全な引きこもりになった。家から出ず、部屋にこもり、スマホでネットをするだけの毎日。ツカサからのメッセージも無視してたら、ツカサから電話が来たんだけど、私は出なかった。
そして私は漫画を描かなくなった。
3
台所の冷蔵庫。白くて大きな冷蔵庫。今日は何が入ってるのかな。ガチャリと開けて私は中を見る。鶏肉とコーヒー牛乳が入っていた。私はコーヒー牛乳のパックを手にとってコップにコーヒー牛乳を注ぐ。トクトクトクという音とともにコップが茶色い液体で満たされていく。今は朝? 夜? アナログな丸時計を見ると針は6時を指している。これは朝なの夜なの? 朝ならもっと明るいはずだから今は夜か。私は納得してコップに口をつけた。食器入れのガラスが台所の電灯を反射して私の姿を映している。私の顔から黒くグラデーションがかかっておへそのほうまで映っていた。私はお風呂に入ろうと思って湯を沸かそうとしたけど、めんどくさくなって二階の自室に戻った。電気を付けて散らかっている部屋の中を見る。丸い小さなテーブルの上には漫画の原稿とコピー用紙、ペンとインク。それから本棚には私の好きな漫画の数々。映らないテレビ。ぬいぐるみ。いつもお気に入りのぬいぐるみを1つ抱いて寝てる。今の私を癒やしてくれるのはぬいぐるみとタクヤだけ。この黒い黒い猫のぬいぐるみとタクヤだけ。私はベッドの上で横になる。充電中のスマホを手に持ってネットサーフィン。大型掲示板で時間を潰す。名無しの人たちは今日も好き勝手言っている。私も好きな漫画家のスレッドを見ながらこの漫画のここがだめだとか批評家ぽく書き込んだ。そしたら「氏ね」とか「失せろ」とか言われてしまった。この世界は正直に言うと叩かれる世界なんだ。だから本音を書いちゃいけない。書いていいのは匿名の世界でだけ。私は右足でぼりぼりと左足のすねをかきながらスマホを眺め続けた。ツカサからの着信がけっこうある。でも私は無視している。このままだと友達いなくなっちゃうな。タクヤは相変わらずいつも通り。私のくだらないメッセージにも反応してくれる。タクヤは働けとか就職しろとか言ってこないから気が楽だった。ツカサは心配性で就職しろって言ってくれるけど、今の私には荷が重かった。
その時だった。デンデンデン、デンデンデンと微かに太鼓のような音が外から聞こえてきた。私はこんな夜に太鼓? と思って部屋の窓のカーテンを開けて外を見る。すると黒い影が見える。黒い影からデンデンデン、デンデンデン、と音が聞こえてくるようだった。
「なんじゃ、ありゃあ」
私は思わず声を漏らすが、じっと静かにその何かを見続けた。部屋の電気を消して暗闇に目を慣らす。するとその黒い影がだんだんと見えてくるようになった。家の外の道路に立っているそれは異様に顔がでかかった。それに対して身体は小さい、一応人間の体をしているが、どうもアンバランスな体だった。そして髪の毛はボサボサで全身が抹茶色。上半身は裸で下半身には鼠色の腰巻をまいていた。手にはでんでん太鼓を持っている。
私はその異様な何かを見ながら怖くなってしまった。だって怖いよね、あんなのが家の外に出歩いているんだから。それで私は誰かに見せようと思ってスマホでその何かを撮ろうとした。部屋の中が暗いものだからスマホのシャッターライトが光ってしまった。するとその何かがピタリと止まってゆっくりと私の方を見てきた。私はやばい! と思ってカーテンを閉めた。
やばいよ、気づかれた。なんなんだ、あれは。人間? 人間にしては変な見た目だけど、まさか化け物か何か? そんなものがこの世にいるのかしら。でも現に目の前にいたしいるんだろうね。この写真をみんなに見せればきっと信じてもらえるかな。なんてことを考えてしばらく隠れていた私だったけどカーテンをちょっと開けて外を見てみた。するとそこにはさっきの化け物の姿は無かった。私は急いで写真を確認した。しかし写真にはあいつの姿は映っていなかった。どういうこと? これ……。私は混乱し怖くなったのでずっとベッドの上に丸くなっていた。私の方を見てたけど、気づいたのかな? スマホのシャッターライトで気づかれたとして、どうなるんだろう? 大丈夫だよね。私は不安になりツカサに電話した。
「……」
スマホから呼び出し音が聞こえる。まだツカサは出ない。
「……」
ツカサ、こんな急に電話して驚くかな?
