第883話 第二次境内戦争 ─母親─
「『蛸の内臓』」
刹那、『チーム一鶴』の5人に───マユミとカゲユキにペトン・アイラ・セイジの5人に対して迫りくるのは、巨大なタコ足。
蛸の内臓・・・巨大な8本の蛸足を作り出すことが可能。
「───」
フォルネウスに対して、仲間───だと持っている以上、マユミやカゲユキは敵対しないし、これが攻撃だとも思わない。きっと、何か楽しいことを見せてくれるのだろう───そう思っているだろう。
これが『奪りす魔性』の能力の効果であり、厄介な点である。
『奪りす魔性』の敵対をなくす───という能力は、地味見えて強い。
だって、殺す寸前にこの能力を付けば、敵対を解除できるのだから、すぐにその首を刎ねることができてしまうのだ。そして、ある程度のことはナーフされる。
そんな能力がかけられていたからこそ、判断が鈍ってしまう。
誰も、何も行動できないまま、巨大なタコ足と地面に挟まれてしまい───
「喰らい尽くせ、ファイヤー」
誰も動かないはずの、敵対していないから攻撃できないはずの『チーム一鶴』が一人、動く。
「え、え...」
フォルネウスの焦ったような声が聞こえる。襲いかかったタコ足は、質量を持つ炎に押し返され、その弾力のある肉体を燃やしている。
「どうして...敵対しないはずなのに...」
フォルネウスは困ってしまう。敵対心を無くす能力ではあるが、疑念や不満は通常通り持たれてしまう。
「ママを傷つけようとするやつは、仲間であろうと赦さないでちゅ」
驚くフォルネウスに対し、そう口にするセイジ。
「ちょっとセイジ!フォルネウスさんに何してるの!」
「え、でも...」
「ほら、セイジ。ちゃんと謝って!」
「───ごめんなさい、でちゅ...」
「は、はい...こちらこそ説明もなく勘違いさせるようなことをしちゃって、えと...ごめんなさい...」
フォルネウスは、思案する。
眼の前にいる魔導士は強い───と。
これまで、親しい部下の前でしか偉そうな口を叩かず、戦闘はほとんど部下に任せ、自分が戦う時も『奪りす魔性』に頼って、殺す瞬間の警戒心を無くしていたので、実践経験はほとんど無いに等しい。
だから、セイジの魔法を見た瞬間にビックリしてしまった。これが『先祖孵り』の異名を授かったセイジの力なのか───そう理解した。
「それで、何をしようとしたんでちゅか?ママを───ぼく達を傷つけようとしてるように見えたのでちゅけど」
「え、えっと...それは...」
「セーイージー?フォルネウスさんを困らせちゃ駄目でしょ?」
「ごめんなさい...」
「ごめんなさいと言うのは簡単!セイジはいつも反省してない!」
「───」
フォルネウスは、それと同時にマユミが馬鹿で助かった───そう心の底で思う。
まだ、『奪りす魔性』はマユミには聞いてるのだ。
だが、セイジには効果が薄れていると思われるだろう。
フォルネウスは、自分の後方にあるタコ足をうねらせながら、どうすればいいのか思案する。
「───それで、フォルネウスさん!次は何を見せてくれるんですか?」
「え、え、えぇっと...」
マユミに話を触れられるフォルネウス。
キラキラとした純粋な目でマユミとアイラは、フォルネウスのことを見ていた。
「───言葉にするのは難しいんだけど...と、とりあえず見てもらえればわかるから...」
「そうなの?」
「う、うん。でも、大変な技なんだ。だから、さっきみたいに皆の方に倒れちゃったらごめん...」
「危害を加えようとしたわけじゃないんでちゅか?」
「当たり前でしょう!?フォルネウスさんが私達を攻撃する意味なんかないのよ?」
「どうだかな...」
その発言から考えて、セイジとカゲユキに対する『奪りす魔性』の効果は薄れてきているようだった。
ペトンが信じているのかどうかは、わからない。
「ごめんなさいね、ウチの馬鹿な男子陣が。カッコつけたがりなのよ」
「ぼくは違いまちゅ」
「セイジは迷惑なだけ!魔法杖没収!」
「ちょっと、返ちてくだちゃい!」
セイジは、魔法杖をマユミに取られてしまう。これで、セイジは無力となった。チャンスは今。
「そ、それじゃもう1回...」
そう口にして、フォルネウスは偶然を装って『蛸の内臓』で生み出したタコ足での攻撃を試みる。
今回は、魔法でも押し返されないために3本ほど使用するつもりであった。
上空で、何かを作っているような不利をして、タイミングを見極めて───
「───あ!」
まるで、失敗したかのようにそんな声をわざと出す。避けられるものなら、避けてみろ。
そう言わんばかりの宣戦布告。
『チーム一鶴』の5人に対して、倒れるタコ足。
先ほど妨害してきた、セイジは魔法杖を持っていない。
だから今回は止められない───
「───んん?」
だが、『チーム一鶴』の5人に激突する前に『蛸の内臓』は止められる。
「『我武者羅ガム』」
「また失敗、したみたいだな。俺達の殺害の」
「───ッ!」
ペトンが能力を使用し、カゲユキがそう口にする。
もう既に『奪りす魔性』の効力は、『チーム一鶴』のどこにも残っていないようだった。




