第925話 無腕の剣士
ユウヤの右腕が、アザムによって切り落とされてしまい、ユウヤの両腕が無くなってしまう。
15の世界から今日に至るまで、ユウヤは隻腕として生活してきたが、利き腕である右腕までもを失ってしまい、もう剣が物理的に握れない状態になってしまう。
「この傷...回復魔法でも無理だッ!」
ユウヤは、腕を切り落とされたことを一瞬で自覚し、アザムから離れようとするものの、右腕が無いのはやはり違和感で動き方が違ってくるのか、その場に尻餅をついてしまう。
瓦礫の上にドスンと落ちて、そのまま右半身を上にするように瓦礫の上を転げる。
かなり強力な回復魔法じゃなければ、この腕を治すことはできないので少なくともユウヤやカゲユキじゃ不可能だ。
この腕を治せる魔導士は、それこそ『チーム一鶴』にはセイジくらいだろう。
だけど、そのセイジが現在どこにいるのかわからない状況で、こうして右腕の止血ができないのはマズいだろう。
他に、傷を治す能力を持っているのはリミアだけれど、その『羽休め』にもインターバルは1日かかるから、明日の昼頃にならないと能力を使用することはできない。
「残念だね。やっぱり、僕は最強だ───ねッ!」
ユウヤの落とした、刃と刃がくっついている剣として使用できないような刃を回収し終えたカゲユキは、後方に移動し、アザムの腕を切り落とす。
「この腕は、くっつけさせない!」
そう口にして、カゲユキはアザムの右腕をそのままユウヤの方へ蹴り飛ばす。
瓦礫の上に横たわるユウヤの方へ、そのままアザムの右腕は飛んでいき、ユウヤの傷口に触れて───
「まさかッ!」
「そうだ、そのまさかだ」
アザムの目の前に映るのは、ユウヤの切り落とされた右腕の代わりとして、アザムの右腕がくっついたユウヤであった。
「同じ腕として、ユウヤにくっついたようだな...」
ユウヤの傷口から流れ出る血は、アザムの右腕がくっつくことで止まる。
そして、ユウヤは無腕の剣士から隻腕の剣士に戻ることができたのだった。
しかも、アザムと同じく『鳳凰の縫合』を使用することができる。ユウヤは、進歩したのだった。
これにて、ユウヤの使用できる能力は『酸化』に加えて2つ目と『チーム一鶴』の中でリューガに次ぐ能力保持数となった。
「ユウヤ、立てそうか?」
「───あぁ、心配かけてすまなかった」
ユウヤとカゲユキは、一列に並びアザムによって変えられたユウヤの剣をもとに戻す。
「お前の能力は、俺に渡った。もうお前に勝ち目はない」
「いいや、違うね。腕を取り戻しさえすれば、僕の勝ちだね」
腕を切り落とされて尚、こうして余裕そうな表情を浮かべて笑っているところは、月光徒と言えるだろうか。
まだ、アザムは諦めていないようだった。
「───仕方ない。ユウヤ、アザムの左腕も奪ってしまおう」
「そうだな。俺も、左腕が戻ればまた自由な生活を行えるかもしれない」
一度左腕を無くし、その生活に慣れてきたユウヤであったが、まだ左腕が欲しい───と思うことはあるのだろう。
「いいや、違うね。左腕を手に入れたとして、それが邪魔で煩わしく感じられるね」
「そうか。忠告ありがとう。それでも、剣士に左腕は必要だ。その左腕、貰うよ」
それと同時、体を動かすユウヤ。アザムから奪った右腕で剣を握って、技を決めるのだった。
「原流1本刀 其れ等」
「───ッ!」
アザムが左腕で、ユウヤの右腕に触れて取り返そうとするけれども、その左腕も切られてしまう。
「残念だね。この右腕はもう俺のものだ」
「───ッ!」
左腕が地面に落ち、アザムに振れるよりも先にユウヤの左腕にくっつける。そして、左腕をグーパーさせて体に馴染んだことを確認したのだった。
「う、腕が...ッ!腕が!」
アザムは腕が切られてそんなことを声だすけれども、もう『鳳凰の縫合』を使えるようなタイミングはない。
「───いや、首を切ってもくっつくから『鳳凰の縫合』を使えるのか」
そう口にすると、ユウヤは剣を鞘に納めてアザムの方へ手を伸ばす。そして、アザムの体をバラバラにしていくのだった。
「あ、が...やめっ...」
「いいや、やめない。俺は、月光徒のお前を殺さなきゃならない」
「───火魔法で燃やすか?」
「そうだね。それが良さそうだ」
「じゃあ、失礼。ファイヤー」
抵抗できずにユウヤの『鳳凰の縫合』でバラバラにされてしまうアザムを、カゲユキは火魔法で燃やす。
そして、そこに残ったのはユウヤの右腕であった。
「───右腕は、どうする?」
「そうだね...このまま残しておいても腐るだけだよね」
「そうだな...」
ユウヤは、少し思案する。
これまで生まれて17年以上共に過ごしてきた右腕だ。もちろん、愛着はある。
「───や、燃やしちゃおう。右腕だけ戻すってのも考えたけど、できれば両腕で『鳳凰の縫合』が使えたほうがいいだろうしな」
「───わかった」
ボウッと火が付き、そのまま炎はユウヤの右腕を飲み込んでいく。そして、燃えていったのだった。
もう、太陽は沈みきっていた。ユウヤとカゲユキの2人は、アザムに勝利したのだった。




