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流星の悪戯

作者: 入二

 朝という定義がいったいいつからいつまでを指すのかは個々人の考え方次第だが、少なくとも今は夜だと僕は思う。

「こんな時間に呼び出さないでください先輩」

 不満たらたらで、欠伸をかみ殺しながら、僕は呼び出した張本人を見た。

 前を歩いていた先輩こと坂本ありす(さかもとありす)は懐中電灯を揺らしながら、どうしたの? というふうに顔だけをこちらに向けた。黒目がちな大きな目はやけに生気に溢れていた。

「こんな時間て、今はもう朝だよ?」

 なにいってるのとでもいいたげな、しかしきらきら輝く瞳になんだか毒気が抜かれた気がして溜息を吐いた。念の為時間を確認した。

 二時三十分。空には星が輝いている。真っ暗な山道に街灯なんてなく、先輩の姿がぎりぎり見えるくらいで、ぶっちゃけ僕は怖かった。だって、茂みがガサガサいってるんだもん。

 一般的にも応用的にも今は夜、しかも深夜に分類されると思うのだが、先輩には応用すら通用しないようだ。いったい基準は何なのだろう?

 気を紛らわせるついでに訊いてみた。

「眠って、日をまたいで起きたら朝でしょ?」

 だってさ。

 先輩は毎日この時間帯に起きているらしい。いまさらになって僕は先輩のおかしさを実感した。



 実際は三十分程だろうか、やけに長く感じたハイキングの終わりは、山の中腹にできた広場だった。

 街を一望できるそこは昼間なら素晴らしく景色がいいのだろう。真っ暗で、しかも深夜だから、見えるのは弱々しくて心細い街灯と信号機の光ぐらいだけど。雲が出てきて星も隠れてしまっているし。

 丸太を半分に割ったベンチに二人で腰掛けた。懐中電灯が消され、闇が一層深まった。しばらくしてから僕は訊いた。

「それで、いったい何をするんですか」

「もう……わかってるくせに」

 恥じらうような声は聞こえたけれど、何も見えなかった。先輩がいるあたりで何か動く気配がした。

「どう、むらむらする?」

「いや何も見えないです」

 ちっ、と舌打ちが聞こえた。意外に傷つくから舌打ちは止めて欲しいと思った。脳裏を過ぎった考えも振り払った。しょうがないさ、先輩は美人なんだもの、と自己肯定してなんとか平静を保った。

「まあ別に君が期待してるようなことはしないよ」

「期待も何もしてませんよ」

 僕は即答した。あははと先輩が笑った。

「天体観測」

「え?」

「今日さ、流星群が見られるんだって。だから、天体観測しようって思って君を呼んだの。ドゥーユーアンダスタン?」

「……ああ、はい」

 そう言えば、今日テレビで見た気がする。何でも深夜から明け方にかけての3から5時くらいがピークだとかなんとか。

「……でもこの天気じゃどうしようもなくないですか」

 所々切れ間はあるけれど、見える範囲全体に雲がかかってしまっている。どうやら今日は雨だという昨日の天気予報は当たりそうだ。

 ちっちっちっ、と先輩が言った。声に合わせて指を揺らす先輩の姿が頭に浮かんだ。

「わかってないなー君。今まで何を見てきたんだい」

「そう言われても」

「私を誰だと思ってるの?」

 自信満々な先輩の声に、僕は先輩のやらんとすることを理解した。

「……でも」

 大丈夫なんですかという声は、先輩に遮られてしまった。

「まあ見てなさい」

 そう言って先輩は立ち上がった。闇に慣れた目に空に向けたらしい先輩の腕が見えた。ひとつ息を吸い込んだ先輩の体が微かに発光した。緩やかに風が先輩に向かって吹いた。僕は固唾を呑んで見守っていた。

「────」

 先輩が何かを言ったが、僕は聞き取れなかった。ただ、変化は大きかった。

 一瞬風が消えた後、突風が周囲を吹き抜けていく。それに合わせるように、空を覆っていた雲が吹き飛ばされていった。いや、あれは吹き飛ばされたんじゃない。文字通り消し飛ばされたんだ。

「……すご」

 風がおさまってから空を見ると、雲は一片も残っていなかった。まん丸なお月さまと満点の星が見えた。

「上出来上出来」

 先輩が満足そうに言った。

 今までもたいがい凄かったけれど、今回は特にだ。ぶっちゃけかなり引いてしまうくらいに。

 突然先輩が小さく声を上げた。流星の大群が空を流れ始めていた。

 なんだか胸が揺さぶられる、すごく綺麗な光景だった。

「たーまやー」

 場違いなかけ声に僕はちょっと笑った。あれだけ凄い力を持っていても憎めない先輩の天然っぷりがおかしかった。

 僕達は次の日も学校だということを忘れて、流星群が途絶えるまで飽かずその光景を眺め続けた。


 その日の地方紙に、『突然の快晴、流星の悪戯か?』という小さな記事が載せられた。

 ……初投稿です。どうも入二と申します。これを読んでしかもあとがきまで読んでくださる方がいるのかどうか。

 小説家になろうは初投稿ですが、他の小さなサイトではちょくちょく書いてました。まあ自分で言うのもなんですが、まだまだだなあと思うくらいの筆力です。

 いつか小説家になりたいなあと思ってます。

 ここまで読んでくださった方には感謝を。では

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