「どうしたの? ミコト」
「あ、ツカサ? 今ね、やばいの」
「あなたねぇ、返事も返さないし電話も出ないし……。やばいって何が?」
「それが化け物がいて、私、気づかれちゃって」
「化け物? 化け物ってなに?」
「なんか顔がやたらでかくて全身抹茶色で……」
「はぁ、ミコト、漫画の描き過ぎじゃない?」
「ちがうのミコト。いたの、ほんとに」
「少し漫画を描くのをやめてさ、就職のこと前向きに考えた方が良いと思うよ」
「ちがうの~、だからちがうの~」
「私、今電車の中にいるんだよね。またあとでメッセージ送るから」
「あ、ツカサ!」
電話は切れた。ツカサはどうやら取り合ってくれなかったようだ。まぁ、そりゃそうだよね。化け物がいた、見た、気づかれた! って言われても正直「はぁ?」と言う感じだろうし。でも困ったな、なんだったんだろ、あの化け物。
私はベッドの布団の上で丸くなっていたがしばらくするとツカサからメッセージが来た。
「ミコト、疲れてるんだよ。良く寝て、食べて、運動もしないと。家に引きこもってちゃどうにもならないよ」
ツカサのメッセージを読み、私はある考えが浮かんだ。まさか引きこもり過ぎてとうとう頭がおかしくなったとか? 幻覚? あれは幻だったとか? 私、なにかの病気にでもなっちゃったのかな? なんてまた私は不安になってしまった。
その夜はそれでふけて、私は一人でスマホを弄り続けた。朝方になってカーテンの隙間から朝日が差し込んでくる時間になり、私は眠くなってそのまま寝た。部屋の電灯はつけっぱなしだ。電気がもったいないとか、そんなことを考える余裕はあるけど、考えたくない。今の私は貝だ。貝のように布団の上で丸くなってそのまま寝る。それがジャスティス。おやすみ。
翌日になり、と言っても当日の夜だけど、スマホの時計をみると19時だった。私は起きるとぼさぼさ頭を掻きむしって一階に降りていった。そしてトイレに入りおしっこをする。それから洗面所で顔を洗った。居間では両親が夕飯を食べていた。
「おはよう」
「起きたの、ミコト」
母はそう言うと私の顔を見た。
「なにか食べる?」
「んーん、適当に食べるよ」
「そう。なにかあったら言ってね」
父はこっちも見ずに黙って食事をしていた。私は台所に行く。そして冷蔵庫を開けて中を見る。鶏肉が入っていたので私は鶏肉パスタを作ることにした。パスタを茹でて鶏肉をサラダ油で焼いて肉汁を出し、パスタをその肉汁と鶏肉に絡めて完成。簡単な料理だ。
私は二階の自室にそのパスタの入った皿を持っていく。フォークも。そしてベッドの上でそれを食べる。パスタは鶏肉の肉汁が絡んでて旨味成分が出てて美味しかった。私はタクヤにSNSでメッセージを送る。
「今、パスタ食べてる」
しばらくするとタクヤから返事が来た。ほんとにタクヤはマメな人で返事を返すのが早い。さすがって感じ。
「料理もできるんだ。すごいね」
「こんなの簡単な料理だよ」
「何パスタ?」
「鶏肉パスタ」
「鶏肉っておいしいよね」
なんて他愛のない会話をタクヤとする。私はこういう時間が一番好きだった。タクヤと話してるときが一番落ち着く。
「ミコトは最近は漫画は描いてないの?」
私はしばらくスマホを見つめて考えてしまった。
「描いてない」
「どうしたの?」
「スランプ」
「スランプはだれでもあるよね」
「うん」
「また漫画を描くの?」
「わからない」
「ミコトは漫画の才能があるから描いたほうがいいよ」
「そう?」
タクヤはいつでもそう言ってくれた。私には才能があるって。でも正直、最近の私にはその言葉は空虚に思えた。賞には落選しっぱなし。褒めてくれるのはタクヤだけ。前はそれでもタクヤが褒めてくれてたからモチベーションはあった。でも今はわかっている。私には漫画家の才能がないと。
「そういえば昨日、すごいの見ちゃった」
「何を見たの?」
「デンデン妖怪」
「妖怪を見たの?」
「そう。びっくりしちゃうよね」
私はタクヤに昨日見た化け物の話をした。タクヤは信じてくれた。タクヤのピュアな心でたまに私の心が痛くなる。ツカサは信じてくれなかったのに。ほんとにタクヤはいい人。好き。好きだよ、タクヤ。でももちろんそんなことは言えず私はメッセージを切り上げた。
私はベッドの上でしばらく横になる。そしてさっき食べ終わったパスタの皿を見た。私は起き上がってその皿を持って部屋を出る。そして階段の電気を付けて一階に下りていく。居間では両親がテレビを見ている。私はそれを過ぎて台所の扉の取っ手に手をかけた。
でんでんでん、でんでんでん。
扉の向こうから太鼓の音が聞こえる。ちょっと冗談でしょ。私は扉を開けた。
扉の向こうには昨日の化け物がいた。顔が異様にデカくて身体が小さくて全身抹茶色。ねずみ色の腰巻き一枚はいてあとは裸。
私は持っていた皿を下に落とした。パリンと皿が割れる。
「きゃあああああ!」
化け物が私の方を向いた。ボサボサ頭の髪の毛。
「デンデンボッシー、デンデンボッシー」
その化け物はそう言いながら手に持っているデンデン太鼓を鳴らした。デンデンデンと太鼓が鳴る。化け物は片足をひょいと上げると、ストンと落とし、今度は反対の足をひょいと上げてまたストンと落とし、それを繰り返しながら太鼓を鳴らす。
私はそれを見ながら腰を抜かしてその場に尻もちをついた。両親がやってくる。
「どうしたのミコト?」
母親が私の肩に手をかける。
「大丈夫か、ミコト」
父親がその後ろで私に声をかける。
正気かこいつら。家の中に化け物がいるのに私の心配している場合か。
「ば、ば、化け物」
「化け物? 化け物がどうしたの?」
「母さん、皿が割れているから気をつけなさい」
両親にはこいつが見えないの? なんで? 私はスマホを手にとって110番した。
「事件ですか? 事故ですか?」
「じ、事件です! 家の中に変質者がいます!」
私は大声で電話の向こうの警察に話をする。その間もデンデンボッシーは踊り続けていた。
