第948話 アジトの最上階
廊下で接敵した『付加価値』の『捌』の『切雲』の相手を、バトラズ1人に任せて、他の5人は先へ先へと進んでいく。
───そして、『切雲』と接敵してから塔の内部にある階段にたどり着くまでは、月光徒の一般兵士にさえも出会わなかった。
「本当に静かだな...時代が変わろうとしているのに、その印象は薄い....」
カゲユキは、そう口にする。そして、壁に沿って螺旋状に用意されている階段を少しずつ上っていく。
最上階まで続いているからか、小さな声でも響いて、そこにいることがバレてしまう。
「もしかしたら、管理棟の最上階に誰かいるかもしれませんし静かに行きましょう」
スランがそう口にして、バトラズが戦闘により抜けてしまったため、先頭を務める。
───ここは、管理棟。
「管理棟」という名前であるから、アジトに関する様々なことを管理していると思うかもしれないが、そのほとんどに侵入するためには、地上からではなく地下から行く必要がある。
もし、電気の供給を思うがままにしたい場合は、今いる塔の真下へ穴を開ける必要があるが、今回の目的はアイキー。
唯一、管理棟の中で地上で管理されているアイキーであった。
───本来、28の世界のアイキーは小高い丘の頂上に生成されるものであったが、その丘を月光徒が切り崩し、そこに迷宮のようなアジトを建設した。
その際、アイキーが出現する場所に塔を作り、小高い丘の頂点だった場所にアイキーを保存する場所を作った。これにより、誰かがアイキーを使用し29の世界に行ったとしても、すぐにアイキーは回収することができる。
これが、アイキーが塔の上にある理由であった。
一歩一歩、慎重に確実に階段を上っていく『チーム一鶴』のメンバー。
『切雲』のように、どこかで敵襲があるかもしれない───と思いながら階段を駆け上がっていったがそれは杞憂に終わった。
最上階にある一つの扉の前まで、奇襲されること無く上ることができたのだ。
「───問題は、扉の奥だ。誰かいるかもしれない」
ユウヤがそう口にして、ゆっくりと扉を開けようとする。と───
「───」
そこにいたのは、部屋の奥にある机に直接腰掛けた1人の人物。
その部屋は、執務室のようなところだった。
部屋の手前には赤い絨毯が敷かれており、部屋の奥には一つの机が置かれていた。アイキーは見つからなかったけれど、その部屋のどこかにあるに違いない。
そんな部屋の中に存在したのは、1人の赤髪ロングの男性。
身を礼服に包んでおり、腕組にしながら直接机の上に座り扉の方を凝視していた。
「───こっち見てたけど、気付いてるから?」
「大丈夫な、はず...」
「やめろやめろ、そんな無駄な議論。そっちを見ていたのだから気付いているに決まっているだろう」
そう口にして、ゆっくりと扉を開くその赤髪の男。
「───」
「アイキーを取りに来たのだろう?お前らの作戦会議は無駄だったようだな。ここで、思う存分お前らの努力を踏み躙ってやる」
高圧的にそう口にする赤髪。礼服に包んだその格好だが、ひどく高圧的な彼は先程座っていた場所に戻ったと同時に、こう名を名乗る。
「『付加価値』の『伍』であり、『聖夜』のヒンケルだ。全く、無駄に名乗り上げてしまった...」
そう口にして、長い赤髪をかきあげて、「やれやれ」と言わんばかりに表情を浮かべる。
「『付加価値』...」
言われてみれば、どこか見覚えのある赤髪だ。牢獄にいる時に、食事を与えてくれたような気もする。
「───残念だが、思い出そうとしても俺のことは覚えていない。無駄に記憶を割かせていないからね」
そう口にして、その男は再度ユウヤ達の方へと迫っていく。
「ここは、俺がなんとかする」
そう口にして、ユウヤはヒンケルの方へ進んでいく。『鳳凰の縫合』により、新たな技をも手に入れたユウヤ。
最近、活躍が多いユウヤであったが───。
「お前に能力を使用するのは無駄だ」
「───ッ!」
その直後、ユウヤは吹き飛ばされる。この部屋にある小窓に衝突し、そのまま窓が割れて外へと吹き飛ばされるユウヤ。
「ユウヤ!」
「な...んだと?」
「無駄だ。全て諦めて、死んでしまえ」
「───ッ!」
ユウヤが外に吹き飛ばされたのを全員が確認し、カゲユキ達は焦る。
ユウヤのことだから、奇跡的に助かるだろうけれども、帰って来るのは難しいだろう。
「───仕方ない、俺達だけでまずはヒンケルを倒すぞ」
「わかったわ」
「───さぁ、来いよ。ボコボコにしてやる」
「気をつけてください!ヒンケル様の能力は『自分語り』。触れた人物から経験を奪い取り、それを自分のものにします!」
自分語り・・・触れた物の「経験」を無くすことが可能。その「経験」を自分のものにすることも可能。
「そうか。では、触れずに攻撃できる魔法で行こう。ファイ───」
「無駄だ」
「───ッ!」
その直後、ユウヤが吹き飛ばされた窓の方へ飛ばされるカゲユキ。窓から落ちないよに、すぐに風魔法を使用するが───
「───ッ!」
その風魔法は、あまりにも強すぎた。
カゲユキは、そのまま反対側の壁まで吹き飛ばされて、強く体を殴打する。
「───勝手に自滅してくれたな」
そんな淡々とした彼の言葉には、全てを諦観しているような感情が滲み出ていた。




