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第965話 『螺子巻き鬼切り』

 

 激戦に次ぐ激戦。

 乱闘に次ぐ乱闘。


 月光徒率いる多くの月光徒の一般兵士と、チューバ率いる月光徒の少数精鋭の戦いが───後に『三日月派』と『満月派』と区別されて呼ばれるようになる月光徒の内部分裂の最初の戦いが、28の世界にある月光徒のアジトの内部で行われていた。


 一部、アジトの外部での戦い───ユウヤとキリカの戦闘があったけれど、他の全ては内部で行われていた。

 管理棟の最上階ではヒンケルとの対戦があり、その管理棟に行くまでの道では『切雲』との激闘があり、アジトの講堂ではノーラとの熱戦とフルーレティとの乱戦と、サタナキアとの闘争が行われていたが。


 月光徒の存亡をかけた天下分け目の決戦の中で、2人。

 講堂から少し離れた先の廊下にて、お互いの刀をぶつけ合い命のお互いの命を奪おうと画策する2人の剣客。


 一方は、『チーム一鶴』随一の実力を持つ女剣士───モンガであり、もう一方は『付加価値(アディショナルメンツ)』の『弐』であり『なし崩し』の二つ名を持つ銀髪の男───エレンであった。


「随分と、中々やるじゃねぇか。独学か?」

「基礎は父に教えてもらった。派生の技は独学だ」

「そうかよッ!鬼神(オニ)の剣士は珍しくねぇ...だが独学でここまで鍛えたとはなッ!」


 エレンはそんなことを口走りながら、的確にモンガを殺そうとする刀を振るう。

 首を狙い、目潰しを試み、足を攻撃し、鳩尾を打つ。


 人体の急所という急所を狙い、己の勝利に貪欲な彼であったが、モンガにはどんな攻撃も通用しなかった。


「そんな小手先で姑息な手段は私には通用しない。攻めるのであれば、己の才覚を使用してこい。早くしないと、私が切ってしまうぞ」

 モンガは、淡々とそう述べる。狙われたその首は、すぐにエレンの攻撃範囲から消えてその攻撃は不発となる。


 ───全てが見極められているようだった。


 エレンの攻撃は全て見極められていて、モンガが攻める合間合間に挟んでも一つも当たる未来は見えない。

「一体、これまでどれだけの剣豪を倒してきたんだろうな。お前はよォ!」


 エレンの問いかけに、モンガは口を噤む。

 その質問に答える義理立てはなかったし、何人倒したかなんて覚えていなかったのだ。


「───お前もその1人に数えてやる。お前は強い」

「嬉しくねぇぜ!その言い方!」


 刀と刀を交えながら、こうして2人で会話をしながら戦えているのは、お互い強いからだ。

 どちらかに技量の差があれば、上手い方ばかりが口を開けていて、もう一方は一言だって喋ることはできない。


 ───技術的な面で見ればモンガが一枚上手だ。だが、負けず嫌いのエレンにはモンガに食いつこうとする意思が確かに存在していた。


「俺様がお前をぶっ殺し、お前を剣豪の1人に数えてやるよッ!『螺子巻き鬼切り』!」

 エレンのそんな言葉と同時に、刀が持たれていない左手に具現化されたのは大きな螺子であった。


 螺子巻き鬼切り・・・巨大な螺子と刀を具現化させることが可能。


「───ッ!」

「『また勝てなかった』だなんて言わねェ!俺は、勝つ!」

 左手に持たれている巨大な螺子は、そのままモンガの方へ投げられる。

 この螺子に当たってしまえば、死亡はしないが隙は生まれてしまうだろう。


「───ッ!モンガ剣舞」

 即座に技を使用することを判断し、モンガは両足でしっかりと地面を踏みしめる。


「3の舞 風鈴」


 一瞬。

 空気が揺れて、音が世界から消失する。

 その違和感を体が覚えた頃には、もう既に世界の音は元に戻っており、音がなくなった一瞬は幻覚のように感じられるだろう。


 ───が、それは幻覚ではない。


 モンガが剣を振るったことで、一瞬の音を全て吹き飛ばしたのだ。

 それだけの剣を放つことができる最強の剣客、モンガの刀に触れた螺子はその場で砕け散り地面に粉となってこぼれる。


「これがお前の能力か。些か面倒だな───いないッ!」

 モンガが刀を振った後に、先程までエレンが立っていたところを見るが、そこには誰もいない。


 忽然と消えていた。

 逃亡したのか、それともどこかに潜伏しているのか。

 エレンの性格を考えれば後者であることが明白だろう。どこかに、エレンは隠れている。


「一体、どこに───」

「後ろだ」

 そんな言葉と同時、モンガは後ろを振り向き剣を振るうが───


 ───そこに広がっているのは虚空。


「───ッ!」

 確かに、声が聴こえたのは後ろだ。耳元で囁かれるように、性格の悪い声が「後ろだ」と口にした。

 それだけは確かだ。それなのに、後ろにはいない。ということは───


 ───モンガの頭上を通って、モンガの真正面に───現在向いてる方向とは180°反対側、要するに後ろに移動していたということだ。


「───ッ!」

 モンガがその事実に気付き、前を向き直した時にはもう遅い。そこにいたのは、既に刀を振り終えていたエレンであった。


「───っかは」

 斬られた。


 確かな感触だけが胸に残り、モンガは後方へと吹き飛ぶ。

 そのまま背中を打つようにして倒れて、袈裟斬りされた痛みと戦う。


「俺様の能力名は『螺子巻き鬼切り』だ。その名の通り鬼を切るんだ。お前のような鬼神(オニ)をな」

 エレンはそう口にして、刀を振るうことで刀に付いたモンガの血を払う。


「───立てや、剣豪。どうせまだ、戦えるんだろ?」

 エレンの挑発の言葉を聞いて、モンガはその言葉に応えるようにゆっくりと立ち上がるのであった。


「───あぁ、まだ戦える。この傷は、ハンデにしてやろう」

 剣豪モンガは、そう口にして強がる。


 ───そんな口調からは考えられない傷口から血が失われていく不快感が、モンガを蝕んでいくのであった。

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