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第961話 狡猾な女

 

「───は?」


 左足が無くなっている。


「───は?」


 四肢欠損。

 左足の損失。

 隻脚。


「───は?」


 何度だって言う。セイジの左足が、猛獣に噛みちぎられたかのようにして無くなっている。

 セイジの目の前で起こっているのは、たった一言、一行で説明できる状況が、セイジは飲み込めない。


「理解出来ないわけじゃないでちゅ。納得ができないんでちゅ!」

 左足が無くなったという異常に対し、納得ができないというセイジ。その答え合わせという風に視界に入ってきたのは───


「納得できないって言うのなら嫌でも納得させてあげる!これが私の能力、『アディ雄』」

 マユミを『女性操作』で操るサタナキアの言葉と同時、セイジの視界から入ってくるのは1匹の虎───いや、太陽のようなたてがみがあるので獅子だろう、その金色の獅子が現れる。


「グルルルル...」

 そんな、低く重い唸り声。その口周りには、きっとセイジのであろう血が付いており、セイジの左足の噛みちぎられた断面からは、ボタボタと大粒の血が垂れている。


「お前の能力でちゅか...狡猾でちゅね」

 セイジは苛立ったような表情でそう口にする。


 アディ雄・・・男を食らう獅子を生み出すことが可能。


「女は操り、男は喰らう───か。随分と、性格が悪い」

「当たり前じゃない。私は女として生まれた。それなら、女尊男卑になってもおかしくない」

 そう口にして笑みを浮かべるサタナキア。


「───もうぼくは怒りまちた。文句を言っても、知りません」

「あっそう」

「死ね、ウォーター」


 その言葉と同時、宙に生まれた水玉が燃える講堂を飛び回り『アディ雄』とサタナキアを襲う。

 咄嗟に、サタナキアはその水玉を避けたけれども、『アディ雄』はそお回避が遅れる。そして───


「グル...ラァ!?」

 その水滴を口に含むと、途端に藻掻き苦しむ『アディ雄』。


「───んなッ!お前、何をした!」

「何をした?しょうがないでちゅね...そっちも教えてくれまちたし僕も教えてあげまちょう」

 セイジは、足に回復魔法をかけてその足を治す。


「───ウォーターで窒息させた。ただ、それだけでちゅ」

「───は?」


 ごく少量の水。

 10ccにも満たないような数粒の水滴。


「───は?」


 窒息。

 溺死。


「───は?」


 何度だって言う。『アディ雄』は、少ない水で溺死したのだ。


「───あり得ない!理論ではありえても、納得できない!」

「そうでちゅか?魔法は能力よりも理論がありまちゅ。お前の『アディ雄』の理不尽さよりも、お前の行使する『女性操作』の持つ危険性よりもよっぽど理論できるのかと思うのでちゅが」

「───ッ!」


 魔導士セイジのその言葉に、サタナキアは歯ぎしりをして怒りを見せる。

「───本当に、嫌な生物ね。男って」

「主語がデカいし、形容詞も間違ってまちゅよ」

「───そんなこと、どうだっていいわよ」


 ───現在、マユミを人質に取っているという点では有利だが、そんな状態はすぐにセイジの高度な魔法によって突破されてしまうだろう。だから───


「───私が死んだら、マユミも一緒に死ぬ。そうなれば、アナタは私に攻撃できない。違う?」

「───ッ!やめろ!」


 サタナキアは、『女性操作』で操っているマユミに抱きつき、セイジがそれに怒りを向ける。

 絡みつくようにマユミに抱きつくサタナキアの姿は、セイジにとって苛立ちが隠せないものだ。が───


「私の持っている能力、『美毒家』はとっても危険な毒よ。それが、体中から分泌できるの。だから、私を傷つければそこから毒が滲み出て、こうしてピッタリと触れているマユミにもかかって、ぽっくり」

「───ッ!そんなの」

「でまかせだって言いたいの?言いたいなら言わせてあげる。これを見ても言えるのなら」


 それと同時、サタナキアは口から液体を吐いて近くにいた月光徒の一般兵士にかける。


「なんだ、これ...熱いッ!熱いッ!体が、体が溶けるッ!」

 その一般兵士は、どんな抵抗もすることが出来ずに溶けて死んでいく。


「これが、私の毒。『美毒家』」

「───」


 こうして、人質に取られている異常セイジは攻撃をすることができない。


 体のどこからを傷つけてしまえば、その傷口から血と共に毒が出てマユミにもかかるし、炎魔法や雷魔法を使用すると、一緒にマユミも傷つけてしまう。


 ───セイジには、攻撃する手段がない。


「ほら、早くしなよ?マユミちゃんも言ってるよ、助けてーって」

「たす、けてー...」


 マユミは、口までも操られているのか、そうやって助けを求める。


「───やめるでちゅ。そうやって、ぼくのことを馬鹿にするのは」

「馬鹿にしてないわよ。乳離れする強力をしてあげてるの」


「そう、だよ。セイジ。私を殺していいから、サタナキアを、倒して。お願い」

「───ママはそんなこと言わないでちゅ」


 セイジは、マユミを殺すことができない。

 だから、サタナキアを攻撃することはできない。


 ───この状態を抜け出す方法を、セイジを求めることはできないのだ。

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