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第930話 追うものと追われるもの

 

 次第に集まってきていた『チーム一鶴』であったが、ついに残るマユミ・バトラズ・アイラの3人を発見したため、死んでしまったペトンを除く全員が揃ったのだった。


「おぉ、勢揃いか。いや、ペトンはいないのか?」

「ペトンは...死んだよ」


 俺の言葉に、衝撃を受ける3人。特に、『陽光の刹那』であった時代からペトンの仲であったアイラにとっては、その報告は心に来るものがあっただろう。 

 俺は、その死に居合わせることができなかったのだけれど、イブから移動しつつ話を聞き、イブとセイジの2人がその勇姿を見届けたらしい。


「ペトンは...本当に死んじゃったの?」

「あぁ、イブとセイジが見届けた」

「そんな...そんなぁ...」

 ヘナヘナと、その場にへたり込むアイラ。


『陽光の刹那』のメンバーであるサンが15の世界で死んでしまっており、ペトンも今日死んでしまったから、残るメンバーはオルバとアイラの2人になっている。


 きっと、オルバやアイラにとっての古参メンバーは『陽光の刹那』であろうから、こうして1人1人減っていくところには、色々と思うことがあるだろう。

 俺だって、リカにあの場を任せて逃げてくるのは苦しかった。


「ともかく、今は月光徒の幹部の2人から逃げ延びることが優先だ。今すぐにでも、27の世界に逃げよう」

「───わかったわ」

「御意」


 マユミとバトラズの2人は、少し暗い表情でそう返事をする。ペトンが死んで、辛いのだろう。

「───ごめん、皆。私...立ち上がれない。ペトンが、死んじゃったの?そんなの、信じられない...」

 そう口にするアイラ。だが、オルバがアイラに近付いてひょいと背負う。


「泣けるのは、今だけだ。俺の背中を使っていいから、思う存分泣いてやれ」

 オルバは、アイラをおんぶするような形でそんなことを口にした。長年を共にした仲間が死んで、泣きたいのはオルバも一緒だろう。

 だけど、オルバはグッと我慢しているのだ。その涙を。


「行こうぜ、リューガ。ここで止まってると、俺まで涙が出てきそうだ」

「───わかった。時空の結界へ向かうぞ」


 そう口にして、俺達『チーム一鶴』の生存者12人が時空の結界の方へ移動を開始する。すると───


「おいおい、俺達以外全滅じゃねぇか!随分と、強くなりやがってよぉ...」

「まさかバンシュとアザムの2人まで死ぬとはな。信じられん、そこまで強い奴らだとは思っていなかったんだが...」


「皆、急げ!逃げるぞ!」

 そこに現れたのは、月光徒の幹部であるチューバとマフィンの2人。

 そして、マフィンがここにいるということは、リカが敗北して死亡した───ということだ。


 月光徒の幹部が、俺達『チーム一鶴』を易易と見逃すほど甘くないことは知っている。だからこそ、もうリカはマフィンによって殺されたと考えていいだろう。

 これ以上、リカのことを考えていると俺も泣いてしまいそうになったので、俺達は先に逃げることにした。


 マフィンに、なんとか一矢報いてやりたい。だが、今は無理だ。

 俺達にできることは、逃げることだけ───


「リューガ、ここは俺とアイラに行かせてくれ!時間稼ぎは、俺達がするっ!」

「オルバ?」

「ペトンの仇、俺達に取らせてくれや!」

 俺達が走って逃げていると、オルバが、そんなことを口にする。オルバとアイラの2人が立ち向かっても、きっと月光徒の幹部であり最高戦力である2人に敵うことはできないだろう。


「それは...」

「駄目だ。オルバ・アイラ。2人は生きていてもらわないと困る」

「───カゲユキ?」

「作戦がある。苦肉の策ではあるがな。そのために、お前らの力が必要なんだ。だから、生き延びてくれ」

 走って逃げながら、そんなことを口にするカゲユキ。カゲユキの、その言葉にオルバは食いついたのであった。先程から、カゲユキは「苦肉の策」と言っているけれども、それが一体どんな作戦なのか、俺にはわからない。


「───アイツラに、一泡吹かせることができるのか?」

「一泡ごときで満足するか?」

「───面白い。その策、聴かせてくれ!ペトンのためなら、火の中水の中!」

「ならば、時空の結界の中に来てもらうとするかな」


「では、殿は俺と姫様で務めよう」

「そうだな。私も、ただ逃げるだけでは剣士の名が廃る」

「無理は...すんなよ?」

「もちろんだ」

「ここで死ぬつもりはない。ペトンの繋いでくれた命、無駄にはしないさ」


 ここは、バトラズとモンガにチューバとマフィンの攻撃をいなしてもらいつつ、撤退することにした。

 カゲユキは、オルバとアイラの2人に作戦を伝授してくれているようだった。


「───その作戦、やってみる価値はあるな」

「うん、私もそれなら頑張れそう」

「そうか。ならば、この2人に26の世界の戦いの命運を託そう」

「おうよ!任せとけッ!」


 カゲユキの言葉に、オルバはそう力強く返事をした。オルバの目に、涙は浮かんでおらず、見えているのは活路だけであった。


 俺は、リカのことを弔うためにもオルバとアイラを信じることにした。ここは2人だけが頼りだ。

 どうか、リカのためにもペトンのためにも苦肉の策を成功させてくれ。

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