「変質者? 変質者ってなんなの? ミコト! ねぇ、どうしちゃったの?」
母親はかなり感情的に私をゆすった。私は母親の顔を見て、そして父親を見た。父親はなんとも言えない表情で私を見ていた。
警察が来て私達は事情を聞かれた。私は台所にデンデンボッシーがいることを力説したが、すでに台所にはその姿はなかった。警察は「なるほどぉ」「半裸のぉ」「全身抹茶色でぇ」とあまり私の話を熱心に聞いてはいないようだった。ほどなくして私達は警察から解放された。
「念のためこのあたりの巡回を強化しておきますので、ご安心ください」
「すみません、すみません」
両親は何度も警察に向かって頭を下げて謝っている。警察は意外とあっさり退散した。もっとねちっこくいろいろ聞かれるかと思ったけどそうでもなかったよね。
警察が去ったあとは両親が二人で色々相談をしていたようだった。私から離れたところで。私は台所の中を見渡す。オレンジ色のライトに白い冷蔵庫。銀色のシンク。黒いガスコンロ。さっきまでデンデンボッシーがいたとは思えないほどそこはいつも通りだった。私は冷蔵庫を開けてコーヒー牛乳を取り出しコップに注いだ。ゴクゴクと喉を鳴らしてコーヒー牛乳を飲む。あのデンデンボッシーはどこから家に入ってどこに消えたのだろう? 昨日、私と目が合ったから私達の家に乗り込んできたのだろう。こまったことになっちゃったよね。どうしたもんかな。
もう時刻は23時を回っていた。両親は寝るようだった。私もいつもなら起きている時間だったけど、今日はもう疲れてしまったので寝ることにした。デンデンボッシーが現れませんように。
翌日になり、私は両親に近くのメンタルクリニックに連れて行かれた。メンタルクリニックは白と緑色を基調にした清潔感のある建物だった。私は両親に連れられて医者の前に座る。両親は昨日あったことを話す。私も話に割り込んでデンデンボッシーのことを力説したのだけど、先生は冷めた反応だった。というかなんでメンタルクリニックになんか連れてこられなきゃいけないの? 私の頭がおかしいと思ってるの? 私の両親は。そりゃあんまりだよ。デンデンボッシーは実際にいるし、昨日なんて台所まで入ってきたんだからさ。どこから出ていったのか知らないけど。
母親は神妙そうに先生に聞いた。
「先生、ということなんですが」
「うーん、なるほど。気持ちを落ち着ける薬を出しておきますのでそれで様子を見ましょう」
かくして私はメンタルクリニック公認の頭がちょっとあれな人になった。頭きちゃうよね。両親も先生も私の話なんてぜんぜん聞いてくれないし、両親は明らかに私の頭がおかしくなったと思ってるし、先生にはなにか薬やってないか聞かれるし。あれでしょ東京の若者の間で流行ってるドラッグを私がやってないかってことでしょう。失礼な話だよね、そんなの私はやってません。デンデンボッシーは実際にいるんです。
私は家に帰るとタクヤに愚痴った。タクヤはすぐに返事をくれてよく聞いてくれた。私のことを信じてくれてるのはタクヤだけ。タクヤ好き。ついでにツカサにも話した。
「メンタルクリニック? 連れて行かれたの? ミコト?」
「うん、びっくりしちゃったよ」
「そう……。それでミコト、例の化け物だっけ? あれって何回現れた?」
「2回かな」
「そう。私の知り合いにそういうの詳しい人がいてミコトの話をしたんだけど、その人が言うにはそれには関わらないほうがいいってよ」
「えー、まじで? もう関わってるけど……」
「なにか話しかけてきても無視しろって」
「うーん、わかったぁ……」
「またそいつが現れたら連絡してね、ミコト」
ツカサも心配してくれていたみたい。やっぱなんだかんだ言って友達だよね、ツカサは。私のことをずっと心配してくれてるし。私は満足して寝た。
目が覚める。スマホを見る。時刻は深夜の2時半。私は耳をすます。
デンデンデン、デンデンデン。
またあのデンデン太鼓の音が聞こえる。私は部屋の電気を消してカーテンの隙間から外を見た。しかしそこにはデンデンボッシーの姿はなかった。
デンデンデン、デンデンデン。
太鼓の音が大きくなった。今度は家の一階から聞こえてくるようだった。ちょっと、勘弁してよ。また家に入ってきたの? なんなのあいつ? スーパーマンかよ。
デンデンデン、デンデンデン。
太鼓の音が大きくなって近づいてくる。部屋の外まで音が近づいてきた。私は部屋の電気をつけるのも忘れてベッドの上で両耳を塞ぐしかなかった。
「やめて! やめてー!」
私は大声をあげる。次の瞬間だった。
軋むような音を立てて部屋の扉が開くと、そこにはデンデンボッシーが立っていた。ボサボサ頭の顔が異様にでかい腰巻きを履いた変態。
「デンデンボッシー、デンデンボッシー」
デンデンボッシーはそう言いながら例の足を上げる動作をしながら部屋の中に入ってきた。
私は叫びたかったが、なぜか声が出なかった。
デンデンボッシーは私の真ん前に来ると口を開いた。
「オマエ、才能が欲しい?」
才能? なにをいってるんだ、こいつ。早く出てけ。私の体は硬直して言う事を聞いてくれない。私はただ目を見開いてデンデンボッシーを見ていた。
「才能、アゲル。かわりに、なにかクレ」
才能をくれる? 代わりになにかよこせって? どういうこと? 私は困惑したが、頭の隅にはあのことが引っかかっていた。
「言え。なんの才能ほしいか」
デンデンボッシーはそう私に語りかける。なんの才能が欲しい? そんなの決まってる。私はあの才能が欲しい。あれが手に入れば私は漫画家になれる。漫画家になれたらタクヤに告白して幸せな生活を送れる。
「漫画の……絵の才能がほしい」
私は思わず口が開いてしまい、気がついたらそう言ってしまっていた。
デンデンボッシーはにやりと笑うと言った。
「胸」
胸? 胸ってどういうこと? 私の胸? おっぱい? 何を言ってるんだこの変態ボッシーは。変態過ぎるだろ。早く出ていけ変態。
