第938話 自分だけの剣
セイジを中心に、マユミ・カゲユキ・リミアの3人がより強力な魔法を放てるような修行を行っている一方、また別のところではバトラズ・モンガに師事するようにユウヤは、剣を振るっていた。
個々の能力や固有魔法をメインに使用する『チーム一鶴』のメンツ───例えば、『羅針盤・マシンガン』を愛用するオルバや、『回収』でマフィンを異世界に飛ばしたアイラ、大地の魔法を使うイブや砂の魔法を使うステラ・そして、『憑依』の影響により数多くの能力を持っている『チーム一鶴』のリーダーであるリューガは、個々人だったりペアを組んだりして修業を行っていた。
例えば、オルバとリューガは、リューガの能力で使った迫り来る的を、全て打ち返す───などというそれなりに鬼畜な修業をしていた。
27の世界は、8割ほどが荒地に覆われているので修業を行うばしょは大量にあった。
だから、誰かに迷惑をかける───と言ったことはない。
そんな修業に適した環境下で、剣を振るうのはユウヤ。だが───
「うん。動きは卓越しているのだが...モンガ剣舞を教えるのは難しそうだな」
「んな、どうして!?」
ユウヤとバトラズの打ち合いを見たモンガが、打ち合いを終えた後にそう告げた。
「問題点としては、2つだ」
「1つは、刀───ユウヤの場合は剣か。剣の練度が不足している」
「まだ、練習度合いが足りないってことか?」
「んま、端的に言えばそういう事だな。そうしないと、モンガ剣舞を放つにいたるリスクと釣り合わない」
「リスク?」
「あぁ、リスクだ。モンガ剣舞はその威力故に刀剣を浪費しかねない。細心の注意を払って刀を振るう必要がある。諸刃の剣───ってほどの弱点ではないけれど、見様見真似でやったら絶対に刃がズタボロになるだろうな」
「まぁ、威力を模倣した時───が正しいだろうな。動きだけを模倣することは可能だ。だがまぁ、その場合刀は無事だが威力も通常技と変わらないかちょっと毛が生えたくらいだろうな」
「そうなのか...」
ユウヤは、自らの練習不足に頭を抱える。
ユウヤだって、3の世界で多くの期間を刀の修行に費やしたはずだ。
それどころか、育ての親であるハラに多くのことを教わったはずだった。
「それで、2つ目は?」
「そもそも、ユウヤの体じゃモンガ剣舞に足りうる威力は出ない」
「威力が...出ない?」
「あぁ、モンガ剣舞を放つことは可能なのはこの半鬼人または鬼神の体があるからだ。でも、ユウヤにはそれがない。だから、難しい」
「そんなぁ...」
ユウヤは、己が肉体的にも技術的にも最強の業であるモンガ剣舞を使用できないことを知り落胆する。
だが、同時に「1の舞」だけではあるがモンガ剣舞を使うことができた3人目の『チーム一鶴』のメンバーを思い出す。
「え、でもショウガはモンガ剣舞の1の舞を使うことができていたよ?」
「それは、ショウガに『柔軟』があったからだ。『柔軟』で体を捩じりに捩じって、一瞬だけその腕に人間では出せないほどの推進力を持たせた。だから、1の舞だけは放てたんだ」
「───そう、だったのか...」
ショウガには『柔軟』があったけれども、ユウヤには『酸化』と『鳳凰の縫合』しかない。
この2つでは、どう頑張ってもモンガ剣舞を使用するには至らないだろう。
「じゃあ、俺はこれ以上強くなれないのか?」
「いいや、モンガ剣舞が強さの最骨頂って訳じゃない。だから、ユウヤは自分だけの強みを使って、自分だけの剣を作ればいいだろう?」
「自分だけの剣...」
ユウヤは、少し思案する。
そして、すぐに『酸化』と『鳳凰の縫合』の2つが自分にはあることに気が付いた。この2つは、バトラズとモンガの2人は持っていない、ユウヤが優位に立てるものだった。
「この『鳳凰の縫合』を使えば、なんとか強くなれないかな?」
そう口にして、2人の目の前で剣を縦に2つに分けるユウヤ。バトラズは、ギョッとした目でユウヤを見たが、すぐに恐怖から興味に変わった。
「すげぇな、その能力」
「生物非生物関係なしに、繋がっているものは切り離せて、切り離されたものは繋げられるよ」
「だから腕が復活したのか。随分と万能だな...」
ユウヤの使用する能力を目にして、驚きを隠せないバトラズ。これはあくまでユウヤの能力でなく、アザムの腕の持つ能力なので、右腕か左腕に触れないと使用することは不可能ではあるが、それでもほとんど問題はなかった。
「剣も切り離せるのならよ、振るってる間に半分にして、離したと後にすぐに戻して───ってすればよ。2つの場所を同時に切れるのか?」
「わからない───からやってみる」
そして、サンドバッグとして用意された荒地に存在するやせ細った木に対して、バトラズの言った通りに刀を振るうユウヤ。
木にぶつかる直前で、『鳳凰の縫合』を使用して刃先を空中で2つにする。もちろん、柄から離れた方は落下しようとするけれども慣性の法則に従って横へ進むのは変わらない。だから、木を切りつけた後に『鳳凰の縫合』でくっつけてしまえば、裂傷が2つできたことになるのだ。
「本当だ、すげぇ!」
「よっしゃ!それなら相手が一本をガードしてももう片方はガードできねぇ!ユウヤ、それを極めるぞ!」
「了解!」
そう口にして、バトラズ・モンガとユウヤの修行は進展していったのだった。




