第877話 第二次境内戦争 ─最強─
「助太刀遅れた。失礼するよ」
その言葉と同時、倒れている俺達とキリエ・ショコラティエのいる部屋に入ってきたのは、『チーム一鶴』のツートップ、『剣鬼』バトラズと『剣姫』モンガの2人であった。
2人には、『妖精物語』の『鬼』であるオーガとの戦闘をお願いしたが、こうしてここにいるということは、しっかり勝ったということだろう。
流石に、オーガが猛者だったとは言え、ツートップを2人も投入するのは多すぎただろうか。
「───アナタ達は、驚かないんですね?」
「まぁな」
キリエ・ショコラティエの言う「驚かない」というのは、倒れている俺達を見て───ということだろう。
「俺達がお前を倒してしまえば救えるのだから、驚く必要もない」
「随分と強気なようで」
キリエ・ショコラティエは、モンガの余裕そうなその言葉に笑みを浮かべながらそう口にする。そして───
「「モンガ剣舞」」
バトラズとモンガの2人は、息のあった動きで刀を振るうことを試みる。倒れている俺達を殺さないようにするために、攻撃対象以外を傷つけないように慎重に刀を振ろうとしていた。
「「───6の舞 霹靂」」
「御見事」
「「───ッ!」」
モンガ剣舞がキレイに決まり、キリエ・ショコラティエにもついに攻撃を加えられる───と思ったものの、その攻撃は無慈悲にも理不尽にもキレイにいなされて、そのままバトラズとモンガの2人は遥か後方───それこそ、本殿の外に吹き飛ばされていしまう。
「いやー、流石でした。私に一瞬とは言え本気を出させることができる人がいるとは」
キリエ・ショコラティエはパチパチパチと拍手をして、吹き飛んでいったバトラズとモンガの2人を称賛する。だが、2人は確かに吹き飛ばされたのだ。
『チーム一鶴』のツートップでさえも、一瞬本気を出させるだけで吹き飛ばされてしまった。
あまりにも強い、強すぎる。身動きできない俺達には、もう既に蹂躙される未来しか見えないのだった。
***
吹き飛ばされたバトラズとモンガの2人はどこに行ったのか───。
抱いて当然のその疑問を解き明かすためには、2人の青年の話をする必要があるだろう。
それは、石段を登り本殿を、境内へと向かっていたユウヤとセイジで2人であった。
2人が石段を登っていると、上空を吹き飛んでいったのはバトラズとモンガの2人。
「───え、今、吹き飛んだ?」
「そうみたいでちゅね...上には、強敵がいそうでちゅ」
ユウヤの言葉に、珍しくセイジが賛同する。いつもは、何でもかんでもユウヤに反抗し噛みついていたが、今は仲間が戦闘中だ。だから、それなりの集中力は存在しているのだろう。
「───俺、見ていこうか?」
「もしかして、強敵と当たるのが怖いんでちゅか?そうでちゅよね、嫌なら逃げてもいいんでちゅよ?」
「別に逃げるってわけじゃないけど...」
ユウヤは、セイジがここぞと言うばかりに煽ってくるので少し困惑してしまう。
「俺はバトラズとモンガの2人が心配なんだ。だから、俺は2人と合流してくるよ」
「───わかりまちた。それじゃ、そっちはお願いしまちゅよ。ぼくはママが上にいますし上に行きまちゅ」
「あぁ、そうしてくれ。戦闘においては、俺よりもセイジの方が上だ」
「なんでちゅと!?まるでぼくが戦闘以外は駄目みたいに言ってくれまちゅね!」
「実際、駄目だろ...」
「やっぱりユウヤは嫌いでちゅ!はよ行け!」
「はーい」
最後の方、セイジは語尾を忘れているような気もしたけれどあまり気にしてはいけないだろう。
そもそも、魔法を使用する時は「でちゅまちゅ口調」じゃなくなるのだ。
こうして、ユウヤとセイジは反対側の方向へ走っていったのだ。
ユウヤは、吹き飛ばされたバトラズとモンガが地面に落下した地点まで走って移動する。吹き飛んでいった方向はわかっているし、空中で方向転換することもないだろうから、すぐに見つけられるだろう。
「───いた」
ユウヤは、持ち前の豪運も相まってか、すぐにバトラズとモンガの2人を見つけることに成功した。
「2人共、大丈夫か!?」
「大丈夫...だ。辛うじてな...」
「私もだ。受け身はなんとか取れた...」
「よかった、無事だった」
どうやら、バトラズとモンガはしっかりと受け身を取れていたようだった。そこは、流石『チーム一鶴』のツートップと言うべきだろうか。
「大丈夫、立てる?」
「なんとか...な」
バトラズは、ジンジン痛む腰を擦りながらゆっくりと立ち上がる。こうして、立てているということは骨が折れていたりはしないようだった。
「───バトラズとモンガは誰と戦っていたんだ?」
「人工精霊」
「───え?」
「サンバードに受肉した人工精霊と戦った。一瞬でここまで吹き飛ばされたよ」
「そんなに...」
「あぁ、そんなにだ」
バトラズとモンガを一度にここまで吹き飛ばす人工精霊の強さを、ユウヤは存在する。
そんな圧倒的強者の前では、自分の豪運さえもほとんど無力であるだろう。
───いや、こうして2人を助けに来たことがそもそも運が良かったかもしれない、などと考えた。