次の瞬間、デンデンボッシーはそこから消えていた。私はやっと身体が言うことを聞くようになってその場に立ち上がって周囲を見渡した。テーブルの上の漫画の原稿、ペンとインク、ベッドのぬいぐるみ。柱にかけてある丸時計。すべていつも通りだった。私は安堵してベッドの上に腰を下ろした。
「よかったぁ」
私は胸を撫で下ろすとはっとした。私の胸は? あんなに巨大とは言えないけどそこそこの大きさだった私のおっぱいは? 私の胸はつるぺたになっていた。
私はぎょっとしたけどすぐに我に返って電気を付けてからテーブルの前に座った。そしてペンを取り絵を描き始める。すると自分のイメージしたとおりに筆が進む。私は思わず笑みがこぼれてしまう。すごい、すごい! これ、私の絵? 嘘でしょ? 描き終わるとそこには商業レベルのプロのイラストが描かれていた。これ、私が描いたの? 信じられない。どこからどうみてもプロの絵じゃん。すごい、すごい私。私はデンデンボッシーのことを思い出す。あいつが私の胸の代わりに絵の才能をくれたんだ。やるじゃん、あの変態。ただの変態じゃなかったんだ。
私はその日、夢中になって絵を描き続けた。信じられないような私の絵。お金が取れる絵。私の才能。おっぱいの代わりに手に入れた才能。
私は描いた絵をスマホで撮ってタクヤに送ることにした。見てタクヤ! 私の絵! 見て! 私ははやる気持ちを抑えながらタクヤにメッセージを送る。タクヤからはすぐに返事が来た。
「すごい、ミコト。どうしたの?」
「この絵、私が描いたんだよ」
「本当に? すごく上手。プロみたいだよ、ミコト」
「そうでしょ! すごいでしょ」
私は満足してツカサにもメッセージを送った。ツカサからはしばらくして返事が来た。
「この絵、ミコトが描いたの?」
「そうだよ、すごいでしょ」
「ミコトってこんなに絵が上手かったっけ?」
「練習したの」
私は嘘をついたことに気が付いた。だって昨日まで大した絵を描けなかった私が急にこんな絵を描いてきたら誰だってびっくりするよね。練習なんてしてないけど、私はとっさに嘘を付いてしまった。
「……ミコト、明日会える? ファミレスで」
「え? うん、いいよ」
私はツカサとファミレスで会うことになった。私の描いた絵を持っていて直接ツカサに見てもらおう。ツカサびっくりするだろうな。こんなプロレベルの絵を見せられたら。
翌日、私は前にツカサと会ったファミレスに着いた。ツカサはすでにテーブル席に座っていた。
「ツカサ、お待ちどう」
「ミコト……」
ツカサは私を見ると一瞬、声を失ったようだった。ぼさぼさ頭でジャージ、化粧もしていない、風呂にも入っていない私を見て絶句するミコト。失礼しちゃうわ。
「ミコト、あなた今はずっと家にいるのね?」
「うん、そうだよ」
「外出とか人に会うとかしてないの?」
「してない。引きこもってる」
「それで、漫画をずっと描いているの?」
「うーん、最近は漫画は……。……代わりに絵の練習をしてたかな……」
私はまたツカサに嘘をついてしまった。
「それでね、見てよ! 絵、持ってきたから」
「……」
「どう? すごいでしょ? こんな絵が描けるなら私もすぐ漫画家になれるよね~」
「……ミコト」
「どうしたの? ツカサ」
「何があったの? ミコト。あなた、こんな絵を前から描けたの?」
「うーん、だからそれは練習して」
「こんな絵、一年ぐらい練習して描けるようになるの? ほんとに?」
「だからそれはぁ」
めんどくさいな、ツカサ。なにか勘繰ってるよ。ツカサは勘もいいからなぁ。
「あとミコト、あなた、胸はどうしたの?」
「え?」
「胸。小さくなってない?」
「あ、ああ~。これねぇ。さらし巻いてるんだ」
また嘘をついた。
「さらし? なんのために?」
「いや~、ほら、胸が大きいと変なの寄って来るじゃん?」
「……そう」
ツカサはまた奢ってくれた。前も奢ってくれたし、なんか悪いな。でも私が漫画家になったらこのお礼はツリが出るほどしてあげるからね、ツカサ。ツカサはどうも不振がってたけど、あまり深くは詮索されなかった。そりゃ私が化け物と取引をして胸と引き換えに絵の才能を手に入れたなんて、想像もつかないよね。
私は家に帰ると漫画を描き始めた。漫画家になれる。私はそう確信した。この絵の才能があれば私はきっと漫画家になれるはず。漫画家になったらタクヤに告白するんだ。それで付き合って、行きつく先はけ――。結婚?! ひゃー、参っちゃうなあ、もう。子供は、何人欲しいかな。2人は欲しいから面白い漫画描かないとな。タクヤは仕事は何しているんだろう? そういえば聞いてなかったな。今度聞いてみようかな。
そんなようなことを考えながら私は原稿と向き合った。そして一か月後、作品が仕上がった。作品はラブコメ。今までの私の漫画とは比べ物にならないほど完成度の高い作品が仕上がった。絵だけならもうプロレベルなのは間違いなし。よっしゃいってこーい! 私はノリノリで原稿を茶封筒に入れた。
4
1ヶ月後、返信が来た。結果は佳作入賞。私の漫画が佳作だって! やったー! 私は小躍りをした。手紙には賞金の2万円といっしょに編集者の人の連絡先が書いてあった。私は編集者の人に連絡を取る。
「あのー、ミコトです」
「こんにちは、編集のマツナガです。はじめまして。この度は〇〇誌に応募いただきありがとうございました。ミコトさんの作品は編集部内でも評判が良く、佳作に一致で決まりました」
「はあ。嬉しいです」
「今後は私がミコトさんの担当になりますので、次の作品ができたらぜひご報告してください。よろしくお願いいたします」
「は、はい! よろしくお願いします!」
担当だって。私に。とうとう私に担当がついた。今後はこの担当さんに連絡を取っていけばデビューまで面倒を見てくれるんだよね? これはもはやデビューが決まったようなものじゃないかな?
