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第903話 非戦闘員

 

 ───『チーム一鶴』のリューガと、『付加価値(アディショナルメンツ)』のムレイの2人の戦闘が始まった時とほぼ同刻。


「───ここは...」

『チーム一鶴』の非戦闘員───『羽休め』という額を触れた人の怪我を治すという能力を持つ回復役として重宝されているリミアは、瓦礫の中で目を覚ました。


 体に当たる冷たく重い感覚を強く感じながら、彼女はなんとか言葉を紡ぐ。

「暗い───ですね」

 彼女の視界は、黒一色に染められていた。上に、大きな瓦礫が乗っているらしい。

 だけど、その大きさ故に空洞も大きく、その空洞の中にリミアはいるようだった。


「一体、何が起こったんですかね?」

 彼女が体を動かそうとしても、手を胴体の方に近付けたり遠ざけたりするくらいで、上に乗っている瓦礫を蹴り上げようとしても、ほとんど持ち上がらない。

 先程も説明したが、彼女は非戦闘員で剣術も魔法も使用することができない。最近、自衛のためにも魔法の1つや2つくらい覚えたい───などと思っているものの、そんな修行は出来ないような怒涛の日々が続いたために、覚えることはできていなかった。


「この瓦礫、なんとか逃げ出さないと...」

 そう口にして、瓦礫を足で蹴り上げて持ち上げようとするけれども、失敗。

 彼女は、仰向けになるような形で瓦礫の中をゆっくりと横へ横へと移動する。すると───


 ”ガラガラ”


「───キャッ!」

 リミアが瓦礫と瓦礫の間を秒速数センチという非常にゆっくりなスピードで移動していると、突如として瓦礫が滑り崩れて、それに巻き込まれてリミアも下は下へと流されてしまう。


「───っと...ビックリしたぁ」

 リミアがそんなことを口にして、目を擦るとそこには光が入ってくる。どうやら、瓦礫の外に排出されたようだった。周囲には瓦礫の山が乱立しているが、リミアに密着して覆うようにして瓦礫があるわけではない。


「と、とりあえず瓦礫の外に出れたみたい...」

 リミアは、周囲を見渡しながらそんなことを口にする。もうすぐ太陽は沈んでいくようで、空は橙色に染まっていた。ほとんど体感時間と現実との時間に差はなかった。

 そして、すぐに仲間を探さなければ───と、考える。


「私が埋もれていたってことは、他の誰かも埋もれてるってこと。私が助けないと」

 リミアは、ここに月光徒が襲撃していることを知らない。であるからこそ、この崩落がただの事故であると思っている。


「誰かぁ!誰かいませんかぁ!」

 リミアは、腹から声を出してそんなことを口にする。瓦礫の山の中に、同じ部屋だったマユミやモンガが埋もれているかもしれない。でも、モンガであれば自分でもう既に出ていそうだ───なんて思いながら探していると。


「───誰か、いる」

 瓦礫をよじ登り、安定しないような建材の上になんとか立ち、周囲を見渡したリミアはそんなことを口にする。そこに座っていたのは、紅蓮の色を持つ女。

 こんな髪を持つ人物は、『チーム一鶴』にはいない。同じ宿に泊まっていた人だろうか───などと、リミアが思っていたものの、すぐにそんな思考は否定された。


「───ッ!シュベック!」

 リミアは、気がついてしまう。

 見覚えがあったその髪色と、忘れることの出来ないその憂色。

 そこにいたのは、25の世界の1回目の境内戦争でリミアとオルバの敵として立ちはだかった『付加価値(アディショナルメンツ)』の『陸』であるシュベックであった。


 夕方だと言うのに、吸血鬼であるからという理由で日傘を指して、陽光に照らされるのを防いでいたし、どうやらリミアに気付いている樣子はない───


「───ッ!」

 その時、シュベックの方からリミアの方へと伸びてきたのは麻縄。そして、その麻縄はリミアの首を鷲掴みにし、窒息死しようとさせてくる。


「───うっぐ、これは...」

 これが、シュベックの能力である『愚問な拷問(バッドコメンテーター)』であった。

 相手を拷問───否、処刑することが可能なシュベックの能力は、リミアを殺すための方法を何千通りの用意して、その生命を着実に狙ってくる。


 リミアは、縄を引きちぎらなければ窒息してしまうので、首に括られた紐を千切るために、せめて引っ張られないようにするためになんとか抵抗する。


「───無駄よ、抵抗するなんて。それに、抵抗しないほうが失敗作のアナタは楽に死ねる」

「───」

 シュベックは、リミアの方など一度も向かずにそんなことを話しかけてくる。リミアのことなど、最初から気付いていたのだろう。


 ギチギチと、首を絞め続ける麻縄。リミアの肺からは空気が追い出され、絞められる縄のせいで上手く息が吸えない。

 せめて、この縄がどこかで切れてくれれば楽になるというのに、引きちぎるような握力も、斬ることができるような剣も、燃やし尽くしてしまう魔法も、非常時に役立つ戦闘系の能力も、リミアは何も持っていない。


 リミアは、非戦闘員なのだ。

 戦うことのできない、戦闘力を持たない人間。


「───くぁ...」


 最後の一息、リミアが吐き出し窒息して───


「『羅針盤・マシンガン』!」


 その時、リミアの首を絞める麻縄を銃弾によって撃ち破るのは、1人の人物。


「遅れてすまん、リミア」

 そこに現れたのは、25の世界でもリミアと共にシュベックと戦った男───オルバの姿であった。


「シュベック。25の世界の蹴りを付けようぜ?」

 そんな言葉を皮切りに、オルバ・リミアとシュベックの戦いは幕を開けた。

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