第86話 カラス
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「───」
”ゴロッ”
ショウガの少し後ろで、何かが転がる音がする。
「んぁ...」
マユミは何か見に行った。そこにあったのは───
「アイキーだ...」
そこにはアイキーがあった。リカとワッケラカエンが7の世界に行ったことの証明だ。マユミはアイキーを拾う。
「ショウガさん!帰りましょう!」
「嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!」
ショウガは哀哭する。
”カーカー”
リューガの死体の匂いに引き寄せられ、カラスが飛んでくる。そして、リューガを持ったショウガに集る。
「やめろ!リューガを襲うな!やめろ!やめろ!」
マユミはその姿を黙ってみていた。
{食われてしまえばいい。} と、マユミは心のなかで思っていた。
「あぁぁぁぁぁ!リューガを!リューガを持ってかないでくれよぉ!」
リューガの死体はカラスに摘まれて持ってかれる。ショウガは濡れた体で、追いかける。も、相手は空を飛ぶ動物だ。捕まえられなかった。
「ショウガさん...帰りましょう...」
マユミは静かに呟いた。夜の街には、カラスの鳴き声だけが響いた。
***
「うぅ...リューガァ...」
ショウガは泣きながら家に帰ってきた。体は濡れたまんまだ。
「おぉ!2人共...おかえ...り...」
ユウヤは帰ってきた2人に気づいた後に、ショウガが酷く濡れて泣いていることに気がついた。
「何が...あったんだよ...」
トモキの顔はいつもと違い真剣になる。おちゃらけた雰囲気ではないことくらい察し付いたようだ。
「リューガが...リューガがぁぁ!」
泣き叫ぶショウガに変わって、マユミがワッケラカエン戦の全てを説明した。
***
「ここは...」
俺は暗闇の中にいた。死んだらいつも来る場所だ。食われるまでは待たなければならないが、その時はすぐに来たようだ。
《Dead or chicken?》
「チキン!」
俺の視界は明るくなる。
「ここは...」
”バサバサバサ”
「うおっ!」
俺の周りには大量のカラスがいる。俺の羽も黒くなっている。カラスに食われたのだろう。
「帰るか...」
俺は外に出る。辺り一面真っ暗で、どこがどこかなどわからない。何年もいるならともかく、俺はここに来て1日も経っていないのだ。まだ、ここに来て12時間も経っていないのだ。
俺は羽ばたこうとする。そして、家まで帰った。
***
”バサッ”
ドアに何かが当たる音がする。
「なんだよ...こんな時間に...」
”ガチャァ”
カゲユキがドアを開ける。そこには、一匹のヒヨコがいた。
「みんな!大丈夫だったか?」
「なっ...リューガ?」
ショウガは急いで、玄関の方に走っていく。
”ゴンッ”
「痛ぅぅぅ!」
ショウガは急ぎすぎた勢いで、玄関のドアに頭をぶつけてしまった。
「おいおい...ショウガ!どうして、そんなに焦ってんだよ!」
「リューガのバカぁ!」
「なっ...」
”ガシッ”
俺はショウガにいきなり侮辱されたかと思ったら、ショウガの胸の中に押し込まれる。
「ちょっ...ショウガ...何を...」
「我は...我は...リューガが死んで、どれだけ心配したと思ってんだよ!」
「ショッ...ショウガ...」
「心配したんだからな!馬鹿!馬鹿!馬鹿!」
俺は、この「馬鹿」が悪口なんかではなく、愛情表現であることを知っていた。
───もう俺は、ショウガを悲しませることはできない。
***
ショウガはシャワーに入って、一度落ち着いた。現在はトモキが風呂に入っている。
「でだ、これからどうする?」
「もちろん、リカを追うに決まってるだろ!」
俺はマユミから話を聞いた。本当にショウガには心配をかけた。
「アイキーはあるんだろ?なら、行くしかないだろ!」
「あぁ!当たり前だ!ワッケラカエン!あいつだけは許さない!」
ショウガの目は本気だ。本気と書いて「マジ」と読むほど本気だ。本気と書いて「マジ」と読むほど本気と読むのか、本気と書いて「マジ」と読むほど本気と読むのかは知らないのだが。ワンチャン、本気と書いて「マジ」と読むほど本気もあり得る。今、その話はどうでもいい。
「それじゃ...今すぐに時空の結界に向かうぞ!」
「「「おう!」」」
俺たちは早急に荷物をまとめる。ギルさんに、謝罪の手紙を残して、宿を出ていった。
***
俺たちは走って時空の結界に向かう。いや、俺はカラスになって飛んでいるのだが。
「リューガ!リカを取り戻すとして...ワッケラカエンに勝つ対策はあるのか?」
「ない!」
「えぇ...」
カゲユキの疑問に答える。
「だが、あいつは何回か能力と魔法の制限を停止した!だから...何かの能力持ちだ!」
「そうだな...能力持ちと見て、正しいだろう...」
カゲユキも走りながら真面目に考える。
「戦力は...どうする?」
「俺は確定だろ?」
「あぁ...そうだな...魔法が使えないなら、俺とマユミも無理だ...できるとしても戦い前の援護くらいだな...」
「我も『柔軟』が使えないならなぁ...」
「って、戦えるの、俺とユウヤとトモキだけ?」
「かもなぁ...」
「お、着いたぞ!」
ショウガは急いでアイキーをはめる。
「それじゃ、行くぞ!」
「「「おう!」」」
こうして、俺たちは6の世界「シャコル」とおさらばし、7の世界へと向かっていった。
2の世界 シャコリア
6の世界 シャコル
5の世界へのアレカラは明日(13日)に投稿します。