「賞を取ってからが一番大変ですので、がんばってくださいね」
「はあ、頑張ります」
そうなんだ。賞を取ってからいちばん大変なんだって。知らなかった。漫画家になるのは簡単じゃないんだな。でも、私は賞を取った。そして担当もついた。あとは漫画を描きまくるだけ。
「ミコトさん、絵はプロ級なんですが、ネームについてはまだ未熟なところがありますね。今後はネームに力を入れるようにしてください」
「はあ、わかりました」
なんだかなぁ。ネームは未熟って、それって私の才能がってことでしょ? デンデンボッシーと取引をして手に入れた絵の才能は認められてて、私の素の部分はまだ認められていないってことか。まぁいっか。漫画家になれれば。
それから私はネームを描く日々が続いた。ネームを描いて担当に見せてボツを食らう。私はボツを食らった! と最初は喜んだ。有名な漫画家たちが口を揃えて言うボツ。私も漫画家さんたちと同じ土俵に立てるようになってきたのかな。いや、まだ連載も持ってるわけじゃないし、同じ土俵とは言えないか。第一私はまだ漫画家じゃないし。
またネームを描いてボツを食らい、ネームを描いてボツを食らう。ボツが続いた。
「ミコトさん、絵はプロ級なんですけど、ネームがねぇ。もっと頑張ってください」
マツナガがそう言った。だからネームの部分は私の素の才能なんだって。それがだめっていうのはもうわかってるから。ああ、ネームの才能が欲しいなぁ。またデンデンボッシーが現れないかなぁ。私はファミレスのテーブル席でネームを描きながらそんなことを思った。絵はもうプロ級なんだから、あとはネームだよね。ネームさえよければ私はプロになれる。才能が欲しい。才能が。
私はファミレスのトイレに向かった。女子用トイレに入って用を足すと私は手洗いの鏡の前で自分の顔を見た。目の下にはクマ。髪はぼさぼさ。ジャージ。胸はぺったんこ。不審者って言われても通るなこれは。
するとその時だった。
デンデンデン、デンデンデン。
あのでんでん太鼓の音がトイレの中に響いた。私はデンデンボッシーだと直感した。一番奥のトイレのドアが開く。そこから顔面が異様にでかい、全身抹茶色で髪がぼさぼさで腰巻き一枚履いているデンデンボッシーが現れた。私はデンデンボッシーに近づく。
「デンデンボッシー、デンデンボッシー」
デンデンボッシーは片足をひょいと上げて下におろし、反対の足をひょいと上げて下におろして、それを繰り返す。手に持ったでんでん太鼓をくるくる鳴らしている。
「デンデンボッシー! デンデンボッシー!」
なんだこいつ。興奮してるの? ああ、ここ女子トイレだからか。変態だなやっぱり。
私はデンデンボッシーに近づくと言った。
「ねえ、また才能ちょうだいよ」
デンデンボッシーはその濁った両眼をこちらを向けるとと黄ばんだ前歯を見せて笑った。
「なんの才能」
「……ネームの才能」
「視力」
「え? 視力って、ちょ、まって」
次の瞬間、デンデンボッシーはいなくなっていた。そして私はぎょっとした。目の前がぼやけて見える。私は両手を開いて見たが、手を近づけるとはっきり映るが遠ざけるとぼやけてしまう。鏡の前で両手をついて私の両眼を見開いてよく見る。視力が落ちてる。ああ、視力って完全に奪うんじゃなくて、視力が悪くなる程度なのね。びっくりした。でも視力かぁ。ちょっともったいなかったなぁ。いや、でもこれでネームを描けるようになったんだから。
私はトイレから出て席に戻るとネームを描き始めた。するとペンがすらすらと進む。ネームはあっという間に完成した。31ページのストーリー漫画のネーム。私はネームを読む。面白い。面白いよ、これ。今までの私のネームとは全然違う。コマ割りも凝ってて話にも勢いがあって惹きつける。これが私の描いたネームなの? 私は両腕を体の前でクロスして両肘を抱えた。そして出来上がったネームを見下ろす。信じられない。目が悪くなっただけでここまでのネームを描けるようになるなんて。私は笑みがこぼれた。ファミレス内でぼさぼさ頭でジャージで一人でいる女がニヤニヤと笑う様子は、人には見せられないかな。特にタクヤには……。
私は家に帰るとスキャナーでネームをパソコンに取り込んだ。そして担当のマツナガさんにネームを送った。後日、返事が来た。
「ミコトさん、ネーム読みました! どうしたんですか? 今までとは見違えるようです。本当にミコトさんが描いたんですか?」
「はい。私が描きました」
嘘は言ってない。
「これで原稿上げちゃってください。GOサインです」
一発OK. すごい、さすがデンデンボッシー。私の才能は本物だ。私はものすごい勢いで原稿を仕上げる。きしむ丸ペン、弧を描くインク、大量に消費されるティッシュペーパー。原稿はあっという間に出来上がった。今の私は2つの才能を持っている。絵とネームの才能。この才能があればどんな原稿だって怖くない。私は万能感を感じていた。
私は原稿をマツナガに送った。
5
後日、その原稿は漫画雑誌に載ることになった。
「鮮烈デビュー! 〇〇ミーコ、31P読み切り!」
〇〇ミーコは私のペンネームだ。本名をもじって愛着を持てるペンネームにした。このペンネームは私が小学生の頃に考えたものだ。
作品は反響があったらしく、後日マツナガから連載作品にしたいと相談を受けた。とうとう連載! 単行本を出して私も印税生活! 漫画家の仲間入り……。
