あるギルドメンバーの遺書〜脇役side〜
本作は、少し前に日間ランキング2位・月間9位をいただきました「あるギルドメンバーの遺書」という短編
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と、その短編シリーズの続きになります。
単体でも楽しめるようになっている作品ですので、お気軽にお楽しみください。
どうやら、世界ってのは随分と簡単に滅びちまうもんらしい。
正確には滅びかけて持ち直したわけだが、まぁ同じようなもんだろう。他人の胸先三寸で俺達人類の生死が決まりかけたたことには変わりねぇんだからな。
世界は俺の知らない間に終わりかけて、そしてまた俺の知らない間に救われていた。
これが何かの物語なら、どこまで行っても俺はただの脇役だ。名前も出ないただの「冒険者」。いてもいなくても変わらないモブ。……ま、主人公になれる器でもねぇしそりゃあ仕方ない。
主人公ってのは死んだあいつみたいな奴のことだ。俺はただの脇役でしかない。
だが、中には脇役にしか見えないことってのもある。
俺から見てあいつはどんな貌をしていたか。俺に何を伝え、そして最後に奴は何を欲したか。多分それは奴自身にもわかっちゃいなかったと思う。
大事なことってのは案外、外からじゃないとわからないものさ。
・・・
俺はある中堅ギルドの冒険者だ。中堅と言えば聞こえはいいが、初心者でもなければ熟練にもなれない、つまりは停滞しているギルドだった。
同じギルドのメンバーは、自分にこれ以上成長や可能性が見込めないことをよく分かっていた。だから冒険者御用達の下宿屋に居座って、毎日どうでもいい敵だけ倒して遊んでたわけだな。これはこれで楽しかったが、なんの意味もない日々であることは誰もが気付いていたはずだ。
もちろん俺もな。
そんな時だ。同じ下宿屋に一流ギルドの奴らが越してきたのは。
魔導師エルザの名前は俺でも知ってた。そんな有名人のギルドが越してきて、うちのギルドもほんの少しの間だけはやる気になりかけた……ような気がした。(結局何も変わらなかったが)
魔導師と戦士と僧侶と勇者。見ただけでわかる実力者揃いの面子。
その中に挟まれるようにあいつはいた。
ひょろっとした奴だなというのが俺の第一印象だ。ギルドの中ではこいつが一番雑魚なんだろうなと、早々に視界から外したくらいだ。
だが数日もすると、そいつは間違いであったことがわかる。
魔導師の端くれでもあるから理解は出来るんだ。魔術理論のレベルは最高峰で、そもそもの魔力量も馬鹿高い。そしてあいつは、驚いたことに全ての職能を持っていた。つまりは一人ギルド状態だったんだ。
戦いに行った後、他の奴らがピンピンしてるのにあいつだけボロボロなのはどうも解せなかったが、体力はなさそうだしなぁと心の中では流していた。
僧侶がいるのに何もしないのもまた解せなかったが……一見仲は良さそうに見えたし、弱い奴から治していくのが定石だからな、他の奴を優先したのかとそう思う程度だった。
それすら間違いだったと気付くのは、奴らが来て二ヶ月も経った頃だ。
死にかけてるのを見た。下宿屋の裏手、あの娘の目も届かないようなところで奴は血塗れだった。
流石に驚いたよ。敵にやられたとしても、確か同じギルドには僧侶がいたはずだ。治してやらなかったのか? しかも敵地でもないここでも……
他の奴らはどうしてる? そう思いながら、俺は自分の服を破って血止めだけはしてやった。一応薬も持ってたから塗ってやってな。
浅い傷だった。殺すためではなく、痛みを与えるのが目的の傷だ。ダンジョンの敵はこんな傷はつけない。俺も馬鹿じゃないーーこれが敵にやられた傷じゃないことくらいは分かってた。
誰か呼びに行こうとしたら止められた。誰にも言わないでくれとのことだ。
理由があるんだろうと思ったが聞ける雰囲気じゃなかったな。
本当にいいのかよ。そう聞いた時に見せられた哀しげな笑顔が、今でもなんだか引っかかる。
あいつはあの時にはもう「決めてた」のかも知れないな。
それから少し経ったあと、俺はあいつに呼び出された。
そして終焉魔術とやらの存在を聞いた。
世界を終わらせる魔術。
聞いたことはあるが、非常に高度な理論と莫大な魔力がないと成立しない、御伽噺みたいなものだ。そいつを奴は俺に語ってきやがった。完成していることも、魔力が込められていることも聞いた。
こいつ突然何言いやがるんだと思ったね。確かに俺は魔導師でもあるが、能力は人並み、平均値だ。そんな魔術の話聞かされても何もできない。
ーーだが奴は必死だった。
「あんたの告発が必要なんだ」と。
「本人の魔力が込められているから心配ないが、言い逃れされる心配もある。第三者の証言が欲しい」なんのことだかまるで分からない。
