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怪談師、異世界で  作者: かぶきもの
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怪談師、知らない場所へ

初めて書きました。

「私が知人から聞いた話は以上になります」

百話目を丈が話し終えた。


「最後の蝋燭は決して消えないように、気を付けて朝を待ちましょう」

ともに怪談百物語を行った山本があまり息を出さないように言う。僅かな呼気でも火が消えないようにという配慮だろう。

 

百物語を行う場合、百本の蝋燭を用意し、一話喋るごとに一本ずつ蝋燭の火を消していく。

しかし最後の一本は喋った後に消してはならず、朝日が昇った後に吹き消す。というのがルールとされている。それを破ると祟りや奇怪な出来事が起こると言い伝えられている。

丈自身も初めて行うのだが、さすがに怪談師を生業としている丈であっても自分が祟られるのはごめんだ。怪談が好きなのであって、体験したいわけではない。

 

しかし一緒に百物語を行った怪談師仲間の面々は丈とは違い、火を消してみて何か起これば話のネタになると考えているようだ。

「ねぇねぇ丈君、やっぱりさ朝まで待たずに消してみようよ」

参加者の秋本と西田がにやりとしながら言う。


「勘弁してくださいよ。本当に何かあったらどうするんですか」

丈が抗議する。四人で百物語を開催し、動画撮影をすると決まった際にルールを守って最後までやりきるというのが当初の約束だったのだ。それに撮影をしているこの場所は丈の住んでいるアパートの一室である。何か起こった場合、自分は逃げる場所がないのだ。おまけに外は明け方まで天気が悪いらしく雨も風も強い。


「まぁまぁ二人とも、お気持ちはわかりますが、今回の動画の趣旨は怪談を我々が百話披露することですから、怪奇現象を起こしてみた、という内容は別の機会にしましょう」

山本が二人を優しくたしなめる。二人は多少不満げではあったがそれ以上は何も言ってこなかった。


ガタガタガタッ


一層風が窓を強く叩いた。


「ホントに天気回復するのかな、終わったら家にかえりたいんだけどなぁ」

百物語が終わって気の緩んだ西田が窓越しに外を見る。


「窓開けないでくださいよ。火消えちゃいますから」

西田に注意しながら秋本も外を見る。


「うゎっっっ!!」


外を見ていた二人が突如悲鳴を上げる。

強風で飛んできたらしい小石が窓に直撃する。窓が割れ丈の部屋に風が入り込んでくる。


「まずいっ!」

とっさに蝋燭を風から守ろうとした丈と山本の手がぶつかる。

その衝撃で丈の手が燭台に触れ、床に落ちる。



一瞬、時が止まったかのような感覚の後に目の前の光景に絶望する。

火はフローリングの床を少し焦がして消えていた。



その状況を理解するな否や地響きのような轟音と青黒い雲のような煙のような何かに包まれる。

悲鳴を上げながら丈の体はその何かに吸い込まれ、意識が暗転する。





瞼を貫く光と暑さで目を覚ます。

「えっ」

言葉にならない驚きが丈を支配する。

自分の部屋で三人と百物語をしていたはずだ。


意識を取り戻した直後の気怠さを振り払って辺りを見渡す。三人の姿は見えない。

徐々に頭がはっきりしていくと色々な情報が丈に押し寄せる。


ここは、どこだ。喉が渇いた。

見覚えのない森林に気が動転する。喉が渇いていたおかげか悲鳴は上げずに済んだ。


水が飲みたい。

森林公園なのか、もしくは樹海のような場所なのか、一見しただけでは水道や水場などは見受けられない。

落ち着け、落ち着け。自らを諫めるように言い聞かせる。



冷静になろうと耳を澄ますと、水の音が聞こえる。滝や川のような水が流れる音だ。

音の聞こえた方向へ、早歩きのような全速力で向かう。そう遠くないはずだ。



「あっっ!!」

木の枝をかき分けた先に川が見える。

丈は無我夢中で顔を突っ込んだ。自分でも驚くほどに豪快な水の飲み方だ。

ひとしきり水を飲み、顔を洗った。


ガサッ


後方の茂みから音がした。


丈が振り向く。


「キャァァーー」

透き通るような白い肌の女が悲鳴を上げていた。




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― 新着の感想 ―
[一言] 初めて書いたとは思えない程の表現力と、五感をくすぐられる感覚を味わいました! 地の文がまとまりつつも、テンポよく進む話。 続きを楽しみにしています!
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