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第876話 第二次境内戦争 ─感情─

 

 乱入してきたイブが壁に激突すると、それ以降イブが動く音が聞こえなくなる。

 体を動かせない俺は、イブの安否を確認することはできないけれど壁にぶつかっただけなら死んではいないだろう。

 だけど、うめき声の一つも聴こえないというのならば失神───ということだろうか。


 イブのことを俺達より力強く叩きつけたのか、それとも先に吹き飛ばされた5人の中にも失神していた人がいたのか、俺はわからないけれど少なくとも俺は失神することは無かった。


 ───リューガの疑問に答えるのであれば、リューガとカゲユキ・ステラ以外の2人───マユミ・リミアの3人は、吹き飛ばされると同時に失神していた。リューガとステラは、なんとか耐え抜いていたのだ。


「───動かなくなってしまいましたか。こちらも手を抜いてはおりますが容赦はしていないですし、当然と言えば当然ですが...」

 キリエ・ショコラティエはそう言葉を紡ぐ。当然ですが───の、逆接の後に続く言葉は、これ以上紡がれることはなかった。最初から紡ぐ予定など無かったのだろう。


 さて、俺達5人にイブと、断続的に来ていた『チーム一鶴』のメンバーもこうして途切れてしまっている。

 このままでは、キリエ・ショコラティエを逃してしまう。


 ───が、俺はそれでもいと思う。


 このキリエ・ショコラティエはあまりにも強すぎる。俺達の動きや能力・魔法をいとも簡単に止めることができるキリエ・ショコラティエは、あまりにも強すぎる。

 対抗策を持っていない俺達にとって、キリエ・ショコラティエはほぼ確実に勝てない強敵だ。

 キリエ・ショコラティエには、策を持って挑まなければ勝利することができないだろう。

 何を理由にかわからないが、幸いまだ俺達は誰一人として殺されていない。どうにか頼み込めば、俺達は逃がしてもらえるだろう。

 というか、そもそもキリエ・ショコラティエの望みも野望もわかっていない。


 だが、あまりサンバードとの繋がりが強いわけでは無さそうだった。

 だって、繋がりが強かったら俺達を殺そうとしてくるから。

 受肉する前の肉体の持ち主の感情や願いが関係ないとするのであれば、人工精霊は何を目的に動作するのか俺は知る由もない。


「───と、感じますね。殺気を」

 キリエ・ショコラティエは、口調を変えずにそう口にする。先程から、この部屋から出ようとしなかったは、キリエ・ショコラティエは警戒していたからだろう。

 まだ、俺達の仲間がいると踏んだのだ。実際、その考えは正解だった。


「いるのなら入ってきてもらって構いませんよ。それとも、奇襲が狙いですか?」

 キリエ・ショコラティエは、隠れている俺の仲間にそう口にするようだった。

 流石に、ここまで言われてしまっては出るしかないだろう。


「やれやれ、バレてんのか...」

 そう口にして出てきたのは、フサインであった。フサインは、腰に携えていた剣を投げ捨てて、両手を上げて出てくる。その斜め後ろに付いてきているのはアイラだ。

 どうやら、デスを討伐することができたようだった。だが、キリエ・ショコラティエがいる状態ではデスに触れてもらったほうが楽に倒せていたかもしれない。


 きっとデスも「サンバードが乗っ取られた」などと言ったら協力してくれたかもしれない。

 いや、サンバードは最初から人工精霊を自らの肉体に受肉させるつもりが満々だったようだから、協力してくれない可能性も十分にあっただろう。

 ならば、こうして妨害される前にフサインとアイラの2人が倒してくれてよかっただろう。


「───何者だ、お前は?サンバードの手下か?」

「いえ、元サンバードです」

「元サンバード...」

 フサインは、納得できていないようだった。だが、人工精霊だという可能性に行き着くのは時間がかかるだろう。俺達だって、カゲユキがいなければ理解することができなかっただろう。

 まぁ、俺に人工精霊に対しての知識が無さすぎるってのも理由の中にあるかもしれない。


「まぁ、いい。『憑依』かなにかか?」

「人工精霊です」

「人工精霊...」

「え、もしかしてフサインさん知らないんですか?」

「すまない。時事に詳しくなくて...」

 首を傾げているフサインに対して、アイラが若干呆れているような目で見ていた。悠長な会話はできない状況だけれども、人工精霊云々の話は大切だからしてもいいだろう。

 それに、キリエ・ショコラティエは攻撃されない限り反撃してこない。


「読んだことないですか、昔話。有名のだと『サラマンダー』とか」

「あー...あの人工精霊か...あの人工精霊!?強敵じゃねぇかよ、おい!」

 フサインは、人工精霊を理解したらしく驚いたような声を出す。


「やっとわかってくれましたか...」

「んまぁ、お前が強敵なことわかった。こうしてリューガ達が倒れてるのもその証明だな」

「それで、アナタはどうしますか?皆さんのように一瞬で負けますか?」

「んや、一瞬で勝つさ。俺の胸の感情は、昂ぶるばかりだ」


「感情とはなにか」


「「───」」

 刹那、キリエ・ショコラティエの問いかけに答えることはなく、フサインとアイラは俺の目の前で倒れる。俺は、倒れてくるフサインに潰されそうになったものの、なんとか当たらなかった。


「感情とはなにか、私はわからない。沈思黙考しなければ、沈思黙考しなければ...」

 キリエ・ショコラティエのその言葉は、静かに響く。それと同時───


「助太刀遅れた。失礼するよ」

 そこに現れたのは『チーム一鶴』のツートップ。バトラズとモンガの2人であった。

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