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怪談師、異世界で  作者: かぶきもの
2/2

怪談師、夜の空き家へ

丈が出会った女はとは言語は同じだが、地名の会話が全くかみ合わない。ここは一体どこなのだろうか。

透き通るような白い肌の女が悲鳴を上げていた。


叫ぶな否や女は腰に携えたナイフを引抜き、丈に向かって威嚇するようにかまえた。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。怪しい者じゃない!」

丈は両手を挙げて叫ぶ。

いきなりナイフを向けられ驚いて叫んでしまったが、女との距離は6~7m程あり、すぐには襲われる心配はなさそうだ。


「人・・・か?」

女はナイフをかまえたまま、丈に話しかけてきた。

「そ、そうだ!俺は真田丈、ごく普通の一般人だ」

丈は両手を挙げたまま答える。


「ここで何をしている?}

女が聞いてきた。

「わからない。気を失っていて気づいたらこの森にいたんだ。それで死にそうなほど喉が渇いて川で水を飲んでいた。それだけだ!」

丈は必死に説明する。さすがにあの煙のことは信じてもらえないだろうと思い、黙っておいた。


「なるほど、気づいたらこの森にいたというのは訳が分からないが、敵意は無さそうだ」

女がナイフをしまいながら言う。


やっと女がナイフしまったことに安堵し、丈は両手を後ろに着いて天を仰いだ。いつの間にか日暮れ近くなっている。

「ナイフを向けてすまない。こちらを振り向いた時は化物のような顔だったのでね。思わず悲鳴も上げてしまった」

女が長い黒髪を揺らしながら少し照れたように言う。

そうか、喉が渇きすぎて人ならざる形相で水を飲んでいたらしい。充分に納得できるほど丈は切羽詰まっていたのだ。こちらにも多少は非がありそうだと思った。


「それで、ここはどこなんだろうか、俺は家に帰りたいんだが、近くに駅はあったりするかな?」

立ち上がりながら丈が聞く。


「ここは、アメフラの森の中だ、エキ?とはなんだ?」

女が困った顔で答える。

「アメフラ?聞いたことのない地名だ。俺は東京のアパートにいたはずなのに、それに駅を知らないってどういうことだ?バス停でもいいんだけど」

丈は混乱しながら聞いた。


「すまないがエキというのもバステイも知らないな。トウキョウノアパートという地名も聞いたことがない」

女も混乱しているようだ。


「嘘だろ。さすがに日本国民で東京まで知らないなんてありえないだろ」

困惑を超えて少し苛立ちながら丈は聞いた。


「待て、国民とは国の民という意味だよな?ここは二ホンとという国ではない。ダンシャベル王国というのがこの国の名前だ。お前は一体何者なんだ?」

女の言葉を理解するのに数秒かかった。ここは日本ではないこと、そしてダンシャベル王国。

女と出会って落ち着きを取り戻し始めていたはずが、目覚めた時よりさらに混乱している。


「俺は、一体、、、」


「私も混乱しているがお前はそれ以上のようだな。もしかしたら村長であれば何か知っているかもしれない。お前のいた二ホンという国のこともな。」


「村長?近くに村があるのか?是非連れて行ってくれ!頼む!」

土下座せんばかりの勢いで女に懇願した。


「いや、残念ながら近くではない、行くには森を抜けなければならないが、夜にこの森を歩くのは自殺行為だ」

女が空を見上げながら言う

丈も空を見た。確かに辺りはかなり暗くなっている。外灯もないこの森では完全に日が暮れたら何も見えない。


「近くに古い空き家がある。仕方ないがそこで夜を明かそう。急ぎたいのだが走れるか?」

女の提案は丈にとって願ってもないことだった。

「そこに連れて行ってくれ!お願いだ、いやお願いします!」

丈の返答に女は少し笑って走り出した。


長い黒髪の揺れる背中を追って丈も走り出した。


木の根に躓きながらも追い続けた背中が、やっと停止した。何とか日没までには辿りついたようだ。

目の前には確かに古い家があった。小さなコテージのような作りであり、ここで夜を明かせるならば贅沢すぎる程だと丈は思った。


女が戸を開けて中に入る。丈も「お邪魔します」と小さく言って中に入った。


窓際で座りこんでいると、女が二つのランタンに火を灯して持ってきた。

「お前の分だ、それから食べ物を探してくるからそこでじっとしていろ」

女が片方のランタンを丈に渡し、キッチンと思しき方へ向かっていく。


「ああ、ありがとう」

丈はランタンを受け取り、言われた通りにじっと火を見つめていた。

気を失う直前のことを思い出した。

俺が最後の蝋燭を消してしまったから、俺はこのダンシャベル王国とやらに来てしまったのだろうか。訳が分からない。どうやって帰ろうか、明日からどうすればいいのか、挙げだしたらキリが無いほどに不安が丈を支配しそうになる。





「待たせたな。あまり食べられそうなものはなかったが、我慢してくれ」

女が缶詰のようなもの持ちながら戻ってきた。丈の不安は突如現れた空腹感によってかき消された。


「助かる。何から何まで本当にすまない。本当にありがとう。あの、、」


「ん?ああ、お前には名前を言ってなかったな。私の名前はマイ、気軽にマイで構わない。私もジョーと呼ばせてもらおう」

女はマイと名乗り、優しく笑った。



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