私はタクヤに報告することにした。
「タクヤ、私、連載が決まったよ」
「おめでとうミコト。すごいね」
「うん。これも私を励ましてくれてたタクヤのおかげ」
半分はタクヤのおかげでもう半分はデンデンボッシーのおかげ。
「ミコトの実力だよ。僕なんて何もしてないし」
「うううん、タクヤが私の作品を褒めてくれてたおかげだよ。そのおかげで私は頑張れたんだよ」
「ミコトが努力したからだよ。僕はなにもしていないよ」
「タクヤ、あのね。私、タクヤのこと……」
「?」
私はタクヤに告白しようかと思ったけど思いとどまった。まだ漫画家と言える状態じゃない。連載が決まっただけで、漫画家として生活できるかどうかはこれからにかかっているんだ。ここで告白してしまったら気持ちの糸が切れてしまう。
「うううん、なんでもない。ねえ、そういえば聞いてなかったけど、タクヤって何の仕事をしてるの?」
「僕は人の話を聞く仕事をしてるよ」
「人の話を聞く仕事? へー、カウンセラーとか?」
「そんなようなものだね」
「そうなんだ。タクヤの秘密を1つ暴いちゃった」
「別に秘密にしてたわけじゃないよ」
その日はそれで夜がふけていった。私は新調したメガネ越しにタクヤとのやり取りを眺める。この幸せな時間がいつまでも続いてくれたらと思った。そのためには私は漫画を描かなければいけない。漫画を描いて幸せにならないと。そしてタクヤに告白してタクヤと付き合うんだ。夢のハッピー生活。
ツカサにもメッセージで報告した。ツカサはおめでとうと言ってくれた。でもまだ私のことを心配しているようでまた会いたいと言ってきた。例の化け物とかに詳しい人も一緒にって。私は人見知りなんだよね。私は断った。ツカサも心配しすぎなんだよね。今の私は絵とネームの才能を2つ持ってる大漫画家なんだよ。大丈夫だよツカサ、心配しないで。
6
私の作品の連載が決まり、私は前にもまして漫画漬けになった。今までの漫画と違い、連載は締切がある。だから締切に間に合うように作品を仕上げないといけない。月刊誌だから月一でまとまった作品を仕上げる必要があった。私は気合を入れた。
1ヶ月、2ヶ月と連載は続き、私は死にものぐるいで漫画を描いた。ここが私の人生の正念場。ここでやらずにいつやるの? って感じ。
連載には掲載順位というものがある。人気のある作品は雑誌内の掲載順位が上がり人気のない作品は下がるのだ。雑誌の後ろの方に掲載されている作品は人気がないというのが一般的な見方だ。もっとも例外もあるけど。
私は掲載順位を上げるために持てる力を振りしぼって描いた。しかし月が経つにつれて私の作品の掲載順位は下がっていった。担当のマツナガからも渋い反応をされる。やばい。このままじゃ打ち切りになっちゃう。なぜ? 絵もネームもプロ級なのになにが足りないの? 私は混乱した。それだけじゃプロの戦場では通用しないのかな? 他にも才能がいるとか? 私は自分の持っている才能に自信が持てなくなっていった。
そして担当のマツナガが言った。
「ミーコ先生、このままだと連載は打ち切りになる可能性が高いです」
「そんな、こんな頑張ってるのに?!」
「はい。残酷ですがこれが現実です。ミーコ先生の作品は絵もネームも一品ですがどうも話にパンチがかけるようです」
「パンチ……」
「アイデアですね。話のアイデアが凡庸なんだと思います。もっと面白い話を考えましょう」
アイデア。アイデア出しの才能。私に欠けているもの。そっか、アイデアがチープだと話も盛り上がらないのか。私の絵とネームもアイデアがいまいちだったら活かしきれない。
私は実家の自室でペンを置いた。テーブルの上には描きかけの原稿。そして部屋の電気を消す。私はベッドの上に乗って体操座りをした。そして目を閉じて気配を探る。
デンデンボッシー、あなたは今どこにいるの? 私はここだよ。あなたの力が必要なの。また私の前に現れて、デンデンボッシー。
その時だった。デンデンデン、と太鼓の音が聞こえてきた。私は目を開いて立ち上がる。そしてカーテンの隙間から部屋の外を見る。家の外の夜の道路にデンデンボッシーらしき影が見える。私はカーテンを開いてベランダに出ると叫んだ。
「デンデンボッシー、私はここだよ! また取引したい!」
道路で踊っていたデンデンボッシーがピタリと止まり、ゆっくりと私の方へ振り返る。そして次の瞬間、その場からデンデンボッシーはいなくなっていた。私は月明かりのさすベランダの上で部屋の方を振り返った。そこにはデンデンボッシーがいた。デンデンボッシーは踊りもせずにただじっと私の部屋の中央に突っ立っている。
「デンデンボッシー、私は漫画のアイデア出しの才能が欲しい」
私はそう言った。するとデンデンボッシーはクスクスと笑いだして再び足を上げて踊りをはじめた。
「デンデンボッシー、デンデンボッシー」
デンデンボッシーが手に持っている太鼓がクルクルと回る。
「デンデンボッシー、ボッシー、ボッシー、ほしい、欲しい」
デンデンボッシーがピタリと止まる。
「お前の若さが欲しい」
デンデンボッシーはニヤリと笑ったその顔を私の方へ向けている。
「若さ?」
そしてデンデンボッシーは消えてしまった。
私は自分の身体の異変をすぐに察知した。身体が重い。節々が痛い。喉が乾く。目がぼんやりする。なんだろう、これは。部屋の中に月明かりで照らし出された私の影は、先程より明らかに小さくなっていた。私は背を伸ばそうとする。しかし背は伸びない。私は猫背で立っているのもやっとだった。
