第85話 さようなら
「リューーーーーーーーーガァァァァァァァァァァァ!」
静かな夜に、ショウガの叫び声が響く。ただ、響く。ショウガは、ワッケラカエンの方に走っていく。
「ショウガさん...さようならです...あ、アイキーはどこにあるのか知っていますか?」
「し...知らない!」
「あなたの泊まっている宿に...あったりしますか?」
「なっ...ない!あるわけない...だろ?ま、まさかなぁ!」
「そうですか...」
ワッケラカエンはショウガの前から姿を消す。
「なっ...どこに...」
こちらに向かってくる足跡が聞こえる。
「はぁ...はぁ...ショウガ!リューガは?」
ショウガは、足元に倒れていたリューガを優しく手に乗せる。もう息はしていない。死んでいるのだ。
「そんな...リューガ...なんで...死んじまうんだよ...」
ショウガの目からは涙が溢れる。ぽたり。ぽたり。ぽたり。涙の雫は地面に落ちる。
「リューガ...死なないで...死なないで...くれよ...ワッケラカエンが...リカを...リカを...」
ぽたり。ぽたり。ぽたり。
***
「きゃ!」
一人で少し考え事をしていたリカの前にワッケラカエンが現れる。
「ワッケラカエンさんでしたか...リューガさん達は?」
「大丈夫です。死んじゃいませんよ...」
ワッケラカエンはリカに嘘をついた。
「私は7の世界に行くので...ここでリカちゃんとはさようならです...もう会えません...」
「そんな...」
「リカちゃん、あなたは大切な仲間のところに戻りなさい?いいですね?」
リカは頷かない。首を振る。
「しょうがない...悪い子ですね...とりあえず、もう出発してしまいますよ?」
「はい...」
そう言うと、リカはワッケラカエンにしがみついた。2人は今は誰もいない宿に向かった。
***
ショウガは静かに泣いている。花畑だった場所で。何も残っていない。この更地のように。
「あぁ...なんで!なんで死んじまうんだよ!この前みたいに失神なら、まだよかった!なのに...なのに...なのにぃ!」
ショウガは嗚咽する。涙を手で拭くも、まだ涙は流れてしまう。
「我を...置いていくなよぉ!そうやって...どうして我の一歩もニ歩も先を行っちまうんだよぉ!」
マユミはそれを少し後ろで眺めている。泣いてなどいない。ただ、冷静にショウガを見ている。
「なぁ!マユミ!」
ショウガはマユミの足に纏わりつく。
「蘇生魔法とかよぉ?ないの...ないのかよぉ!」
マユミは一言も喋らない。沈黙を、保ち続けている。
「マユミ...どうすれば...どうすればいいんだよぉ?」
ショウガは『憑依』で死んでも何かに食わせれば生き返ることを知らなかった。ジャワラの体を奪った時も、それを担当したのはサメリであったし、カイロに食われたときも、エイジンに食われたときも、フミヤに食われたときも死んではいなかった。だから、ショウガは知らないのだ。
「あぁぁぁぁ...どうして...リューガァ!我は...我はぁ!」
ショウガは地面に両膝・両肘・頭をつく。顔は濡れているが、これが川の水か、涙かはわからない。
傍から見ると、濡れて体の輪郭が顕になっている黒ビキニの巨乳の女性が地面に泣きながら土下座をしている。
「我は...リューガ!あんたが!好きだった!」
ショウガは泣いた。泣き続けた。泣き腫らすことのできない涙が流れ続けた。
***
「ここが...宿ですか...」
”ガチャ”
「誰だ...お前は!」
「あぁ...すいません..部屋違いでした...」
ワッケラカエンは一つ隣の部屋を開けていた。2回目にして正解の部屋を当てる。
「さて...アイキーを...」
ワッケラカエンはアイキーを手に持つ。
「それじゃ...行きますか...」
「いや...もう少しだけ...」
「そんなに別れが恋しいのなら、無理についてこなくてもいいんですよ?」
リカは深呼吸をする。
「ワッケラカエンさん...悲しくない別れなんて...ないんですよ?」
リカはそう言うと、ワッケラカエンに微笑む。そして、満足したような顔をする。
「行きましょう...時空の結界へ...」
「えぇ...」
ワッケラカエンとリカは時空の結界へ向かう。
***
「はぁ...リカ...いなかったな...」
「あぁ...そうだな...」
「疲れたぁ!どこに行っちまったんだよぉ!」
ユウヤ・トモキ・カゲユキは家に帰ってくる。
「マユミ達は...まだ帰ってないんだな...」
「おい...これ...」
カゲユキが、棚の上を指差す。
「カゲユキ、どうかしたのか?」
「アイキーが...無くなっている...」
「なっ?それって...どういうことだよ?」
「マユミ達の荷物はある...だがリカの荷物だけはない...だから、何者かに盗まれたか、リカが持ち逃げした...ってことか...」
カゲユキは一人で真面目に考察している。
***
ワッケラカエンは時空の結界に、アイキーをはめる。そして、こう呟いた。
「さようなら...リューガ...」
ワッケラカエンとリカは時空の結界の中に入っていった。一度も後ろに振り向くことはなかった。




