【1】
君はまるでチョコミントアイスだ。一口目は冷たく突き放すのに、口の中で溶かしているうちに甘い欠片がほろりと現れ出る。目に染みるような青色は、暖かな色を拒むようにも見える。
七月の第一週の何曜日だっただろうか。先生の話を聴くともなく聴くだけで終わった一時間の後の教室。終業式の日、ほとんどの人の頭の中は一つの憂いと、一つの楽しみで完結している。
一つは、夏休み。長期休みという飴には宿題という鞭がつきものだが、宿題なんていいのだ。八月末の夕方に思い出せば。
もう一つは、通知表。忌々しい。時々テストの成績表も一緒に返される。今は使われなくなったが、校舎裏の焼却炉に無造作にまとめて突っ込んでしまいたい。
と、そういう心の声が嫌ってほど聞こえる。
「貝原さーん」
もっとも、私にとっては特に忌々しくもない。
(五、五、五、五、五、五、......あ、──)
「うわ、惜っし~~い、あと体育だけでオールパーフェクトってとこじゃん。っていうか合計でいえば俺と一緒じゃね?俺また理科ダメだったわ……惜しいよなほんと──」
「あのさ藤井、勝手に覗きこまないでよ……」
「あ~ごめん。じゃ、お借りしまーす」
「あっ」
そう言って勝手に手元から私の通知表を誘拐していった。負けてたまるか。誘拐犯が通知表に夢中になっているうちに、私は誘拐犯のテストの成績表を万引きした。
点数やら順位やら人数分布のグラフやら、煮詰められた情報が打ち込まれたエクセルの文書には、右の端に
「学年総合順位 二」
と書かれている。
「あ、貝原おまえ俺の成績表取ったな?まあいいけど……あーあ、俺ほんとに一位とれねぇんだよな……」
彼は私を一瞥した。私は得意気な表情をしてみせた。一瞬悔しそうに顔をしかめてから、急に立ち直ったように見えて、
「まあ俺体育だけは学年一位に勝ってるし?」
いつの間にか机に並べられた私と藤井の成績表の右端には、一位と二位の文字が並ぶ。