第923話 バンシュ
「───クッソ!ウザってぇ!」
『月歩』を使用し、バトラズに対して攻撃を行うバンシュ。
バンシュの『月歩』により、バンシュの立つ地面をバトラズと設置することで、バンシュはバトラズをどこからでも踏みつけることが可能になったのだ。
「どれだけその刀を振っても、そこに着地されてしまえば、攻撃にはなるまい」
バンシュは、バトラズの剣先に立ちそう口にする。バトラズは、その腕を振ってバンシュを落とそうとするけれども、そこに立っているバンシュのことを落とすことはできない。
「どこに、地面から転げ落ちる人がいるって言うんですか。ポゥ!」
そう口にして、ドヤ顔を披露し、そのままバトラズの方へ蹴りで攻撃を入れるバンシュ。バトラズは、そのまま後方に転げるように吹き飛んでいく。
バンシュは、『月歩』で地面と認識する場所を変えたのか、上空に立っていた。
「バトラズ!大丈夫?」
「あぁ、問題ない!」
バトラズに対して、心配そうに声をかけるのはマユミであった。それに対して、バトラズは問題ないと返すものの、見ているマユミからすれば不安になるだろう。
「───と、そうだ」
バトラズは、マユミとアイラの方へ移動して何かを耳打ちする。そして、マユミは何かを理解したようだった。
「おいおい、私を前にして作戦会議ですか?随分と、余裕そうですね!」
「うるせぇよ...モンガ剣舞」
バンシュに対して、攻撃を振るう準備をするバトラズ。
披露するのは、触れたもの全てを斬り伏せる、モンガ剣舞の中でも最強の技の1つ───
「───4の舞 懺悔」
「素晴らしい剣舞ですが、私の『月歩』の前では無力───じゃないですと!?」
『月歩』で、バトラズの振るう刀の上に立とうと試みたバンシュであるが、足先が斬られたことにより、その異常さを感じ取り、すぐにその場から離れるバンシュ。
「逃げたか...」
そう口にしながら、堂々とバンシュの方へ闊歩するバトラズ。バンシュは、バトラズのこれないような空中まで逃げていた。
「なんですか...その剣は...」
「嫌悪するお前を剣の上に立たせないための剣技だ。お前の地面は、針山に変わった。だから、後ほんの一瞬でも反応が遅れていたら貴様の足はミンチになっていただろうによ...」
バンシュの能力の特性上、足さえ潰してしまえばもう無能力に等しいものとなる。だから、バトラズはそれを狙ったようだが、失敗したようだった。
───が、作戦がそれだけのバトラズではない。
しっかりと、他にも策を用意している。だから、こうして今も避けられたモンガ剣舞の「4の舞 懺悔」を振るいながら、バンシュの方へ移動しているのだろう。
バトラズの目は、獲物を狙う獣の目をしていた。バンシュは、ゴクリとつばを飲み込み少しズレたサングラスを掛け直した。
もうすぐ日も沈むから、サングラスが有ったら逆に不利になるだろう。それでも、限界までバンシュは付けているようだった。
「随分と、余裕そうだな。それじゃ、俺が斬ってやるよ」
そのまま、バトラズはバンシュの方へ飛んで移動する。バンシュは、空中を蹴ってバトラズの攻撃を避ける。
バトラズだって、能力がないのに空中を蹴って移動している部分を見れば十分に評価されるべき動きだろう。
「ポゥ!全く、どうして空中が蹴れるとは...驚きですね」
「俺は半鬼人だからだ」
実際は、混血の半鬼人ではなく純血の鬼神なのだが、バトラズはその事実を知らないため、自らは半鬼人であると信じている。
「さて、こちらはどう攻めればいいか...」
「そんなこと考えなくていい。何故なら次の攻撃で貴様を殺すからだ」
「───ほう、そうですか。それでは、次のアナタの攻撃を避けきったら、私がアナタを殺します」
「その攻撃も避けきってやるよ」
「───ポゥ!そうですか...」
バンシュは、そう口にして不敵な笑みを浮かべる。何か、作戦があるのだろうか。
「行くぞ!」
バトラズは、そう口にすると空中に立つバンシュの方へと移動する。空気を蹴り、バンシュの方へと接近したのだ。
「空中に来ることまでは、想定内!」
バンシュは、そう口にしてそのままエレベーターのようにして上空に上がっていく。このまま、上空に逃げられればバトラズさえも上がれない。
だから───
「マユミ、今だ!」
「任せて!ウインド!」
そう口にすると同時、バトラズを空中に弾けだすようにして飛ばすのは、マユミの風魔法。
「───ッ!風魔法!?」
バンシュが反応できるよりも速いスピードで、バトラズはバンシュの元へと辿り着く。
「───逃げられない!」
「逃さねぇよ」
その言葉と同時、バンシュの体を蝕むのはバトラズのモンガ剣舞「4の舞 懺悔」であった。
瞬く間に、肉片───否、塵に変わっていくバンシュと、猛攻を繰り広げるバトラズ。そして───
「討伐完了だ」
そう口にして、地上に降り立つバトラズ。上空では、バンシュが文字通り雲散霧消して、夜の26の世界に消えていったのだった。
「お疲れ様、バトラズ」
マユミは、バトラズにそんな声を掛ける。月の見えない夜は、まだまだ始まったばかりであった。