「終焉魔術は出来ている。エルザが作った証拠を持っていて欲しい」
そして、終焉魔術を構築したのは魔導師エルザだという証拠を渡された。俺には理解できない代物ばかりだったが、こいつを出せばエルザが没落するのは確かだった。
次の日魔力が使えなくなってた。こいつは普通に腹立ったが……それをとっちめる暇すらなかったな。
そんなに急いで逝くこたぁなかったのに。
話くらいなら聞いてやったのによ。ほんと、どこまでも勝手な奴だ。
奴の言葉の意味を知ったのは全てが始まった後だった。
俺は奴の遺志通り、魔導師エルザが作った証拠を出して告発してやった。同じ魔力で、術式も完成していて、脅していたらしい証拠も出した。
でーーあとは大体が知ってる通りだ。エルザは吊るされ、オーディンだのアルファルドだのミーシャだのはそれぞれ落ちぶれている最中。一方、リナリーは世界を救ったとして賞賛される。
なんだか手のひらで踊らされたみたいで不満だったぜ。まるでこうなるように最初から仕組まれていたみたいに。
エルザ達が最悪を選んじまって、エルザ達は世界を敵に回し没落する。その後リナリーだけに選択肢が与えられリナリーは救済を選び、栄誉と引き換えに記憶を失う。
ここまで全部奴の思惑通りだった。復讐は本人達だけに、栄誉は恋焦がれた相手に。
……だがそれじゃあ俺の収まりが悪い。勝手に役割を与えられながら、没落も栄誉もない俺はどうなる? そう言ってやりたかったよ。
しかし奴はもういない。だから俺は、自分の落とし所は自分で見つけることにしたのさ。あいつに与えられた役割は告発者ーーだがその役目も終わった今、いつまでも奴に義理立てしてやる義務はない。
俺は告発することにした。もちろんあいつのことをな。
ところで、終焉魔術を無害化すると共にリナリーは奴との記憶を失った。しかし彼女はなんと、自分が喪ったことにも気付いていないようだった。
手紙を破ったことは分かっていたが、それが何を意味するかを言葉に出来ていなかった。ただ自分が何故涙が止まらないのか分からないと、哀しげに笑ってそういうだけだった。
きっとこれがあいつの本質なんだろう。自分の視界に入るものを何がなんでも護る。あるいは決着を付けさせる。主人公に相応しい本質だ。ヒロインも敵役も、あいつの前じゃあなんの意味もなかったのさ。
だが主人公の視界には、ヒロインや敵役はいても脇役は入っていなかった。それがあいつの最大の誤算だ。
俺はリナリーに告発してやったよ。懇切丁寧にな。あいつとリナリーとの、俺が知る限りのこと、そしてあいつがリナリーをどう想っていたかも。リナリーが同じ想いを抱いていたことも。
つまり両想いであることを教えてやったのさ。
悪いとは少し思ったが、世界を巻き込みかけた身勝手の始末だ、これくらいは覚悟すべきだぜ。
リナリーは本当に少しずつ、それに反応していった。記憶は蘇らなかったが、奴に関しての「感覚」と「気配」を思い出していった。花瓶を見た瞬間何かを思い出しそうになったり、意味もなく裏手に一人で足を運んだり。自分が大事なものを失ったことに徐々に気付いていった。
リナリーはそれでも完全に思い出しはしないだろう。
しかし、とっかかりにはなったようだ。自分が大事なものを失ったことに気付いたようだ。そしてもう、それを取り戻すためにどっかに行っちまった。
……お陰で今俺達は路頭に迷ってるわけだが、それはまぁいい。あの娘を遺書の呪縛から解放しただけでも意味があったってもんだ。
どうだい、身勝手なたった一人のギルドメンバー様よ。ここまでは予想できたか?
あの遺書は呪縛だ。魔力なんかこもっちゃいないが、立派な呪いで魔術だった。
だが所詮死んだ奴の言葉さ、今を生きて必死にもがくあの娘に勝てはしない。あの娘はきっと全部を思い出す。あいつの呪縛を打ち破ってな。
俺は今になって思うよ。お前がーーあいつが欲していたのは、呪縛を解き放つ相手だったんじゃないかとな。最強に近い自分の魔術をどこかで打破するやつを求めていたのかもしれない。復讐もあるだろう、だが心のどこかで、自分の絶望を裏切る奴が現れるのを期待していたはずだ。
じゃなきゃ救済なんて用意しないからな。
ま、そいつはもう分かりはしないが。
だがリナリーは進んでる、それは確かだーー
ーー主人公たるあんたが、それを理解して見ているといいけどな。
お読みいただきありがとうございます。
面白かったと思っていただけたら、画面下部の☆☆☆☆☆を星で評価いただけると作者がとても喜びます。
また、ブクマしても良いぞ、という方がいらっしゃいましたら是非いただけると幸いです。
これからも作品づくり頑張ってまいります。
よろしくお願い致します。
※アルファルドsideを投稿しました。
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