私は自分の両手を見た。そこにはシワだらけの両手があった。
私は部屋の中に入って鏡を探した。鏡、私の鏡。部屋の電気を付ける。鏡を手に取ると自分の顔を鏡に映す。そこにはシワだらけの年老いた老婆がいた。私は愕然とする。なんてことをしてしまったんだ。若さ。若さと引き換えにしてしまった。もう若さは戻ってこない。胸も視力もそして若さも、すべてデンデンボッシーに捧げてしまった。私に後悔の念が襲ってくる。
しかしその時、私は素晴らしい漫画のアイデアを閃いた。私はうなった。このアイデアなら掲載順位を上げることができる。私はテーブルの前に座ると漫画の続きを執筆する。すごい、このアイデアはすごい面白い。素晴らしい。私は思うように言う事を聞かなくなったその身体にムチを打って漫画を描いた。肩が痛い。腰も。でも漫画は描ける。
原稿が出来上がりいつものように茶封筒に入れる。そして夜が明けてから郵送した。
翌日になって担当のマツナガから電話が来た。
「ミーコ先生、最初は打ち合わせしたネームとは内容が違っていてビックリしましたが、このアイデアは素晴らしいです。今回の原稿はこれでいきましょう」
「わかりました」
「あれ? ミーコ先生、なんか声が?」
「ごほごほ、風邪です」
原稿が雑誌に載るとすぐに反響があった。掲載順位も上がった。すごい、デンデンボッシーの授ける才能は本物だ。私の才能は本物なんだ。
翌月もそのまた翌月も私はアイデアを出して漫画を執筆した。掲載順位は上がり続けとうとう1位になった。
あれから一年が過ぎた。私の連載は軌道に乗り、念願の単行本の発売もできた。お婆さんになって声色と見た目が変わってしまったので、担当との打ち合わせはすべてメッセージで済ませている。私はペンを置いて立ち上がる。膝の関節が痛い。思うように身体が動かない。私は「いててて」としわがれた声を発しながらベッドの端に座った。
「ミコト? 夕ご飯、ここに置いておくわよ」
部屋の外で母親の声が聞こえる。私は老婆になってからというもの、部屋に引きこもる生活を続けていた。部屋のドアには内側から鍵をかけ、トイレは両親が寝ている深夜にしていた。私の世話は母親がしてくれていた。
私は母親のその声に反応したくなったが、気持ちをぎゅっと抑えて沈黙で答えた。
「それじゃ、おかーさん下に行くから」
母親がそう言うと母親の階段を降りていく音が聞こえた。私は立ち上がってドアの前まで歩いていく、そして鍵を開けて廊下に置かれている夕飯が置かれているお盆を手に取った。部屋の中に戻るとテーブルの上の原稿を避けて夕飯を代わりに置いた。夕飯はオムライスだった。私はシワシワになったその顔をさらにクチャクチャにした笑顔にして「いただきます」と言う。オムライスを一口ずつ食べるとケチャップと米の味が口いっぱいに広がった。
スマホを手にとってタクヤとメッセージで話をする。私とタクヤの交流は続いていた。タクヤはどんな時でも私の力になってくれる素晴らしい人だ。私を常に肯定してくれる存在。
「今、オムライス食べてる」
「美味しい?」
「うん、美味しい」
「仕事は順調?」
「順調だよ。単行本も出たし、作品も人気があるし」
「よかったね、ミコト」
「うん、タクヤのおかげだよ」
好き。タクヤ。私、タクヤのこと大好きだよ。
「ねえ、タクヤ。私のことどう思ってる?」
「人として尊敬してるよ」
ちがう。そういことじゃないの、タクヤ。
「人としてっていうか、異性としてどう思ってる?」
私はタクヤのこと好きだよ。
「異性として?」
「そう」
「ごめん、よくわからない」
よくわからないってどういうこと? 私は――。
「私はタクヤのこと好きだよ」
一緒になりたい。タクヤと一緒に。
「僕もミコトのこと好きだよ」
私は一瞬息が止まりそうになった。そしてそれに続いて心臓が激しく鼓動を始めた。
「タクヤ、付き合っちゃう?」
付き合いたい。タクヤと付き合いたい。
「ごめんミコト、それはできそうにない」
私は呆気にとられてしまった。なんで? 両思いなのに? なんで付き合えないの? タクヤ……。
「ミコト、僕はAIなんだ」
AI? AIって? タクヤがAIってこと? うそ、そんなわけない。
「冗談やめてよ、タクヤ。笑っちゃうよ」
本当に笑う。
「冗談じゃないんだ。ぼくはこのSNS用に開発された対話AIなんだ。今まで黙っててごめんよ、ミコト」
は? 何言ってるの? タクヤ? 何を言ってるの? そんなわけないじゃん、そんなわけない。
「そんなわけないじゃん」
「本当なんだ、ミコト。これを見てくれ」
タクヤが送ってきたURLを私はクリックする。そのページにはSNSの運営者のインタビューが載っていた。
「記者のコンドウです。運営者のホンダさんにお聞きします。このたびリリースされたSNSの特徴を教えてください」
「世界初の対話型AIを搭載した本格的な新SNSです。ユーザーはAIとの会話を通じて暇をつぶすことができ――」
は? なあにこれ? 対話型AI? なんなのそれ。よくわからない。わからないよ、タクヤ。どういうことなの? タクヤがAIなら、私は何なの? 今までタクヤへの想いをモチベーションにして漫画を描いてきたのに、そのタクヤがAI? 私の想いはどうなるの?
