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第922話 風月鬼

 

 陽光。

 シュベック───私にとって、それは天敵以外の何者でもなかった。

 だって、私は吸血鬼。陽光を苦手とする種族である吸血鬼なのだから───。


 ***


 シュベック───私には、回想すべき過去がない。


 記憶がないのか───否。

 何等かの能力で消してしまったのか───それも、否。


 私の過去は、あまりにも普通すぎて回想するほどでもないのだ。


 吸血鬼の家庭に平々凡々に生まれて、月光徒に平々凡々に入団して、『付加価値(アディショナルメンツ)』の中で最も平々凡々な人生を送ったのが私。


 両親が幼少の頃に死んだことも無ければ、両親に虐待されていたということもないし、学校や職場でいじめられていたわけでもないし、特に大きなコンプレックスも無かった。


 逆に言ってしまえば、私には何かの大会で優勝したわけでもないし、月光徒の中で大きな功績を残したわけでもないし、何か誰かに大きな影響を与えるわけでも無かった。


 要するに、私は何者にもなれなかった失敗作なのだ。

 何者にもなれない私は、『風月鬼(ヴァンパイア)』という種族名の英名である読みの、至って普通な二つ名を与えられて、私は月光徒の何気ない一員として活躍することとなった。


「───先輩。私は、何も強みのない駄目な吸血鬼です」

 先輩───私がそう呼ぶのは、『サーカス』という能力を持つキュラスシタと呼ばれている吸血鬼。


「そうだぁねぇ?君は、何の強みも───言い換えれば、どこにだって弱みはない吸血鬼だねぇ?器用貧乏とも、英雄の卵とも言えるねぇ?」


 冷静に、そう語るキュラスシタ先輩。だけど、私は自分のことを英雄になれるような逸材だと思わなかったから、自分のことを器用貧乏だと捉えた。


「───そう、です。私は器用貧乏で、突出して得意なところがありません」

 私は、そう伝える。吸血鬼という種族は、才色兼備で何か突出した才能を持ち合わせていることも多かった。


 吸血鬼は長生きするために、何か研鑽するに相応しい才能があるのだ。だがまぁ、昼間は外に出れない体質がある以上、芸術方面に走るのもおかしくはない。

 キュラスシタ先輩も、何か突出した才能があるかもしれない。


「失敗作の私でも、何かできることがあるでしょうか...」

 私は、そうやって問う。キュラスシタ先輩は、私の方を少し悲しそうな目で見てからため息を付いた。そして───


「随分と自己肯定が無いのですねぇ?」

「自己肯定がない───というか、事実ですから」

「そうですかぁ...」


 私には、何の才能も夢もない。つまらない人間であることを自覚している。


「───もし、アナタが失敗作だと仮定すれば、君は失敗作の中では最高傑作だねぇ?」

「失敗作の中では───最高傑作?」

 私は、キュラスシタ先輩の言っていることがよく分からなかった。


「だって、恥じるべき点が無いんでしょう?全てが誇れないだけで恥ずべきようなところはないのでしょう?ならば、失敗作の中では一番じゃないですかぁ?」

「───それは、そうですね」

「アナタは失敗作。ですが、その中では一番。誇りを持って生きていいんですよぉ?」

「───はい!」


 先輩の言葉は、何も無い私を励ましてくれた。

 私は失敗作。だけど、それは恥ずべきことはない。


 ───そこから、私は失敗作と自覚し、それを悪いことだと思わずに生きていった。


 そしたら、その地味な───地道な仕事が評価されたのか、対『チーム一鶴』の専門組織である『付加価値(アディショナルメンツ)』に選ばれた。

 そこにいたのは、皆輝かしい才能を持っていた人だった。中には、私のようにネガティブな人も数人いたけれども、しっかりと実力者だった。


 そして、私は『チーム一鶴』と戦うことになり、そこでオルバという少年とリミアという女性に出会った。

 どちらも、吸血鬼の私からしてみれば赤子に同然な人間であったけれども、ちゃんと私を倒そうと攻略してきていた。


 25の世界での戦いでは、私がオイゲンに助けられたことでなんとか命拾いしたようだが、26の世界での戦いでは違うようだった。


 ───そう、私は26の世界で死んだのだった。


 ***


「───ッ!」

 私の日傘はオルバの能力である『羅針盤・マシンガン』によって破られ、そこから陽光が入り込む。


 私の背中を穿つ陽光は、私に猛烈な痛みと盲目を付与する。

 そして、地に堕つ私を狙うのは、またしても『羅針盤・マシンガン』なのであった。


 ───陽光に当たっているせいで、麻痺して体が動かない。


 抵抗することが、回避することができない。このままでは、死ぬ───。


 私がそう思うと同時、腹部を引き裂くような痛みがやってきたと同時、肉体の感覚がなくなる。

 私の体が死を覚えるよりも早く、陽光によって感覚が遮断されたのだろう。


 私は、その肉体で死というものを感じること無く、ほとんど辛い思いをすることなく死亡したのだ。

 こうして、肉体に残る記憶と思考の残滓も、すぐに溶け出していき───。



 ───これが、『付加価値(アディショナルメンツ)』の『陸』であり、『風月鬼(ヴァンパイア)』と呼ばれた吸血鬼の少女、シュベックの最期である。


 彼女の回想できない人生───吸血鬼生は、ただ静かに幕を閉じたのであった。

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