聖女さまと魔法少女?
「ヒジリ様、起きてください!」
マリアンヌの珍しく大きな声、その声に叩き起こされた。
この世界には時計がないが、まだ日の出前だと思う。
薄暗い空を見て。私はまた布団にしがみ付いた。
しかしすぐに剥がされ布団の外の冷たい空気が私を襲った。
私は目ヤニを擦り、マリアンヌを見上げる。
うん。彼女は朝から凛々しいメイド姿だ。主とは違い、シャンとしている。
「なに? こんな時間に?」
「聖女候補のリリア様がいらっしゃいました。 お待ちいただいておりますので、すぐに支度なさってください」
「はぁ? 何時だと思ってるのよ? 常識外れはもう待たせといてよ」
「ヒジリ様、大変申し上げにくいのですが、常識外れは貴方の方です。 朝の祈りの前にいらっしゃったのは聖女様なりの気遣いなのですよ? 朝の祈りなどヒジリ様は関係ないご様子ですが、この世界では聖女に類するものが、朝の祈りに祝福を授けるのは最大限の祝辞となります」
「うわ……、異世界ギャップって面倒ね……私祈り方なんて知らないよ?」
「跪いて手を合わせればよいのです。あとは私の真似をしてください」
「へいへいわかりましたよ。 いきますよー!っとほんと面倒だな……」
不平不満をごちりながらも私はなんとか支度を済ませ、日の出前に聖女候補リリアの元に向かったのだった。
「初めまして、リリア様。本日はお早いおいででまさに恐悦至極ですわ」
「初めまして、リリアと申します。ええとお名前もお伺いせずグナーデ王子からここに来るよう申し付けられまして、失礼ですがお名前をお伺いしてもよろしいですか?」
「あーそれじゃあテジーとお呼びください」
「承りましたわ。テジー様どうぞよろしくお願いしますね」
聖女候補のリリアは平民出と聞いていたが、随分と淑女然としていた。
優しく微笑む姿はまさに聖女と呼ばれるに相応しい。
暗めのブラウンの髪色と瞳は、見るものに素朴さを与えるかも知れないがその立ち居振る舞いは聖女らしさを引き立てていた。
(つまり、私が苦手なタイプ)
その後朝の祈りはつつがなく終わり、一度解散する。
部屋をマリアンヌに用意させ、私は二度寝を決め込もうとしていた。
だが朝はやはり冷える。寝る前に手洗いに言っておこうと私は廊下に出た。
すると近くにある部屋から声が聞こえる。ドアが微かに空いていた。
私は音が気になり、その部屋を覗いてしまった。
「あぁぁぁ! こんなとこでやっでける気がしねぇよぉおかぁちゃん!」
そこには芋丸出しの聖女候補の姿があった。