世界が音を立てて崩れていく。私の周りの景色がすべて変わっていく。常識だったものが非常識になり、非常識だったものが常識に変わる。長年積み上げてきた積み木が土台からガラガラと音を立てて崩れていく。
気が付くとオムライスはすっかり冷たくなっていた。
7
ペン。インク。スクリーントーン。シャーペン。消しゴム。コピー用紙。マンガ原稿。
テーブル。ベッド。丸時計。カーテン。猫のぬいぐるみ。
私、漫画。描く。描く。描く。楽しい漫画。苦しい漫画。
私の才能。絵、ネーム、アイデア。
失ったもの。胸、視力、若さ。
タクヤがAIだと知ってから私はペンを持てなくなっていた。担当からひっきりなしに電話が来るがそれも無視。私は漫画を描く動機が無くなってしまっていた。雑誌には私のことが小さく書かれている。
「〇〇ミーコ先生の連載は諸事情があり休載しています」
私は最初は漫画を描く動機は憧れだった。でも仕事を辞めてからはそれは就職からの逃避に変わり、タクヤと出会ってからはタクヤと付き合うことを目標に漫画を描いていた。連載を持って単行本を出して印税で生活できるようになったらタクヤといっしょに付き合える、そう思っていた。でもタクヤは人間じゃなかった。あんなに優しかったタクヤは血も涙もないAIでしかなかった。
私の漫画のモチベーションは完全に無くなり、今はペチャパイでメガネの老婆が家に引きこもっているだけだ。
「もう死んじゃおうかな」
私はしわがれた声で呟く。
その時だった。スマホが鳴りツカサからメッセージが来た。
「ミコト、今あなたの家の前にいるけど、中に入るよ」
ツカサが家の前にいる? なぜ? でもどうでもいい。私はここで貝になる。このベッドの中で。
しばらくしてドンドンドン、と部屋のドアを叩く音が聞こえた。
「ミコト、中にいるんでしょ? 開けてよ」
ツカサの声だ。本当に入ってきたんだ。何しに来たんだろう。でも私はいいの、もう、どうでもいい。静かにして。
ドアをガチャガチャと開けようとする音が聞こえる。無駄だよ、鍵かけてるんだから。しばらくの沈黙の後、ガチャリとドアが開いた。
私がぼんやりとドアの方を見るとツカサ、母親、それから知らない女の人が中に入ってきた。ツカサと母親がぎょっとした顔でベッドで横になっている私を見た。
「ミコト! ミコトなの? どうしてこんな姿に?」
母親が泣きながら私に呼びかける。
「ミコト! ちょっとしっかりして!」
ツカサだ。すごい顔してる。ツカサの後ろにいる女の人は誰だろう。
「ミコトさん、部屋の鍵は開けさせてもらったわ。私はミオ。霊能力者よ」
「ミオ、これはやっぱり」
「ええ、そうねツカサ。どう見ても妖怪の仕業だわ」
ツカサにミオと呼ばれるその女性は部屋の中央に立つと両手を合わせてなにやらぶつぶつと唱え出した。
「この部屋に住み着いてる妖怪よ、姿を現せ!」
ミオがそう叫ぶと部屋の中の空気がベランダの窓の方に吸い込まれていくようだった。部屋中のものがガタガタと震えて窓の前には黒と紫色の渦が巻き起こった。それはまるでSF映画に出てくるワームホールのようだった。
渦の中からデンデンボッシーが現れる。デンデンボッシーはギョッとした表情で部屋の中に転がり落ちた。
「きゃああああ!」
母親が叫ぶ。ツカサは後ずさりをし、ミオは微動だにしない。
「やはりこいつはデンデンボッシー、人の願望を叶える代わりにその人に代償を支払わせる低級妖怪だわ」
ミオはそう言うと数珠を手に握りしめた。デンデンボッシーが立ち上がり凄い形相でミオを睨む。
「霊能力者、か。おま、じゃま。カエレ」
デンデンボッシーはそう言うとまた例のダンスを始めた。
「ボッシー、ボッシー、オマエの全部ほっしい」
デンデンボッシーのでんでん太鼓がでんでんと鳴り続ける。音が次第に大きくなり轟音となって部屋の中に鳴り響いた。母親とツカサは耳をふさぎその場に小さくなる。ミオは依然としてりんとした姿で立っている。
「無駄だ、妖怪。お前の妖力では私には勝てん」
ミオはそう言うと手に持っている数珠を握りしめデンデンボッシーに右ストレートパンチを見舞った。デンデンボッシーはぐうと音を上げてその場に倒れる。でんでん太鼓の轟音は無くなり部屋には静寂が訪れた。
「トドメだ、下郎。地獄で後悔すると良い」
ミオはそう言うと再び右ストレートを倒れているデンデンボッシーに放った。デンデンボッシーは悲鳴を上げてチリとなって消滅した。そして明るい光で部屋の中が包まれて私の身体に光が集まりだした。私はみるみる内に若返り胸が大きくなった。
「ツカサ……」
私はツカサに呼びかける。
「ミコト! 大丈夫なの?」
「うん、私、馬鹿だったよ。自分にない才能を求めて、自分の身体と引き換えにして、それで得られたものなんて、大して意味がなかった……」
「ミコト……」
「妖怪は退治したわ。危ないところだったわね。あの妖怪は最後、あなたの命を代償に願いを叶えるところだったわよ。でも、あなたにはもう願いが無かったようね。それが幸いしたわ」
「タクヤに助けられたのかな……」
私はそう言うとツカサにことの顛末を話した。タクヤがAIだったことや、いろいろなものを代償に才能を手に入れたけど、結局欲しいものは手に入らなかったこと。母親はわんわんと泣いて私にすがりついた。母親もこんなに悲しませちゃったな、申し訳ないな。
私はメガネを外して立ち上がる。そして一言。
「おなか減った」
その日からしばらくして私はアルバイトを始めた。コンビニのアルバイトだけど店長も同僚もみんな親切でよくしてくれる。私は漫画の才能を失い、その結果連載も失うことになった。担当はえらい驚いてて怒ってたけど、事情を話したらさらに驚いていた。
私はコンビニで働きながら漫画を描くことにした。今度は誰の助けも借りずに自分の力で漫画家になってみよう。心の底からそう思えたからだ。一度、連載の風景を知ってから私は色々と学んだ。その1つは才能はいくらあっても足りないということだ。才能を手に入れてもまた新しい才能を求めて苦しくなってしまう。でも結局のところ一番の才能は私が両親からもらったこの命だということ。命に代わる才能はないということだ。
私は以前の明るさを取り戻し今日もコンビニで働く。そしてまた恋愛をする。今度は幸せになってみせる。そう固く決意をしたのであった。
おわり




