第943話 アジト侵入の作戦会議
───28の世界。
それは、月光徒の2つ目のアジト───つい1年前までは、幹部であるヴィオラが支配していたとされているが、数ヶ月ほど前に『ゴエティア』によって同じく幹部であるチューバの持っていた1つ目のアジトが全壊させられて、その後に俺達『チーム一鶴』によってヴィオラが殺されてしまったことにより、現在はチューバが支配していて、元ヴィオラの部下が住み込みで働くアジトが存在していた。
そして、月光徒の一般兵士であるスランの情報を鵜呑みにするのであれば、ヴィオラだけでなくマフィンも死亡したことにより、多くの一般兵からの月光徒への信頼が揺らいで、叛逆が起こっているらしい。
まぁ、叛逆に至るまでに辞職届を出しても受け取ってもらえず、ストライキを起こしたもののチューバの何でもアリな『透明』で無力化されてしまった───という紆余曲折があったらしいのだが、その話を再三再四するわけにもいかないし、そもそも俺達にとっては疑わしい情報ではあった。
だから、チューバや『付加価値』のメンバーが俺達のことを囲っていてもおかしくなくて───
「───と、そんなことを思っていた時期も俺達にはありました」
「疑ってスマン、スラン!」
俺とユウヤは、遠くに月光徒のアジトらしき建物が見えるだけで、チューバどころか見張りすらもいない28の世界を見て、そうやってスランに謝罪する。
「いえいえ、大丈夫ですよ。月光徒を名乗る人が唐突に現れても疑ってしまうのは無理も無いですし」
スランはそう口にして、爽やかな笑顔を浮かべる。
「───それで、チューバがいないとはいえ、見張り位はいた方がいいんじゃないのか?」
「いつもはいます」
「どうして───って、あぁ...今、ストライキしてるんだっけ?」
「そういうことです。多分、向こうに見えるアジトではチューバ様とその少数の傘下と、多くの月光徒の一般兵で戦いが起こってるかと」
先程までの爽やかな笑顔は消えて、スランの声は真面目なものとなる。
「───大丈夫、なのか?一般兵なんだろ?」
「えぇ、そうです。確かに1人1人は幹部であるチューバ様どころか、その下のオイゲンにさえ遠く及びません。ですが、チューバ様の能力は知ってますよね?」
「あぁ...『透明』だよな」
「戦ってて思いませんでしたか?あの能力は、ゴリ押せば倒せる───と」
俺はスランにそう指摘される。
「私自身、チューバ様の『透明』を見たわけではありませんが、ストライキに協力する仲間が教えてくれました。数の暴力で倒せる能力だ───と」
スランの読みは当たっていた。
俺も、感じたことはある。チューバの『透明』は一方的にこちらが殴り続けることができれば、能力を変えなければガードできないような攻撃を続けていれば、俺が『無能』を使用しなくても、チューバにダメージを与えることができる───と。
今はもう亡き、ヴィオラやマフィンの持つ『脳内辞書』や『嘘千八百』は1万人───いや、1億人を相手にしたところで完封してしまうほどの強さを持つ。
だが、チューバの『透明』は数の暴力には弱いのだ。なにせ、人が多いということは能力を変えて守らなければいけない攻撃が増えるということなのだから。
今、俺達の目に映っているのは月光徒のアジトであった。
基本的には、3階建て位なのだけれど、アジトの一番右手には塔に思わしき建物があった。
一体、どこにチューバは潜んでいるのかはわからないが、兎にも角にもアジトに向かうしかすることはないだろう。
俺達は、神妙の顔つきで歩いてアジトへと歩みを進めていった。
チューバを潰すのがチャンスだと言うのであれば、俺達がそれに加担しない理由にはない。
「作戦を立てよう。大切なのは、ここからの脱出を考えることだ。だから、チューバの討伐に行く助太刀組と、アイキーを回収するアイキー回収組の2つに分かれる」
「そうですね、『チーム一鶴』にとっては逃げるのも大切ですし分かれるのは悪くないと思います」
「じゃあ、スラン。アイキーの場所はわかるか?」
「はい、わかりますよ。なんなら、案内しましょうか?」
「あぁ、お願いしたい」
「了解しました」
「それじゃ、ユウヤを中心にアイキー回収組を決めてくれ」
「わかった」
───そして、移動中に話し合いが行われて助太刀組とアイキー回収組が決定した。
助太刀組:リューガ・オルバ・マユミ・モンガ・セイジ・ステラ・イブ
アイキー回収組:スラン・ユウヤ・カゲユキ・バトラズ・アイラ・リミア
以上ののような振り分けとなり、俺達7人は真っ先にチューバとの戦闘へと駆け込むことにした。
俺の『無能』があれば『透明』自体を無力化できるし、それをしなくても数の暴力を前にしてチューバを殺すことだってできそうだった。
俺達の目的は、どういう目的であれチューバを───月光徒を壊滅させることだ。
「───と、ここが入口です」
俺達は、20分ほど歩いてアジトの前へと到着する。入口に立っても門番はおらず、入るのも出るのも自由そうな状況だった。これも、門番がストライキをしている為であろう。
「それじゃ、俺達はチューバを探す。スラン、アイキーの方は案内を頼んだ」
「任せてください」
───こうして、俺達助太刀組と、ユウヤとスランの率いるアイキー回収組は別行動を開始したのだった。




