第887話 第二次境内戦争 ─大量─
ユウヤとバトラズ・モンガと、『ゴエティア』序列32位の黄色髪、アスモデウスとの全面戦争であり、最終戦争が始まろうとしている今。
上空に飛ぶ何十体もの『獄龍』の背中に乗っているのは、全てが首が1つのアスモデウスであった。
「なんで、こんなに...」
「これは、私の能力である『魚拓を並べる』の効果です」
そう口にして、アスモデウスは懐から一枚の折りたたまれた紙を取り出す。そして、その紙を開くと───
「ビックリしましたか?」
「このように、私に転写したものを具現化させることができるんです。自分自身であろうと、転写した紙であろうと」
それ即ち、転写した紙を折りたたんだ状態で、別の紙に何枚も並べてそれをも転写すれば、転写した何枚もの紙を1枚にまとめることができる。
だから、実質的に無限に転写した紙を増やすことができる。そして、その全ての転写した紙にアスモデウスが書かれいたとするのであれば───
「1秒で何倍・何十倍と私は増えていくんです」
そう口にして、ユウヤ・バトラズ・モンガの上空にずらりと勢揃いをする大量の『獄龍』と、その背に乗るアスモデウス。
もう数えられないほどに増殖していた。
「なんだよ、この量...対処できねぇ...」
「警戒しないわけ無いじゃないですか。『チーム一鶴』はフォラスを殺し、『妖精物語』はフルフルとマルコシアスを殺した。いや、『チーム一鶴』はフォラス以外にも別の世界に大量に『ゴエティア』の、私達の、私の仲間を殺してますよね。もちろん、ご存知ですよ」
最初の1体であるアスモデウスが、そう口にする。
「唯一の欠点は、生物だった場合24時間で消滅してしまうこと。だけど、この量がいれば24時間どころか24秒で貴様らを殺すことができ───」
「五月蝿い」
その言葉と同時、最初の1体であるアスモデウスの最後の首が斬り落とされる。
だが、他のアスモデウスが消滅するようなことはなかった。
「残念でしたね」
「私達は消えないんです」
「本体が死んだところで消えないんです」
「24時間は消えないんです」
「そして、その24時間の間にも大量に大量に増えていきます」
「実質的に、私達は無限に増え続けることができます」
「なにせ、24時間もあれば大量に『魚拓を並べる』が使用できますからね」
「本体が死んだところで、アスモデウスという男は生き永らえることができるのです」
「無駄なんですよ、アナタ達の行動は」
「ここで殺して差し上げます」
「抵抗したって結局無駄になるんですよ」
「最強だろうが、私達には勝てない」
「私には勝てない」
「可哀想ですね」
「実に可哀想ですねぇ」
大量のアスモデウスが、次々にそんなことを口にする。そこには、ユウヤもバトラズもモンガも口を開くことはできなかった。だが───、
「静かにしろ、騒がしい!」
「「「───」」」
先程まで口にしていたアスモデウスに対して、沈黙を破壊するようにしてそう口にしたのはモンガ。
「無限に増え続ける?貴様らが増えるスピードより速く貴様らを斬り殺していけば、いつかは消えてなくなるだろう!」
「「「───ッ!」」」
「なんですって?」
「そんなことができるわけない」
「増えるスピードは次第に上がっているんだぞ?」
「そんな口をきくだなんて」
「自分の立場がわかっていないのでしょうか?」
「腹が立つ」
「嗚呼、腹が立つ。腹が立つ」
「仕方ないですねぇ...」
「折角だし、わからせてあげましょう」
「まさか、あの最強の必殺技を?」
「えぇ、これだけの人数がいれば」
「───まぁ、いいでしょう」
「逆に、ここで全員で使用しないと意味がないですものね」
何かを、話し合うと同時、大量のアスモデウスは地上に尖った方を向けて、逆円錐のような形になっていた。
「何をする気だ...」
「「「これは、私達の必殺技。100年に一度放つことが可能な必殺技です」」」
その言葉と同時、全てのアスモデウスの掌に浮かび上がるのは漆黒の球体であった。
「1発で、核爆弾1000個分のパワーを誇るこの『破滅の一発』を、ここにいる全員で使用したら───どうなるかわかりますよね?」
「いいのか?お前らも吹き飛ぶことになるが?」
「心配ありがとうございます。ですが、御無用。吹き飛びながらでも、増殖はできるんですよ」
破滅の一発・・・圧倒的破壊力を誇る漆黒の球体を100年に一度だけ生み出す事が可能。
本来であれば、100年に一度のみしか使えない大技。だけど、 『魚拓を並べる』の効果によって、同時に使用する時のみこの世界に同時に2個や3個、漆黒の球体が作られることとなる。
───それを使用し、増殖し続けるアスモデウスは『破滅の一発』を、1発ではなく約5万発───正確には、5万4927発もの、核爆弾5492万7000発分もの、エネルギーをユウヤ・バトラズ・モンガに対して放つことになった。
きっと、それだけが放たれれば25の世界も荒廃してしまうだろう。
だけど、もう既に『ゴエティア』の「月光徒を妨害する」という任務は達成されてある。
だから、如何なる崩壊も恐れていないのだった。
「さようなら、『チーム一鶴』」
「───」
ユウヤは、バトラズにしがみつく。
それと同刻、アスモデウスが一斉に『破滅の一発』を3人の方へ放ち───。
25の世界は、白く染まり上げ、一瞬にして人口の9割もの命を奪い去っていったのだった。




