第898話 「敵を見違えるな」
「───チューバ様?」
「チューバ様、申し訳ございません。仲間内で争いをしてしまったことを、ここに謝罪します。首を斬ってでも吊ってでも割ってでも謝罪をしようと思っている所存です」
月光徒の幹部であるチューバの登場によって驚くオイゲンと、それを見透かしていたかのようにして跪きながらそんなことを口にするカール。
「カール、死ぬ必要はない。ボスは『チーム一鶴』に飽きたと言っていたから、お前が取った行動は不問にする」
「───チューバ様!?いいんですか?」
チューバの発言が信じられないのか、思わずチューバに意見してしまうオイゲン。
「不問にするって言っているだろう。ボスが飽きたと言ったのなら飽きたんだよ!」
「でもわざわざ返さなくても、殺処分するなりなんなりでやり方はあったはず!カールの逃すという洗濯は───」
「オイゲン、敵を間違えるな」
オイゲンが、カールの行動の非を認めさせようと言葉を紡ぐところを、たった一声でチューバは制止する。
「仲間内で争うのは時間の無駄だ」
「すみま、せん...」
オイゲンは、認められないながらも謝罪をしなければいけない立場であるので、謝罪をする。
「───と、観客席にいる皆もこっちに来てくれ」
そう口にして、呼ばれる残る『付加価値』のメンバー。
「チューバ様」
「なんだ?」
「アインがいませんが、そちらの方は?」
「アインがいないのはいつものことだ。だから、今回の話からは除外する」
カールの言うアインと言うのは、『付加価値』の『肆』であり、『私の影を踏まないで』の異名を持つ紫髪の女性であった。仲間の前にさえ姿を現すことが珍しい、超引きこもりであるものの、戦えば『付加価値』に入れるほどの強さと能力を持っており、25の世界で『チーム一鶴』のことを孤立無援で勝利一歩手前まで行った。もっとも、その戦闘ではカールの妨害があって勝負がつかないままで終わってしまったのだが。
「───って、その時もカールは妨害していたのか。でもまぁ、いい。結果としてその行動は、人工精霊の結果を手に入れることに繋がっているからな」
チューバは、カールのことをそう評価して許してしまう。カールは、顔を上げて立ち上がった。
───と、そんな話をしていると観客席から他の『付加価値』のメンバーもチューバの方へやってきた。
「ボスは、『チーム一鶴』について飽きた───と言っていた。それはつまり、どういうことかわかるか?」
「不必要───要するに、殺せということだな?」
「60点だ」
ノーラの回答に、点数を付けるチューバ。
「───私達が『チーム一鶴』をおもちゃにしていい───ということでしょう?」
「ムレイ、正解だ」
チューバにそう評価されるのは、『付加価値』の『零』であり『愚人礼賛』の異名を持つムレイであった。鋼鉄のペストマスクを付けており、足はタコのように何本も分かれている異形の生物。
「───ってことはよォ、俺様達で好き勝手していいってことだろ?」
「最後に処分したら───という条件付きだろうがな」
「ッシャア!好き勝手やられて苛立ってたんだ、ぶっ殺してやる!」
「それでだ。『チーム一鶴』に強襲するメンバーを決めたい」
「全員じゃ駄目なのか?」
「マフィンと数を合わせる?」
「マフィン様?どうして、『チーム一鶴』との戦闘にマフィン様の名前が?」
「悲しいことに、ボスが『チーム一鶴』に飽きたということは、俺達が『チーム一鶴』と優先的に相手ができる特権は無くなったんだ」
チューバが、そう口にするのは月光徒の中で黙認するかのようにして勝手にルール決められたものであった。
チューバとその部下、今は亡きヴィオラの部下の中からでも、強いメンバーを大量に集めて構成されている対『チーム一鶴』専門の組織『付加価値』が月光徒のボスであるステートが主催のゲームをやっているというのに、それより先に、『チーム一鶴』 に戦闘を申し込み勝利───だなんてしてしまえば、『付加価値』の面子が丸潰れであるし、ステートとからゲームの楽しさを奪ってしまうことになる。
であるから、月光徒の多くの団員は『チーム一鶴』の討伐に動くことができなかったのだ。
だけど、もうゲームを「飽きた」と口にしている以上、誰が『チーム一鶴』に手を出しても誰も文句は言わないし言えないのだ。
「仕方ない。ボスは『チーム一鶴』に───いや、俺達に飽きられたのだからな」
嫌味のようにそう口にするのは、ヒンケルであった。
「俺は『チーム一鶴』のメンバーからは外してもらって構わない。一応、『付加価値』にはいさせてもらうけどな」
ヒンケルはそう口にして、一歩後ろに下がる。
「では、私も今回は自粛させていただきましょう。油を売ったせいでヘイトを買ったみたいですので」
カールはそう口にして、ヒンケルの隣へと移動する。
「───ンじゃあァ、俺様を!」
「いや、もうメンバーは決めている」
「んなッ!じゃあなんでメンバーを決めたいとか言ったんだよッ!」
「ムレイ。シュベック。2人に任せたい。共に来てくれるか?」
「俺様を無視するなッ!」
エレンは、チューバに抗議するものの全てを無視されてしまう。
「チューバ様には逆らえませんので」
「私もよ。失敗作の私を連れて行くなんて、なんのつもりかわからないけどね」
チューバの命に従うことを口にしてムレイとシュベック。
ムレイは、『チーム一鶴』との初の、そしてシュベックは2度目の『チーム一鶴』との戦闘が行われる。
「───さぁ、行こう。『チーム一鶴』を潰すなら今だ」
『チーム一鶴』に、『付加価値』の凶刃が向けられる。




