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第933話 残り1人

 

 ───こちらは、26の世界。


 消えゆく時空の結界の前で残っていたのは、月光徒の幹部であるチューバであった。


 チューバは、圧倒されていた。

『チーム一鶴』の持つ、月光徒を潰そうとする執念に圧倒されていたのだ。


「嘘、だろ...マフィンが...」

 負けるはずのないマフィンの姿が消えて、チューバは唯1人だけ残される。

 時空の結界近くで争っていたから、27の世界に飛んでいってしまったのか───などとも考えられたが、その案が頭に浮び上がっても有力なものとすることはできなかった。


 だって、チューバはその双眸で見てしまったのだ。

 マフィンが、アイラの能力である『回収』で回収されてしまうことに。

 チューバは知っている。『回収』という能力の危険性を。だって、自らも『回収』を使用したことがあるから。


 回収・・・触れたものを異空間にしまうことができる。だが、取り出すことはできない。


 触れたものを全て異空間にしまうことができるこの能力は、要するにブラックホールであり、異空間への片道切符であった。


 どれだけ強者だろうとも、どれだけ繊細だろうとも、どれだけ貴重だろうとも関係ない。

『回収』を発動した状態で触れられてしまったら、その人物はもう異空間送りになり、抵抗することはできない。


 そして、『回収』されて異空間に連れて行かれてしまっては、もう今チューバや『チーム一鶴』の生きる世界に干渉することはできないのだ。

 だからこそ、異空間でどれだけ能力を発動しても、マフィンで言えばどれだけ嘘を口にしたところで、こちらの世界に何か影響があるわけではない。


 かと言って、異空間には暇をつぶすアイテムもないためその身が朽ちるまで耐え忍ぶしかないのだ。

 本来であれば、食事をしないと死ぬので一週間もすれば人は異空間で死んでいくのだろう。だけど、マフィンは違って魔神だ。


 魔神であるから、水も食事も必要ないし、寒暖だって体調に問題をきたさない。そして、寿命という概念もないので、外部からのダメージでしか死ぬことがないのだ。

 マフィンは諦めないだろうが、諦めればきっと「俺は今すぐに死ぬ」とでも口にして、異空間の中で『嘘千八百(プラシーボ)』を発動し、こちらの世界には何の干渉だってせずに死んでいくだろう。


 もしかしたら、マフィンは「転生して『チーム一鶴』を殺す」などと口にしてその身を爆散させるかもしれない。


「───とに、かく...もうマフィンは助からない...」

 ヴィオラに続き、幹部がもう1人実質的に死亡したこの状況に、チューバは焦りを覚える。


 月光徒発足からこれまでずっと幹部として3人でやってきていた。これまで一度たりとも欠けることだってメンバーが変更することだってなかったのだ。

 それなのに、『チーム一鶴』のせいにより、この1年の間にヴィオラとマフィンの2人を殺害か行動不能にまで押しやられていた。


「あの『チーム一鶴』は一体何者なんだ...」

 チューバは、『チーム一鶴』のそのあり得ないほどの強さに対して、畏怖の念を抱く。

 チューバは幹部であると同時に、対『チーム一鶴』を専門に構成された、『チーム一鶴』を潰すだけの少数精鋭の『付加価値(アディショナルメンツ)』のリーダーをも指揮している。


 もしかしたら、近い内にその『付加価値(アディショナルメンツ)』を全員指揮して、『チーム一鶴』との大戦争を行う必要だって出てきそうだった。

 もし、そんな戦争が起こったとしたら、『チーム一鶴』と『付加価値(アディショナルメンツ)』のどちらかが完全に潰れるまで三日三晩戦い続けることになるだろう。


「───とりあえず、『チーム一鶴』は追うか?」

 時空の結界を通り、27の世界へ逃げ延びた『チーム一鶴』を追うか、チューバは迷っていた。

 もう既に、光り輝く時空の結界は閉じてしまっていたけれど、チューバの『透明』であればいくらでも世界を股にかけて移動する能力を使用することができる。


「───いや、流石に厳しいかな」

 同じく幹部であるマフィンが殺されたこの状況、迂闊に攻めてチューバまでもが殺されてしまっては、月光徒にはさらなる打撃を与えることができるだろう。


 それに、向こうでは『チーム一鶴』がマフィンを『回収』する策が失敗した時に備えて、臨戦態勢で待っていることは簡単に予想することができた。


「ここは一旦、撤退。ボスにマフィンが『回収』されたことを報告する───かな」

 チューバの危機察知能力は正しかった。もし、ここで「マフィンの仇をとる」などと口にして27の世界に足を運んでいたら、リューガに『無能』を発動させられて『透明』を奪われた後に、他のメンバーにボコボコにされて殺されていたところだった。


 チューバは、そんな悲惨な未来を避けて月光徒のボスであるステートがいるアジトのある世界へと移動していく。


 深追いはしない、撤退も重要な戦略であった。


 そして、暗室。

 ステートのいる部屋の目の前に到着し、チューバはその扉をノックする。そして───


「───チューバか、入れ」

 その重苦しい低い声に言われて、チューバは一度息を吐いてから部屋の中に入って行ったのだった。

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